あとがき~八幡太郎義家の場合~ | 輪廻輪廻

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歴史の輪は巡り巡る。

 「頼信の妻」をお読み頂きありがとうございました。夏芽です。

 このお話は命婦から見た頼信の姿を描いたため、頼信のサイコなエピソードが丸々カットされております。本文では、まるで頼信がいい人のように描かれていますが、実際はいい人じゃないです(苦笑)。

 「今昔物語集」の平貞道へ殺人を命じる話など、本当は書きたかったんですが…。

 

 さて、頼信、頼義と来たら次はいよいよ、八幡太郎義家ですが、私はこの人の性格を頼信のサイコパスと頼義の執着心が合わさった人物として捉えています。すると、どういう話になるかと言いますと…。

 

 「八幡太郎義家」

 

 捕らえられた藤原千任が義家の前に引き出された。残バラの髪に泥まみれの顔、体中の切り傷は、千任の抵抗の凄まじさを物語っており、千任に掛けられた縄には血がにじんでいた。

 「そなた、先日、わしに何と言ったか覚えておるか」

 義家は薄笑いを浮かべながら千任を見下ろして尋ねた。千任は血走った眼を義家に向けながら押し黙っている。義家は溜息を付いた。

 「喋れぬのなら、そなたの舌は不要であろう」

 数人の郎党が、千任を取り囲み、口を無理矢理開けようとする。千任は殴られようが蹴られようが歯を食いしばり、決して口を開こうとしなかった。

 「歯を砕け」

 義家の冷徹な言葉に、郎党の一人は金箸を、千任の食いしばった歯目掛けて振り下ろした。

 数度の振り下ろしで、千任は悶絶し、口から血泡を吐いて倒れた。郎党達は今だとばかりに千任の口の中に手を突っ込むとその舌を切り落とし、ぐったりとしている千任を木に吊るし出した。

 「わしが清原家の家人だと…」

 義家はぶつぶつと独り言を言った。彼の脳裏に浮かぶのは、黄海合戦の手痛い敗北だ。

 父、源頼義と共に安倍氏討伐に乗り出したものの大敗北を喫し、わずか七騎で逃げ回る羽目になったあの負け戦のことだ。

 命からがら逃げかえった父と自分は、安倍氏と敵対関係にあった清原氏に頭を下げて、援軍を頼んだ。

 おかげで、安倍貞任、藤原清経を討ち取ることが出来たが、国司だった父が清原氏に頭を下げた事実は義家にとって屈辱だった。

 

 あれから二十数年経ち、義家は陸奥守として清原氏の内紛に介入することとなった。しかし、義家の裁定を不服とした清原武衡と家衡は、義家と敵対し、武衡討伐の際、義家は武衡家臣の藤原千任にこう罵倒されたのだ。

 「覚えておるか!そなたが我が主家に頭を下げて慈悲を求めたことを!我らの助けがなければ、そなたの命は今日にはあらず!清原家の家人が、立場を弁えよ!」

 血が逆流するとはこのとか、義家は千任によって二十数年前の忘れかけていた屈辱を、まるで昨日のことのように鮮やかに思い出させられた。

 千任を必ず捕らえ八つ裂きにしてやると思った。だが、八つ裂きでは生ぬるい。

 「武衡の首を持て

 義家の声で、千任の足元に討ち取った武衡の首が置かれた。

 千任は水をかけられ意識を取り戻すと、足元の武衡の首に仰天した。千任は一生懸命足を縮め、武衡の首に自分の足が付かぬよう耐えていたが、ついに耐え切れず足の指先が武衡の頭に触れた。これを見て義家は大いに喜んだ。

 「これは、これは。不忠、不忠」

 主人に呼応するように郎党達もはやし立てる。

 「主人を足蹴にするとは!」

 「藤原千任はとんだ不忠者!」

 義家は屈辱と苦痛に涙を流す千任の顔を見て、心の底から喜びを感じた。

 

 

 …ギャー!こんな話書けないないですよ(書いてるけど)。勘弁してください。同じ源氏と言えども、八幡太郎義家は恐ろしや!ですよ。

 という訳で、頼信、頼義と来て、河内源氏シリーズはここで一旦、終了ということになります。

 頼義編でぼかしましたが、義家は兄弟仲も悪いですしね。ちなみに、藤原千任さんを酷い目に合わせている、後三年の役は私闘ということで、朝廷からは恩賞を貰えませんでした。義家はやり過ぎました。

 けれども義家は、戦に協力してくれた武士達に私財で報いたことにより、その後の御恩と報告に繋がる東国武士との繋がりが誕生して行くことになるんですね。歴史ってどう転ぶかわからない所が面白い所です。

 さて、次回は2017年に参加したアンソロジー「河内源氏大艦」から足利兄弟の話をアップしようと思います。

 ご購入された方も楽しめるよう、本の内容からは少し変えます。引き続きよろしくお願いします。

 

夏芽