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『労働2.0』
中田 敦彦(あつひこ)
PHP研究所
1400円 + 税
2019年3月刊

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著者は、もともと「お笑い」の人だったんですね。テレビのない所にいる私は知りませんでした。と言っても刑務所にテレビがないわけではありません。受刑者の部屋には、ちゃんとした薄型の壁掛けテレビがあります。私のように工場に出ないで朝昼夜とずっと一人でいる(作業も余暇も)者には、テレビがなく(ありがたい。刑務所でのテレビは、みんな20m先に届くくらいの大音量で視聴しているので、私は具合が悪くなります)、ラジオのみなのです。

前振りが長くなりましたが、本書は、

「働き方」「仕事への考え方」

を中心とした書でした。

サブタイトルに、「やりたいことして、食べていく、才能がなくても、楽しく稼げる」とあったのですが、皆さんの参考になる点も多々あるということで紹介します。

冒頭に、会社・仕事に対する愚痴につき、そういうことを口にしている人は会社を変えられませんとあり、ではどうすればよいのかという展開になっていました。考えることは、

自分が事業を始める

ということです。著者は、

「自ら会社を立ち上げて経営すればしたいことができるのに、なぜわざわざ「雇われ側」という制約のある場に身を置いて不満を言うのですか?」

と読者を挑発します。そして、さらに、

「いい会社に入っていい待遇で働きたいとは思うのに、自ら仕事を作ることは考えつかないのです。これが今、日本で働く人々の足かせになっていると私は感じます。さらに、この視野の狭さは、自分の可能性を見落とすことにつながります。結果的に「働き方」の選択肢も大いに狭(せば)めてしまうでしょう」

という結論に導いています。著者が提唱するのは、

「一つの職種、一つの会社、一つの場所にとらわれないこと。一つの場に「雇われる」だけでなく、「雇う」視点も取り入れ、随時変化と進化をしながら「やりたいこと」を実現させて食べていくこと、そんな新時代の働き方を、私は「労働2.0」と名付けたいと思います」ということです。

以下各章ごとに、

やらされ仕事で、一生を終えるな!
やりがい至上主義、コンテンツ至上主義にとらわれるな!
やりたい人×できる人が奇跡を起こす!
プロ崇拝などナンセンスだ!
時代を読み、利益を生み出せ!

と並べ、具体的な考え方、実行方法について述べていました。最初のステップとして、

自分は組織の「歯車」だと自覚する

とあり、その歯車という立場で、目の前の仕事に最善を尽くすこととしていますが、正論です。資本家、経営者が偉い(上位にいる)のは「リスクを負う」からと、まっとうな意見を示していましたが、このこと、日本では特に無視されています。

マルクス主義では、労働者は「搾取(さくしゅ)される対象」ということばかりが強調されていますが、資本家は、

自ら資本を投じて、経営のリスクと、雇用した人に賃金を払う責任

を負っているのです(このあたり、『迷宮』でも述べましたが)。

著者は人材について、

    1 言われたことをちゃんとできる人
    2 言われたことをできない人
    3 言われていないこともする人

と分けていますが、クビにならない範囲で指示された以上のことをやれと述べています。他にも、

とにかくやってみる
物の売り方を徹底的に考えてみる
自分の武器とは何か考えてみる
みんなに喜んでもらう

などなど、言われてみると「そうだよな」と感じる(だけど、やっていない)言葉が列挙されていました。

小さな成功体験の積み重ねがコンテンツを強化する
すごい武器はいらない。足元の石を拾って投げろ!
何をやりたいのか?なぜ、やりたいのか?
そこそこの個性が組み合わさると、逸材に化ける

本書は、現在の仕事を続けていくというより、これからの複線時代(仕事を複数持つ)に備えての参考書、あるいは自己と社会の流れを見る、分析する上でのヒントになる書です。全てに賛同するものではありませんが、あたりまえのようで、なかなか適当な言葉で表現できない、そういうことがうまく表現されている点も有益でした。

