鈴木の錬金術師(再)

彼が錬金術師の道へと進んだのは、ある軽自動車との出会いがキッカケ。

バイトしてたガソリンスタンドの常連のおじさんからタダで貰った軽自動車。
その軽自動車との出会いがキッカケ。

 

ある地方の小規模な街に住む若者。
なんか適当に生きてる適当な若者。
それが今回の主人公。
名前は江戸川(仮名)
取りあえず深い意味は無いけどエドとでも呼んでおこうか。
特にこれといった意味は無い。

そんなエドが、バイトをしていたガソリンスタンドの常連さんから軽自動車をタダで貰った事から、この物語は始まる。

 

常連のおじさんが車をタダでくれるの?
とか思うけれども、まぁ多分邪魔だったんだろうね。
ただの古い軽自動車なんだから。
乗りもしない、車検も切れる間際の軽自動車だから。
一応は乗れるけどって程度のガラクタなのだから。

タダで貰ったものの、扱いにちょっと困ったエド。
どうしよう?
こんなん貰ったはイイけど使い道が無いぜ。
でもまぁイイかと自宅の庭先へ。

エドの家は、何処とは言わないけれどとある地方都市、のさらにちょい外れ。
ストリートビューは家の前にも意外にも来てるけど、GoogleMapの航空写真の解像度は未だにちょい低い。
そんな片田舎。

東京大阪では庭先に車をポンっと置ける家もそう多くは無いだろうけど、エドの家の有る地域では割と珍しく無い。
汚い車を庭に置かれたらお母さんは怒るけど、特にそれ以外に物理的な問題は無い。
勿論、軽自動車の車庫証明なんて要らない地域。
緑の格好した駐車違反取締りおじさんなんて当然居ない地域。
そこらで緑色の人が歩いてたら、それはカッパか、自爆したカワサキ乗りの自爆霊だ。
そんな田舎町。

 

特に何に使うでも無く時は流れた。
名義変更だけは済ませてなんとなく家に軽自動車を置いたまま、車検は切れて時は流れた。
そんなある日の事、自分の車でウロウロしてる時、ふと田んぼの畦に出された看板が目に入った。

『不要車高額買取』

そんな事が書かれた看板。
マルフクと同じく田舎に良くある看板だ。

高額って幾らよ?
等と思いつつ、見積もり取ったら意外な高額。

でも大体の場合、そこから何かと査定は引かれて程ほどの金額に成るのが摂理。
虫眼鏡で見なきゃ解らない程の傷を指摘されたりして。
顕微鏡レベルの傷を親の仇かのように糾弾されたりして。

ただこの時は、意外にも意外な高額で買い取って貰ったとか。
高額買取の二つ名に偽りは無い。
まぁポンコツ軽自動車なんて高額と言った所でどの道二束三文だけど、タダで貰った車なので幾らかになればそれだけで利益なのだ。
電話したら出張で査定してくれて、お金は銀行に振り込まれて、車も業者が持ってってくれて、書類上の手続きもしてくれるんだから何の手間も要らない。

一体幾らに成ったのかは知らないけど、元がタダだから1000円でも悪く無いと思う。
一日牛丼一杯で過ごせる人なら3日は生きれる額だ。
一日ガリガリ君一本で過ごせる人なら、なんと二十日も生きれる額(@50円にて換算)だぞ。
1000円で楽しむべー。

でも、タダで貰ったのに1000円所では無い、王将の餃子なら100人前以上にも成る高額での売却に成功した軽自動車。
申し訳無いからと元の持ち主にも幾らかのおすそ分けをしたんだってさ。
エド、中々に律儀な奴。
でも決して等価では無い。
エド、中々にセコい奴。

 

で、次に手を出したのはヤフオク。
ヤフオクで何かを買い、それをまた同じヤフオクで売ると言う良く分からない、なんか凄く面倒そうなビジネスを始めた。

バカじゃ無いか?
等と思うかも知れないけれど、幾つかの手順と幾つかの手間を掛けたら、これが意外と儲かったりするらしい。
らしいって言うか、そもそも考えたのは私だ。
私は面倒くさいからやらないけど、意外と儲かってるみたい。

やるな、エド!
凄いや、兄さん!

