Q&A2077 妻45歳、夫乏精子症(精索静脈瘤術後、gr/gr欠失) | 松林 秀彦 (生殖医療専門医)のブログ

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Q 45歳女性、2017年末に結婚

それまで妊娠については検討もしたことがありませんでしたが、結婚を機に子供が欲しいと思うようになり、検査したところ、ヒューナーテストで精子がまったくおらず、男性不妊専門医を受診し乏精子症と診断、精索静脈瘤も併発していたため静脈瘤の手術を2018年9月に行いました。女性の採血結果:E2 20.4、LH 5.08、FSH 9.68


 私の年齢も高齢であったため、手術を待たず7月にクロミッド、フォリルモンを使用しての刺激で卵子を6個採卵、顕微授精を行い3個胚盤胞が得られました。タイムラプス培養5日目でS4AB(2細胞期時多核あり)、S4AC、S4AB(2細胞期時多核あり)の3つの胚盤胞を凍結でき、2018年10月にS4ACグレードの胚盤胞をアシステッドタッチングありで移植しました。しかし結果は陰性。hCGは全く上がっておりませんでした。年齢について厳しいものがあるのはわかっているつもりでしたので後悔したくないと思い、看護師の職も退職し治療に専念するつもりです。しかしながら金銭面でも厳しいものがあり、良いと思われるものはできるだけ取り入れますが悪いと思われるものはできるだけ排除したいところです。


 質問ですが、胚盤胞まで育ったこと自体期待できるものでしょうか。胚盤胞まで育ってはいるが染色体異常があり自然淘汰されているレベルなのでしょうか。子宮内膜は厚すぎるほどで、今回は(残りの2つを今月移植する予定)内膜を少し薄くするように薬剤を調整すると主治医は言っておりそのようにしています。私はもともと鉄欠乏性貧血があり、鉄剤を内服しないとHgb 9点台です。この貧血は着床に関係ありますか。鉄剤を内服する場合、市販のサプリメントでもよいでしょうか。または処方薬フェロミアの方がよいでしょうか(フェロミアを内服すればHgb値は12点台まで上がります)。


 また、施設によって受精した卵を培養する培養液で妊娠率/出産率が変わる、という噂も聞きます。45歳以上で出産している人はほとんどがあるクリニックで治療しているとも。これは症例数が多いため起こることなのか、経験数が多ければやはり成功率も高いのか、、、悩ましいところですがお聞きしたいです。
 

 胚盤胞になっていても染色体異常による自然淘汰と書きましたが、ここにはAFZc領域欠失(Ym-12gr/gr欠失)は関係していますか(精液量3.2ml、精子運動率15%、正常形態率1%、生存率52%、SWAT(15)3mm/15m、SUT運動率38%)。TESEを考慮した方が良いのか、その方が良い精子が得られるのかもお聞きしたいです。精巣静脈瘤の手術を日帰りで受けましたがその際もかなり「手術」というものに対し拒否が強く時間がかかりました。現在のところTESEは現実的ではない気がしますが、そのほうがかなり成績が違うとなれば検討の余地があるのではないかと思っています。

 

A 45歳の女性では胚盤胞にならないことも少なくありませんので、まずそこはプラスに評価して良いでしょう。染色体異常の有無はPGT-Aを実施してみないとわかりませんが、外国のデータでは45歳での染色体異常率が84.3%ですので、6個に1個が正常です。子宮内膜は7.0mm〜20.0mmが良いとされています。また、貧血と着床の関連はありません。

 

施設によって成功率が大きく変わる事実はあるようです(日本では施設毎のデータ比較は公開されていませんが、米国では第三者機関がデータ比較を公開しており大きな違いがあります)。gr/gr欠失、約1.5Mbの大きな欠失にもかかわらず欠失遺伝子がなく、臨床的障害を惹起しないと考えられており、日本では約30%の男性に存在し妊孕性に影響していないとされています。このような場合には、射出精子で結果が出ていない方のみTESEを考慮しても良いでしょう。現在凍結中の胚盤胞を移植しても結果が出ない場合にはご検討ください。

 

下記の記事を参照してください。

2016.8.9「☆女性の年齢別染色体異常頻度 その2

 

なお、このQ&Aは、約3ヶ月前の質問にお答えしております。