a letter from Nobidome Raum TEE-BLOG

東京演劇アンサンブルの制作者が、見る、聞く、感じたことを書いています。その他、旅公演や、東京公演情報、稽古場情報など。

TEEリレートークVol.4 「小屋の思い出~若気の至り」 町田聡子

2018-10-17 21:41:43 | 劇団員リレートーク
前回の松下くんの投稿を受けて。

ブレヒトの芝居小屋のタッパの高さは貴重ですよね。
劇団に入りたての頃、高校演劇部の顧問であり、演出家でもあった恩師が「あの劇場はいんだよ~。なんせタッパあるもの~。」と口にしていたことをよく覚えています。まだよそを知らなかった当時の私にはあまりピンときていませんでしたが、その実にうらやましそうに言う先生の表情から『タッパ』という言葉と、その価値についてだんだん意識するようになりました。


松下くんの投稿では雨の話がありましたが、演劇って役者以外のところにも生まれるし、時に生み出すように仕掛けをつくります。それはとても大変ですが、そういう一瞬の風景というかハッとしたりぐっときたことについて、個人個人のこだわりについて感じたことを聞いたり話すのがとても好きです。それはお客様に限らず劇団員同士でも。例えば桜が舞い上がって踊るさまだったりスモークがあがって消える姿だったり、その果てをどこまでどう味わうかは観る者の自由なんですよね。そしてその味わう時間をとれるほどの空間、高さがあるというのは、生物(なまもの)である演劇をやるには本当に理想的な贅沢な小屋なんだなぁと思います。


様々な演出効果の仕掛けを仕込む天井の『キャットウォーク』は、照明班でもある私にとって馴染みの深い場所です。自分自身が落ちかけた経験もあるため、今ではその高さがイヤというほどわかるのですが、上で作業するたび思い出すことがあります。これもう時効だと思うんですが……。劇団入ってすぐにチェーホフの『かもめ』の公演がありました。ある日満席で入れなかったのか忘れましたが、ちょっとノリの軽い先輩が「上から見れば~~」とやさしく声をかけてくれました。そして連れて行かれたのがキャットウォーク!はっ?上って、真上?!とは当時思わず。わーい!と無邪気に『かもめ』の円形舞台の真上からずっと見下ろす形で芝居を観ていたわけです。大御所の先輩たちだらけである本番を、です…。ほんっと、何もなくて、良かった……。(バレなくて…良かった…。)でもとにかくすごく夢中になって観ていたことと、当時の芝居への好奇心に溢れていた自分の感情は、今でも大切にしたい思い出です。


自分が役者として立つ場所としては、私にとっては恐ろしい空間だったといえます。若い頃さんざんタリさんに怒鳴られた時の感情とセットになっているのかもしれませんが、それだけでなく。昔、芝居小屋で何度も主演経験のある先輩に「なぜかうちの芝居小屋で芝居するのが一番緊張するんだよね。」と聞いたときにはホッしました。私もそう思っています。観客数の大小とか芝居の評価とか関係ないんですよね。本番でも稽古でも、この小屋で芝居しているとものすごく人と接近してる感じがするのです。その『人』とは誰なんでしょう。観客でも共演者でもなく、やっぱり自分自身なのかなと思います。めちゃくちゃ自分を見てる自分を感じるって怖くないですか?

と、すみません、変な文章になってきてしまいましたが、とにかく隙のない空間でした。
来年新しい場所に行ったら当然今までとは違う空間と時間が始まってゆくのだと思います。


「それがなんであるかを見るのは、みんなだよ。もちろんぼくも見るがね。」(フルガンツィオ『消えた海賊』より)

不安もいっぱいですが新しい物事との出会いと何を作り出せるかを楽しみにがんばっていきたいと思います。
引き続き応援よろしくお願いします❗
コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« TEEリレートークvol.3 「い... | トップ | ブレヒトの芝居小屋 スープ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