うちまち

～２か月前～

ジメジメとした梅雨。

天気がすぐれないと、心もすぐれない。

そんな、もやもやした気持ちを解消する、テンションが上がるイベントがないものか。

ネットでイベント情報を探していると、興味深いものが見つかった。

「リーガロイヤル沖縄　シャンパンパーティー」

「会費　１万円」

シャンパン１杯千円で考えると、１０杯飲めば元が取れる。

酒飲みの友人を中心に誘ってみるが、１万円の会費を渋り、誰もが参加を見送った。

そんな中、同僚の新崎だけは反応が違った。

「いーですよ。面白そうだから行きましょう」

こうして、２人で上流階級の世界を覗きにいくことになった。


～シャンパンパーティー・当日～

会場は、ホテルの最上階。

受付には煌びやかなドレスや、スーツで身を固めた男女の姿しか見えない。

かりゆしウェアにチノパン。

なんというみすぼらしい格好で参加してしまったのだろうか。

場違い感が、半端ない。

受付を終えると、金のバンドを腕に巻かれ、シャンパンの入ったグラスを手渡された。

居心地が悪く、グラスを渡すウェイターの顔が見れない。

自分の心が、羞恥心で蝕まれていくのが分かる。

会場に入るとすぐに、壁伝いに人のいない方へ逃げていく…。

目立たないように奥へ奥へと…。

人生で初めて、ゴキ〇リの気持ちがわかった気がする。

奥の部屋に行くと、そこには似たようなラフな格好をした人達で溢れていた。

底流階級の人間は、自然にこの部屋に追い込まれてるようになっているのか？

恐るべき上流階級のシステム。

自然に所得水準による、住み分けが行われている。

ぼーっと、見晴らしのよい窓から下界を見下ろしていると、スマホにメッセが届いた。

「とおやさん、もう少しで着きますがどんな感じですか？」

「やばいです。舐めてました。セレブな男女に囲まれています」

「まじですか？スーツ着てこようかな」

「勘弁してください。仲間外れはいやーー！！」

「わ、わかりました。怖いけど、すぐいきます」

スマホをしまい、再び窓の外を眺める。

まだか、まだか、まだか、まだか…。

１人でいる時間がとても長く感じる。

そうこうしているうちに、窓の外は暗くなりはじめた。

あぁ、俺は何をしているのだろうか。

テンションを上げるためにここにきたのに、逆に下げてしまっている。

もう帰ってしまおうか。

いや、会費１万円のもとは取らねば。

シャンパンは、巡回するスタッフがどんどんグラスに注いでくれる。

もう、限界まで飲んでしまおう。


「あら、とおや君じゃない？」

振り返るとそこには、知り合いのスナックのママがいた。

「お久しぶりです」

「最近、顔出してないじゃない。今日、来てくれるんでしょ？」

「いやー、どうしましょうかね。飲み放題なので、ここで楽しもうかなと」

「何言ってるのよ。ボトルのキープ期限が来てるから、こなかったら流すわよ。そうそう、そういえばこの前は同僚の大城君が来てたわよ。彼が友達何名も連れてきていて✕✕✕が✕✕✕で、✕✕が✕✕になって…」

ママはかなり酔っぱらっているようで、話が止まらない。
よく見ると、ママの隣に恰幅の良い５０代の男性が立っていた。
おそらく、この男性がママをこのパーティーに連れてきたのだろう。
それなのに、放置してずっと俺に絡んでいる。

この状況はまずい。
早く切り上げねば…。

「すいません、ちょっと友達が来たみたいなので行きますね」

「あらそう？終わったら、お店に来るのよ」

なんとかママを振り切ると、ちょうど新崎が会場の中に入ってきた。

「とおやさん、何ですかこの雰囲気？ちょっと場違い感半端ないっすね」

「うーん、そうだね。やっぱりスーツが正解だったかなぁ」

会場は、生演奏による音楽が流れる会場で、楽しそうに談笑する人で溢れていた。

「参加してみたものの、何を楽しめばいいのか良く分からないですね」

「とりあえず料理とお酒を楽しんだらいいよ。シェフがローストビーフや、生ハムのとりわけをしていたから」

「マジですか！行ってきます」

会費を払えば参加できる会場だが、そこで楽しめるかどうかは別問題。

楽しむためにはお金だけではない、何かが必要なのかもしれない。

自分はまだ、このパーティーを楽しめるまでの水準に達していないのだろう。

そう、思いながら飲みなれないシャンパンを飲み続けた。