「エイリアン、故郷に帰る」の巻(39) | 35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

35歳年上の夫は師匠でエイリアン! 

【夫】台湾人 × 【妻】日本人

国際結婚? いえ、惑際結婚ですから!

気がつけば2男1女。

あの男を見ていると、とても同じ人類だとは思えない。
漢方薬を水なしで飲めるなんて
一体どんな味覚をしてるんだ、あのおっさんは。

「エイリアン、故郷に帰る」の巻(38)

 

 

 

 

 

「あの後、大丈夫だったかって。

ちゃんとホテルに帰って、眠れたかって心配してる。」

 

 

 

 

 

 

バオメイが、義姉の

言葉を私に伝える。

 

バオメイは、先生の末弟

ファンツンの奥さんだ。

 

 

 

義姉は不安そうな

表情をしている。

 

 

 

 

 

やかましい。

 

あんたこそ大丈夫なのか。

人として。

 

本当に私のことが心配だと

言うのなら、今すぐ田舎に帰れ。

 

二度と戻って来るな。

永久に引っ込んでろ。

 

 

 

 

 

こう思ったけどね。

心底。

 

 

でも。

幸か不幸か。

 

筆談であっても、それを伝える

語学力が私にはなかった。

 

 

それに。

 

こんな因業ババア。

もうどうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 

義姉相手に

怒り狂った次の日。

 

 

午前11時からの

ICUの面会時間の前。

 

前日と同じ部屋の中。

 

 

そこには、義姉とバオメイ、

それに、スーイエンもいた。

 

スーイエンは、すでに亡くなった

先生のすぐ下の弟、

ツーションの奥さんだ。

 

 

 

どうやら。

 

私が部屋に入った時は、

義姉が前日の顛末を

ふたりに話している最中らしかった。

 

 

 

 

スーイエンが、大きく目を

見開いて、私を凝視する。

 

 

「信じられない」

「驚いた」

 

 といった表情だ。

 

 

 

 

 

 

ははは。

見世物じゃねえぞ。

 

「信じられない」のも。

「驚いた」のも。

 

こっちの方だ。

 

 

 

 

 

 

台湾の、年長者を敬う文化からすると、

私の行動は到底考えられないものとして

映ったのか。

 

それとも、ただ単に。

 

私が暴れたことに対しての

驚きだったのか。

 

 

あるいは両方か。

 

もしかしたら

他の何かか。

 

 

 

まあ。別に。

何でもいいけど。

 

どうせ珍獣扱いされるなら、

もっと暴れておけばよかった。

 

 

 

 

 

 

これは、後から

分かったことだが。

 

どうも。

 

義姉は、自分の発言を悪かったと

思っていたわけではないらしい。

 

単に。

 

私が怒って暴れ出すと思って

いなかっただけなんじゃないだろうか。

 

私の反応が予想外で、そのことに

驚いただけだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

これでもかというほど

人の心を傷つけても。

 

 

反省も後悔もなし。

 

 

まあ。

無理もない。

 

相手がどうして怒っているのか、

その理由すら理解できないんだから。

 

 

 

 

反省だけなら、サルでもできる。

 

 

 

 

昔、こんな言葉が流行ったが。

 

 

 

 

じゃあ。

義姉は、猿以下なんだな...

 

 

 

 

 

半世紀を優に超え、更に数十年

生きてきた結果があれなのか...?

 

いや。

 

それだけの年月を生きてきた

からこそ、ああなのか...?

 

 

いずれにしても。

私にとって。

 

華々しいほどの反面教師で

あることだけは間違いない。

 

 

 

 

よく今まで誰にも殺されずに

生き延びてこられたな。

 

きっと。

 

殺される前に、

殺してきたに違いない。

 

 

私のときのように。

 

 

無意識に。

悪気など一切なく。

 

ただ、ただ。

その都度。

 

自分の常識にのみ

忠実に従って。

 

 

 

 

 

 

あの日。

 

私の中の何かが死んで、

今もそのままだ。

 

それが何だったかを考えてみても、

今でも、はっきりと言葉で表現できる

答えは出ないが、涙は出る。

 

 

誰かの暖かい手から

伝わる温もりのような。

 

その温もりからもらう

安心感のような。

 

 

そんなような、

何かだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ドクターはね。回復しても

脳に障害が残るだろうって。」

 

 

 

 

 

バオメイが言う。 

 

 

 

どうやら。

先生の状況に関して。

 

私以外の親族は、私が知らされていない

さらに踏み込んだ情報を

ドクターから得ているらしい。

 

 

私は別段、そのことに

怒りもショックも感じなかった。

 

 

 

ドクターが私に言わなかった

理由も分かるように思う。

 

 

 

すべてを私に伝えたところで、

師匠の病状が良くなるわけでもない。

 

私が更に不安になるようなことを

わざわざ知らせる必要はないと

気遣ってくれたのかもしれない。

 

 

 

ただ。

 

先生の今後の治療の判断材料として

必要な情報ならば。

 

それが、どんな内容であれ。

 

きちんとすべてを聞かせてもらった上で、

どうするべきかと相談してもらいたい。

 

