意思による楽観のための読書日記

地面師 森功 ****

五反田の旅館の土地を巡る55億円の土地売買契約詐欺、通称「地面師」と呼ばれる一味による犯行と大々的に報道された事件で、「大企業がなぜ騙された」と思った人は多いハズ。本書はその手口と最近の地面師による土地売買詐欺を紹介している。2018年12月4日というタイムリーな発刊。

地面師による土地売買詐欺の手口では、土地所有者が高齢になり相続人がいないケース、認知症になっているケース、海外に行っていて長期不在などの土地が狙われる。古くは戦後間もない時期に空襲などで土地の登記書類などが不明になり、土地所有者が曖昧になった時代に暗躍した詐欺師たちが地面師の始まり。法務局は持ち主の本人確認では印鑑証明によるが、人手不足の時代には書類のでっち上げは容易だった。その後の1980年台の土地バブルが次のピーク、今は第三のピークが来ているという。狙われた土地の所有者になりすました地面師は印鑑証明の印影変更手続きから始める。捏造したパスポートか運転免許証を提示すれば役所は通常は本人確認ができたとして、印鑑証明の印影変更に応じてくれる。そうすれば、その後は正式な印鑑証明書が偽の印鑑でも発行されるので、本当の所有者さえ気づかなければなりすましが容易になるという。

「積水ハウス事件」、史上空前の55億円という被害額に驚く。手配逮捕されたのは地面師としてはその「業界」では名うての詐欺師たちだという。首謀者の小山(カミンスカス)操、内田マイク、北田文明は大物地面師、取引窓口になった生田剛、地主のなりすまし役の羽毛田正美、羽毛田を手配、教育した秋葉紘子、その他書類偽造の「印刷屋」、振込口座を用意する「銀行屋」などが主たる登場人物で、弁護士や司法書士などの「法律屋」も地面師御用達のグループである。被害にあったのは積水ハウスで土地所有者は旅館「海喜館」の海老澤佐妃子さん、五反田駅至近の旅館は600坪、再開発をすれば評価額は100億円になる。長らく営業しておらず、地面師たちに狙われた。積水ハウスがニセ地主に支払った額は63億円、最終的な損失は55億円だったと発表。旅館の廃業は2015年で実母から相続した所有者が経営不振のため営業中止、既に古希を迎えていた所有者が町内会に顔を見せた最後は2017年2月、病気入院したためだった。地面師たちは2016年12月に旅館脇にある駐車場を海老澤さんから借りる契約をした。契約では貸主の個人情報や印鑑証明書情報が得られるため、10万程度のお金で住所、生年月日、電話番号、実印印影などを知ることができる。その上で、休眠会社を買い取り、不動産取引をしても怪しまれない社名に変更、銀行口座設定を都内の渋谷支店とした。地面師たちは何社もの不動産業者に取引を持ちかけたが、なりすましを疑われて成約にはいたらなかった。不動産業界では地面師を警戒して、所有者のパスポートなどをコピーし近所に確認して回ることは常識的に行われているらしく、それでバレたという。そこで、一度、IKUTA社という会社に売買したことにして所有権を仮登記して移転させる。

契約直前には積水ハウスに「本取引は詐欺、所有者の海老澤は偽物」という手紙が届くが、積水ハウスはそれを詐欺師グループに示し、その手紙が偽物であることを証明する書類を作成させた。つまり、積水ハウスは契約締結まで偽物を信じていたという。加えて、積水ハウスは土地取引と合わせて自社が販売するマンションを偽の所有者に販売しようとしていて、取引総額70億円、マンションの内金が約7億円、騙し取られたのが63億円となった。積水ハウスが主張するのは55億円、差額の8億円は不明金であるが、なぜか積水ハウスはその理由を明らかにしておらず、そこには社内の勢力争いも絡んでいるのではないかと筆者はみている。事件から半年後の2018年1月には取締役会議長和田会長から、詐欺事件の責任者として阿部社長の解任が提案されたが、会長の事前根回しが不調に終わり、逆に和田会長の解任動議が阿部社長より提案され議決されてしまう。阿部社長はこれに先立ち2017年12月にマンション事業本部長を務めていた三谷常務を更迭、若手の仲井常務に社長昇任を約束していた。地主の海老澤佐妃子さんは2017年6月に死去、犯人たちは逮捕されているが騙し取られた55億円は闇の住人に分配されすでに「溶けてなくなって」いるため、取り戻すことは難しいという。

地面師による土地売買詐欺事件は過去にも何度も摘発されているが、逮捕され起訴、有罪まで持ち込めるケースが多くないのは、土地の所有者が不明、相続人がおらず該当する不動産権利が国庫に入るケースが多いこと、善意の第三者を挟むことにより、事情を知らない第三者から土地の権利を取り上げられないこと、などから警察が積極的に動かず、訴訟を起こす被害者がいないケースも多いため。2014年に完成した通称マッカーサー道路わきの新橋5丁目の評価額12億円の土地取引では所有者死亡、最終的な買い主はNTT都市開発、12億円は地面師たちに渡ったが、犯人は摘発されていない。同様に、富ヶ谷井ノ頭通り沿いの147坪の物件は、被害額6億5千万円が地面師ではなく雇われた弁護士に賠償請求され判決が確定、地面師は摘発できていない。赤坂二丁目114坪の駐車場土地売買では、土地所有者が92歳と89歳の兄弟で施設入所、地面師に雇われた老人二人が兄弟になりすまし、ダイリツ、クレオスという中間業者を間に噛ませて、アパホテルが12億円以上の被害にあったが会社広報部はコメントを拒否。二人のなりすましは逮捕されたが10万円で雇われたとして、しかも記憶が薄れていてよく思い出せないと供述。関係者も逮捕されたがすぐに釈放、その後彼らは積水ハウス事件に関わる。

かくのごとく、地面師は何度も何度も詐欺を繰り返すが、そのたびごとに手口を考え、役者を入れ替えて騙せる相手と物件を探し続けている。警察も捜査はしてもなかなか本命にたどり着けないように複雑な手口になっているところが地面師詐欺師たちの常習手口。街の不動産業者よりも大企業の担当者たちが騙されているのは、担当者の経験不足と責任管理体制の不備。今後は高齢化が進み、人口減少も相まって都会不動産で相続者がいないケース、いても施設入所、入院などで土地の権利確認が出来ないケースなどで詐欺のネタには事欠かないだろうと予測される。デベロッパー、不動産業者はプロのはず、どうしたら騙されないか、チェックポイントは、なぜ相手は急いでいるのか、売買競争相手はいるのかなど準備できることは多いと思うが、恥ずかしい詐欺事件を表面化したくない企業がどのように対応できるのかがポイントなのかも知れない。不動産売買や相続は、高額であればあるほど狙われている可能性があり気をつける必要があるというのが教訓。

地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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