引きこもり支援のファイナンシャルプランナーから、行政や福祉職の皆さんへの伝言 | 社会問題に「お金の専門家」として取り組もう!福祉の分野でも活動するFP・石川智のブログ

社会問題に「お金の専門家」として取り組もう!福祉の分野でも活動するFP・石川智のブログ

誰もが「豊かに暮らせる」ように、お金の専門家であるファインシャルプランナー石川智が、様々な切り口からお話します。
発達害者支援や生活困窮者支援にも取り組んでいる、福祉FP石川智の現場の声をお届けしたいと思います。

資産運用などのアドバイスを業とするのがファイナンシャル・プランナー(以下FPと略)の仕事だという認識があるなか、FPの私が地域福祉に関わり始めたのが、おおよそ5年ほど前のことだった。

 

当時の私は地元の社会福祉協議会の人に誘われるまま、日常生活自立支援事業の支援員として週に一度ほど、地域を回ることになった。

 

この事業は、地域で単身世帯として暮らす認知高齢者や障害のある人の日常のお金の管理と見守りを「訪問」により実施する国の事業である。おそらく社協の人の思惑としては「家計管理のアドバイス」を私に求めていたのだろうと、今となっては思うのだが、支援を始めた私は、その現場に驚き、立ち尽くしたこともある。

 

最初に担当したのが、生活保護を受けていたアルコール依存症の60代半ばの、単身高齢男性であった。

 

保護費をもらうと、生活保護の友人たちと飲酒にほぼお金が消えていき、時々飲酒のお金が欲しくなり窃盗をしたりしていた。警察署から連絡があることもあったし、窓が壊れている壊れかけのアパートに住んでいるために生存確認に追われる季節もあった。

 

そんな中でも彼は「地域で暮らしていた」が、そんな現場に携わるたびに私が見ていたのは、福祉的支援を受けてこなかった人の「結果」であった。その発見されてあらわになった結果というシビアな現実は、世間一般の認識からかけ離れていて、まさに浮世離れしており、自分の住んでいる世界とは別の世界の出来事と思われることもあった。

 

ごみ屋敷の中で孤独に暮らす透析を受けている高齢男性。

最低生活費以下で暮らす一度も職についたことがない70代の男性。

そして、子供が長年引きこもっていて親がその暮らしに疲れ果ててしまっている世帯。

 

このようなケースに遭遇した時に、福祉の現場では、その世帯の「今の困りごと」を解決するために注力がなされていく。

 

例えば広く困りごとを抱えた人を支援する「生活困窮者自立支援法」の下で支援が行なわれる場合、その世帯が経済的に困っていたら、生活福祉資金を貸し付ける支援をするだろうし、治療や入院が必要ならば、その手配をするだろう。就労が世帯の困窮を解消すると判断されたら、就労支援を進めていく。

 

そのように「今起こってしまっている結果」を支援していくことは、福祉の大事な仕事であるとは理解はしているが、私にはその支援が「人」ではなく、「その状態」に向けられているように思えてならないのだ。

 

確かに引きこもり世帯へ支援の結果、すぐに今の状態が解消することも多くはないだろうし、短期間でその状態が改善することもないだろう。

そして年老いた親と今まさに過ごしている引きこもり当事者にとっては、良くない事態が将来起こってしまう可能性が高いと言える。

 

その不安を感じながら過ごしているものの、今現在「親となんとなく暮らせている引きこもり当事者」は、そのやりきれない事態が将来訪れるまで、福祉的支援を受けられないのだろうか?

 

地域福祉が「起こってしまった結果」に対応する事ばかりに気を取られていると、漠然と「将来」に不安を感じている引きこもり当事者やその親は、完全に置いてきぼりになってしまうのではないだろうか?

 

だからこそ、「人」の支援に、全力で取り組んで欲しい。

 

「そもそも引きこもっているから、そんな人がどこにいるかわからない」なんて寝ぼけたことを言う前に、「引きこもり世帯を支援する法律や制度がないから支援ができない」と言い逃れる前に、行政や福祉関係者には、今からでもできることが沢山あることに気付いて欲しい。

 

私のFPと言う仕事は、まさに「人」を支援している。

 

その「人」の想いをしっかりと受け止め、その想いをどうやって実現していくか考え、ご本人と共有し、少しずつ実行支援していき、その人の「生きる」をサポートしていくのが仕事であり、これこそがライフプランニング(=夢の実現)であるのだ。

 

行政の人や福祉職の人に是非ともわかっていただきたいのは、人はどんな境遇でも必ず夢を持てる、つまりライフプランを考えることができるということと、それを実現するには「その人」を支援しないと実現できないということである。

 

人を支援するとは、その人の「今」を受け止め、そして世帯の「未来」を一緒に共有し、今からできることを見つけ出すこと

 

何回も言うが「現状への支援」は当然大事である。

 

しかし、そこから一歩踏み込んだ「引きこもり世帯の将来」への支援の視点が持てないと、悶々としている引きこもり当事者や親とは出会うことはできないだろうし、彼らが感じ続けている「将来の不安」の源泉にはたどり着けないだろう。

 

支援のヒントをお話するならば、生活困窮者自立支援事業における「困窮者」の定義が法改正により、「経済的困窮者だけでなく、地域で孤立している人(しかけている人)」となった。

 

この制度を活用していくことで、引きこもり世帯にアウトリーチすることできるかもしれないし、アウトリーチした引きこもり世帯の不安を支援者がしっかりと受け止めて、今の困りごとの支援だけで終わらせず、他の支援機関にも繋げることができれば、少しは当事者や親の「将来の不安」に寄り添えるのではないだろうか?

 

そしてそれこそが、引きこもり当時者や親の「希望」に繋がっていく。そんな支援が行われることを地域福祉に関わってきたいち福祉ファイナンシャル・プランナーとして期待する。

 

引きこもり支援は、既に待ったなしのところまできているのだから。