2018-10-10

高畑監督、『かぐや姫の物語』のキャッチコピーについて怒っていた。


人間誰しも完璧ではありません。「天才」と呼ばれる人もどこか欠けているとよく言われます。特に、故・高畑勲監督はクセの強い人だったようです。今回は、高畑監督の気難しい一面、キャッチコピーを巡る鈴木プロデューサーとのやり取りを、書籍『ジブリの教科書19 かぐや姫の物語』で鈴木プロデューサー自身が語っておりましたので、ご紹介します。

 宣伝をめぐっては、キャッチコピーでも揉めることになりました。僕が考えたコピー は「姫の犯した罪と罰。」というものです。高畑さんが最初に書いた企画書にも書いて ありましたし、そもそも原作のテーマでもある。それ以外にはないだろうと考えていま した。ところが、高畑さんに見せるや、また顔色が変わった。そして不機嫌そうに、 「最初にそう考えたのは事実です。でも、そのテーマはやめたんですよ」と言います。
 高畑さんは宣伝コピーに対しても、独自の一貫した方針を持っています。「作品につ いて間違ったことを言っていなければそれでいい」というものです。それに照らして言 うと、「罪と罰」はやりたかったテーマだけれど、実際にはできなかったことだから、 間違ったコピーになるというわけです。 「そう言われたらしょうがない。新しいコピー案を作って持っていきました。そちらは間違っていないということで認めてくれたんですが、僕も腹の虫が収まらなかったんでしょうね。「これなら問題がないというのはよく分かりましたけど、関係者に評判がい いのは『罪と罰』のほうなんですよね」と言ってしまったんです。そうしたら、高畑さんは不愉快そうに、「分かりました。もういいです。勝手にやってください」と言いました。


ここまでは何となくクリエイターの心情として、高畑監督も言い分もわかります。しかし…話は続きます。

 それで「罪と罰」を使って第一弾ポスターを作ることになるんですけど、それをめぐってまた一悶着が起きるんです。ポスターの試し刷りをするにあたって、ひとつは原画に忠実な色、もうひとつは蛍光ピンクを入れてちょっと派手にしたものを作りました。 それを持っていくと、派手なほうを見て、高畑さんは怒りだしました。「あなたはこんなふうに作品を売りたいのか!」。高畑さんが怒鳴りまくる中、僕が黙っていると、たまたまその絵を描いた男鹿和雄さんがやってきました。高畑さんとしては我が意を得たりと思ったんでしょう。「男鹿さん、どう思いますか」と聞いた。そのとき一瞬、僕と男鹿さんの目が合いました。すると、男鹿さんは「こっちでいいんじゃないですか」と派手なほうを指さしたんです。高畑さんとしては悔しかったでしょうね。
 この問題はさらに尾を引きます。その後、制作がだいぶ進んでから、高畑さんが「あ のコピーのおかげで僕は迷惑している」と言ってきたんです。昨今は宣伝コピーといえ ども、映画を見に来るお客さんの心理に一定の影響を与えている。それを踏まえると、 「姫の犯した罪と罰。」というコピーに作品を寄せなければいけない。仕方がないから、 台詞を足すことにしたというんです。「そのことは覚えておいてください」と念を押されました。そして、インタビューを受けるたびに、高畑さんは「あのコピーは間違っています」と言い続けました。

気持ちはわかりますが…高畑監督、手厳しいですね!(笑)良く言えばストイック、厳格というのでしょうか?でも、いつまでも「あのコピーは間違っています」と言うのならば、キャッチコピーを許可しなければよかったのに!という気もしますが(笑)それだけクリエイターとして許せなかったのでしょうね。



かぐや姫の物語 サウンドトラック
久石譲
徳間ジャパンコミュニケーションズ



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