 

 

私には、そうしてもらう

権利があるはずだ。

 

 

 

藪から棒に。

 

誰かに、手前勝手で殺人的な

意見を押し付けられそうになる

その前に。

 

 

 

 

私は、いい年をしている。

 

きちんと順序立てて

話さえしてもらえれば、

 

あんなに怒り狂う必要なぞ、

どこにもなかったのだ。

 

 

 

現に。

 

私は、バオメイの言葉を聞いても、

取り乱したりはしなかった。

 

確かに、ショックな内容ではあった。

 

でも、知っている情報を

共有してくれたことに感謝した。

 

 

 

 

それに加えて。

 

たとえ、心中どう

思っていたとしても。

 

 

バオメイやスーイエンが

私に対して、

 

ああすればいいんじゃないか、

こうすればどうかと

言うのでもなければ、

 

自分ならこうするなどと、

仄めかさないところも

有難く思った。

 

 

 

 

 

 

 

まったく。

 

義姉は、私のことを

何の判断もできない

子供だとでも思っているのか。

 

それは、あんたの方だ。

 

いや。違った。

義姉は猿以下だった。

 

 

少なくとも猿レベルに

進化するまで、山にでも籠ってろ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生。良くなっても、脳に障害が残るんですって。

そうなったら、先生のお世話をするのが大変でしょ?

だから、このまま死んでくださいね?」

 

 

 

 

 

 

 

こう考える弟子が、

一体どこの世界にいる。

 

綺麗ごとを言うつもりなど

さらさらないが。

 

でも。

 

こんな弟子は、

弟子ではない。

 

 

 

 

 

 

 

私たち夫婦の間には、

色々あった。

 

 

夫としての先生、

父親としての先生には、

随分と手を焼いてきた。

 

数え切れないほど、泣いた。

ときには、歯を食いしばって。

 

 

 

でも。

 

私は、師匠としての先生を

ずっと尊敬してきた。

 

どんなにひどい

喧嘩をしたときも。

 

もう離婚だと

息巻いたときも。

 

先生への尊敬だけは、

変わることがなかった。

 

 

 

 

私自身。

 

そんな自分をどれだけ

苦々しく思ってきたことか。

 

 

どんなに腹の立つ

ことがあっても。

 

 

あのおっさんに対する尊敬だけは、

私にこびりつたまま、離れない。

 

 

 

 

 

 

ええい。

 

この忌々しい

地球外生命体め。

 

頑固で。我儘で。

独り善がりで。

 

まるで、白髪が生えた

イヤイヤ期の園児みたいなくせに。

 

なんで治療家としてだけは

一流なんだよ...

 

少しはバランス取ってくれよ...

 

 

 

 

 

 

何度こう思って、

頭を抱えたか分からない。

 

惨めで。

情けなくて。

 

 

 

 

 

それでも。

これから先。

 

もし。

 

夫としての先生、

子供たちの父親としての先生と

縁が切れることがあったとしても。

 

師匠としての先生とだけは、

一生縁を切りたくない。


願わくば、

切られたくない。

 

 

 

 

 

私にとって、先生は。

 

夫である前に。

子供たちの父親である前に。

 

まず、師匠なのだ。

 

私たちの関係は、

そこから始まっている。

 

私たちの原点であり、核心だ。

 

 

 

 

 

 

先生は、無条件で

私を弟子にしてくれた。

 

 

それまで、弟子を

取ってこなかった先生が、

 

 

 

 

 

 

「いいよ。」

 

 

 

 

 

 

少し笑顔を見せながら、

こう言って。

 

 

 

嬉しかった。

 

 

 

あの日のことは、

よく覚えている。

 

 

 

 

 

 

だから、私も。

 

師匠の命に条件を

つけることはできない。

 

 

脳に障害が残ろうが。

残るまいが。

 

 

先生は先生だ。

 

 

 

 

 

 

 

甘いね。

 

そんなことは、

世間知らずの言うことだ。

 

 

 

 

 

 

 

こう失笑されるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

まあ。

それも仕方ない。

 

実際、そうなのだろう。

 

 

 

 

でも、私は。

世間知らずだからこそ。

 

35歳も年上の、幾重にも風変わりで、

念には念を入れて珍妙なおっさんと

国際結婚したのだ。

 

 

挙句に。

子供を3人もうけている。

 

 

 

 

そう。

 

世間知らずは、

私の十八番だ。

 

 

今さら誰かに

教えてもらわなくても、

 

そのことは、自分が

一番よく知っている。

 

 

 

 

 

 

 

師匠が風変わりで珍妙なら、

弟子は天邪鬼なスナフキン。

 

見事なまでの類友だ。

 

 

 

 

 

いくつになっても

イヤイヤ期の園児と。

 

世間の尺度からズレまくった

短気で皮肉屋の人生無計画女。

 

 

 

 

 

こんな二人が

師弟で夫婦なんだから。

 

 

周りが理解に苦しむのも

無理はないのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

だから。

分かってくれとは言わない。

 

 

ただ。

 

尊重してもらえたら

それでいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

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