ここで私事について述べますが、私はあのエキセントリックなオヤジの影響で、子どもの頃から、将来は自分で何かをするのが当然と考えていました。会社勤めをすることは微塵も考えず、ただ、何をすればいいのかのみが問題でした。

当ブログの『仕事について』の初めにあるように、世の中の仕組みや、どんな職種があり、その仕事をしている人たちは何を考えているのか、その仕事の長所・短所は何かなど、微細に尋ねるためにも、営業(セールス)を長くても3年間という時間限定で選んだのです。3年間は1日も休まず働く、自分の実力と根性がどの程度なのか試すことも目的にありましたが、3年経って選んだ職は、オヤジと同じ金融業(しかも、客層も同じ中小企業相手!)でした。

あの何でも強圧的強制的なオヤジは、私に自分の会社を継げとは一度も言わなかったのですが、私が金融業をすることにしたと挨拶に行ったあと、周りの人に、

あいつも金貸しか

と嬉しそうだったと聞きます。

私が金融業を選んだのは、時間的に自由であったこと(相手の都合に左右されることが少なく、中小企業相手では多くが銀行が閉店する午後3時で終わることもあり)、それで本がたくさん読めるぞ、ということが主因になっていました。

中小企業相手の金融屋は他にもたくさんいて、私は自社の付加価値について考えています。まずは、客が気分良く、金を借りられる(従来のように、貸してやるんだという上から目線ではなく、△△さんが借りて利子を払ってくれるからメシが喰えます、という対等かつフレンドリー(不良債権にならぬかぎり。また、そうなっても誠実な人にはあくまで親切、仏(ほとけ)の美達さん、そうでない人には鬼・悪魔の美達さん)、そして、何で金が要(い)るようになったのか、経営診断(コンサルティング)、販売戦略立案、売掛金などをプロ(私の会社)が回収してやるなどして、サービスに努めたのです。結果として、金利が同じ、あるいは私の所が少々高くても客は来てくれました。

学生時代から常に考えたのは、

自分の個別性、他者との差異

でした。学生時代の「商売」は独占事業でしたから(中学時代は各中間・期末試験の出題傾向についてのレポート、つまり「ここが出るぞ!」のガリ版刷りプリントの販売です。他に中古レコード仕入販売、高校時代は服の仕入販売、レコード、本、バイク、バイク用品、車、車用品、他、「腕」(用心棒及び刺客!?)も売っていました)、それほど他者(社)を意識することはありませんでしたが、社会に出たあとはそれを絶えず考え、美達さんの所、美達さんでないとダメです、というようにしていったのです。

どんな仕事も(今の刑務所の単純作業でも)、自分に代替できる人間はいないのだというようにやってやる!という意気込みで生きています。歯車なら、なかなか代替できない歯車であるべきということです。

仕事には、その人の全人格が表れています。そこには勤勉性、誠実さ、物の見方など、他者からよく見えるように繕っていても、長く見ていれば、自(おの)ずとわかるものです。そして何よりも自分自身がよく知ることになります。

勤勉性で言えば、幼い頃からオヤジを見てきたのが幸(さいわ)いでした。この人、尋常ならざるエネルギーと意思の塊で、疲れることや妥協を知りません。疲れたとか、そんな言葉、態度も一切なく、核融合エネルギーのような人でした。私にすれば、こいつの息子なんだから俺もできてあたりまえだよなという思いで生きてきましたが、その点、感謝しています。

少なくない人が、現在の仕事に不満を持っているのかもしれませんが、仮にそうであっても、

まず、目の前の仕事に没頭する、最善を尽くすこと

をモットーにしてほしいです。それができないなら、次の仕事、他の仕事をしても、ろくなもんにはなりません。自分がやる以上は、どんな仕事でも自分らしさを十分に発揮してやる、懸命にやれないことについては愚痴・文句は一切言わないという気概です。もっとも、愚痴は不要のものですが。

働くことについては、

『仕事について』

で大体は述べています。読んだ人も含めて、再読してみてはどうでしょうか。本書、ヒントはありました。

『労働は生命なり、思想なり、光明なり』
(ビクトル・ユゴー)

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