 

錬金術。
何百円~何千円かで仕入れた何かが、ちょっとの手間で数千円~数万円で売れる錬金術。
やってる事はとてもあやふやだけど。
でも、何度か警察署に足運んだり本買って勉強したりして古物商の許可まで取り、なんか真面目にやってるみたい。
やってる事は大変あやふやだけど、それでも大地に足着いてエドは真面目に頑張ってる。
自分の足でしっかり立って真面目に頑張ってる。
やってる事は大変あやふやだけど。

 

そんなあやふやなエドが次に手を出したのがバイクのパーツ。
金目になりそうなバイクを解体屋や何処かから仕入れて、分解して売れるパーツは売り、そうで無いパーツはアルミを分別してリサイクル業者へ。
バイクとしては売り物に成らない状態でも、アルミフレームとアルミホイールのバイクなら高額を狙える。
エンジンもアルミの塊なので、ポップナットを抜いたりしてアルミ100%に分別したらかなりの高額が狙える。
分別がまぁまぁ面倒臭いけれど、ブローしたエンジンだって大きければまぁまぁな値段に成るもんだよ。

 

ある日、バイトしてたガソリンスタンド時代に付き合いが有った自動車解体屋の親父に、ポンコツの単車が入ってきたから2万円で売ったるわと言われた。

GSX-R1100。

カウルとタンクとシートは無い、どう見ても動かないポンコツ。
書類は無いけどキーは付いてて、バッテリー繋いだら掛かりはしないもののちゃんとクランキングはする代物。
勿論盗難車では無い。
でもただのポンコツだ。

だが、基本的にゴミの廃車と言えども、そうは言っても油冷GSX-R1100。
エンジンだけでもカタナ乗りには需要は大いに有る。
足周りなんて今も大人気のパーツ。
車をスクラップするのがメインな解体屋の親父は知らないかも知れないけど、油冷の1100は価値は高いぞ。

しかもその1100は、前後マルケでリヤショックはオーリンズ、FCRとデュプレックスサイクロンと、なんとも豪勢な超高級盆栽だったのだ。
場合によっちゃ100万円にも達するくらいの改造費が注ぎ込まれた高級盆栽だ。

自動車解体屋の親父にはその価値を知る由もないだろうが、こいつはとんでもない高級盆栽だ。
なんでこんな豪華な盆栽が粗大ゴミと化したのだろう?
なんか事情が有ったんだろうか?
その辺りは良く解らない。

 

自動車を専業とする解体屋の親父からしたらただのポンコツバイクなんだけど、バイクに乗る者ならきっと解る。
これはそんじょそこらのただのゴミじゃ無い。
なんか物凄いゴミなんだって事が。
ゴミはゴミだけど、こりゃ凄い可能性を秘めたゴミなんだよと。

もしかしたらエンジンの中にも盆栽パワーが注入されてるかも知れないぞ。
ヨシムラと書かれたカムシャフトなんかが眠ってる可能性も無い訳じゃ無いぞ。
夢は広がる。
広がりまくる。

元手2万円で夢は広がる、夢は広がりまくる。
さすが錬金術師。
凄いや、兄さん!
やったな、エド!

喜びをグッと抑えて2万円を支払い家に持って帰り、そしてまたこの前の軽自動車のように庭先へと。

 

待ってろ、GSX-R1100
お前を練成してやる、大金に練成してやるぜ。

 

ノリノリのテンションを内に秘めつつ、まだ見ぬ大金を夢に見ながら遊び呆けて何日後かに帰ったある日の朝。
ん??
エドは何か違和感を感じた。
あれ??

良く見ると、否、良く見るまでも無く、忽然と姿を消してるGSX-R。
J-TRIP(自分の持ち物)のレーシングスタンドと共に、忽然と姿を消したGSX-R。
あれ??
えっと…..あれ???

そこへ奥から出てきたエドのお母さん。

「ん?ああ、ここの壊れてた単車?通りかかった廃品回収の人が買ってくれるって言うから売ったわよ、3000円で」

にこやかに、爽やかに、そして何気なく、自分が居ない間に、お母さんの手により廃品回収業者に売られてしまったのだった。
3000円で。
3000円で。

なんと言うエドワードのミス。
作業場(納屋)に仕舞ってなかった事が悔やまれる。
テンション上げ過ぎて庭先にガラクタを放置したまま数日遊び呆けたあの日の自分が悔やまれる。

 

無残にも、夢と大金の詰ったGSX-R1100は、にこやかに、爽やかに、そして何気なく、自分が居ない間に、お母さんの手により廃品回収業者に売られてしまったのだった。
3000円で。
3000円で。

母さん、ちっとも等価交換出来てないよ。
マルケ&オーリンズ&FCR付きの、或いはさらなる秘めたる可能性が山盛りだった夢の詰まった、2万円で買い叩いて来たGSX-R1100を3000円って。
3000円で!
さんぜんえんで!!
サンゼンエンってぇ!!

 

ち….畜生!!!
も…持って行かれたぁぁぁ!!!
あぁぁぁぁ!!!

 

鈴木の錬金術師
終わり。

 

ちなみに自分で定価で買ったJ-Tripのスタンドまで持って行かれたらしい。
か….母さーーーーん!!!

MOTOR CYCLE

Posted by tommy