2020-11-29

アニメ業界の低賃金の原因は手塚治虫ではない?宮崎駿の手塚治虫批判に対する反論記事


以前、当ブログでは、宮崎駿監督の手塚治虫先生への思いを紹介させていただきました。
そこには、尊敬と影響を認めつつも、アニメに対してやったことは許せないという思いが書かれていました。しかし、これは宮崎駿監督の言い分であり、手塚治虫先生には手塚治虫先生の事情があった可能性が十分にありました。そんな手塚先生側の事情がある限り、それを当ブログとしてご紹介しないのはフェアではないのでは、という思いもありました。

そんな中、現代ビジネスに投稿されたとある記事が、まさにこの宮崎監督の批判について「間違っている」とする反論を載せていおりましたため、今回は、そちらをご紹介してみたいと思います。

その記事は、
「アニメ業界の低賃金は手塚治虫のせいなのか? 見えてきた意外な真実」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75170?imp=0
という記事で、中川右介さんという方が執筆したものです。

以下、一部抜粋して引用していきます。

宮崎のこのインタビューで問題にすべきは、以下の発言だ。

虫プロのいくつかの作品や手塚の発言を批判した後、宮崎はこう説明する。

〈昭和38年に彼は、一本50万円という安価で日本初のアニメ『鉄腕アトム』を始めました。その前例のおかげで、以来アニメの製作費が常に低いという弊害が生まれました。

それ自体は不幸なはじまりではあったけれど、日本が経済成長を遂げていく過程でテレビアニメーションはいつか始まる運命にあったと思います。引き金を引いたのが、たまたま手塚さんだっただけで。〉

この発言は、最初からすべて間違っている。

だが、それなりに発信力のある宮崎の、没後直後の批判という非礼に満ちた発言は、以後の手塚アニメ批判の土台となった。

手塚治虫先生の死後に書かれた宮崎監督のこの言葉は、ネットでも非常に有名になった言葉です。おそらく、この言葉が非常に影響力を持ったというのは間違いではないでしょう。私も最初にこの言葉を目にした時には、「これは本当の話なのだろう」と思っておりました。
それでは、「最初から間違っている」というのは、具体的にはどの部分が間違っているのでしょう?記事はこう続きます。

昭和38年、1963年1月1日からフジテレビ系列で放映されたのが、虫プロ製作、手塚治虫原作の『鉄腕アトム』で、これが日本の国産連続TVアニメ第1号となる。

虫プロダクションは、手塚が創立し社長だったアニメ制作会社だ。

宮崎は虫プロが「50万」で受注したように言っている。

手塚が「55万円でいいです」と言ったのは事実だが(宮崎は50万と誤認)、実際にはそこまで安くはなかった。

手塚社長が「55万円でできます」と言ったのは、当時の子供向けの実写番組の制作費がそれぐらいだと聞いたからだった。

だが、アニメは実写の何倍も手間がかかるので、その価格では、無理がある。

そこで、当時の虫プロの役員と広告代理店の担当者が話し合い、実際には155万円が虫プロに支払われていた。

それでも、厳しいのは事実だ。

一方、同時期に東映動画(現・東映アニメーション)はいくらぐらいかけていたのか。東映動画が1963年に製作した長編アニメ『わんぱく王子の大蛇退治』は、85分で製作費は7000万円だった。

1分あたり82万円だ。

単純計算すれば、『鉄腕アトム』は25分なので、東映動画だったら、82万✕25分で、2050万円かかることになる。

155万と2050万だから、桁が違うのだ。

手塚も「55万」では赤字なのは分かっていた。それでも引き受けたのは、この値段なら、他社が参入できないと考えたからだった。

そして、手塚にはその赤字は埋められるという確信があった。ひとつは海外(アメリカ)へ売ること、もうひとつはキャラクターのマーチャンダイジングによる収入だった。

ここでは、手塚先生は「55万円でいいです」と言ったものの、実際には155万円が虫プロに支払われていたこと、それでも同時期の作品『わんぱく王子の大蛇退治』に支払われていた金額に比べると、格段に安いことが挙げられています。

正直に言いまして、現代を生きる私達にとっては昭和38年の金銭の水準は今ひとつ分かりづらく感じます。それでも「桁が違う」ほどの額で受注しようとしていたのは、破格すぎるということは容易に想像できます。個人的には、「当時の子供向けの実写番組の制作費がそれぐらいだと聞いたから」とはいえ、手塚先生が「55万円でいいです」と言ってしまったのは事実のようですので、この点についてはやはり迂闊だったのではないかという気がします。

それでも手塚先生が引き受けた理由として、「他社が参入できないと考えたから」そして「海外(アメリカ)へ売ること」「キャラクターのマーチャンダイジングによる収入」で赤字は埋められるという確信があったからだといいます。どういうことなのでしょうか?以下、このように続きます。

『鉄腕アトム』はアメリカの三大ネットワークのひとつNBCの子会社に売れたし、アトムのキャラクターグッズは飛ぶように売れ、莫大な版権収入が虫プロにもたらされた。

手塚は、こうした副収入がなくても、いざとなれば自分がマンガを描いて稼いだ原稿料で穴埋めできるとも考えていたようだが、その必要はなかった。

『鉄腕アトム』は、フジテレビが放映し、明治製菓がスポンサーで、萬年社という広告代理店が間に入っていた。

手塚が「55万円で引き受けた」と書いたが、これは虫プロがフジテレビから製作の請負をした、その受注額ではない。

著作権を含む全ての権利は虫プロにあり、フジテレビは放映権を買うという形の対等の契約なのだ。

だから、キャラクター商品のロイヤリティはフジテレビには入らず、すべて虫プロにストレートに入った。海外への販売も同様だ。

手塚治虫はアニメを制作会社が儲かるビジネスとして確立したのだ。

虫プロは、たしかに徹夜続きになるなど、労働環境は最悪だった。

しかし、虫プロは賃金面では、社員に優遇していた。

とくに初期は人材がいないので、東映動画など他のアニメ制作会社から引き抜かなければならず、「給料は東映の倍、出します」と言って、社員の言い値で払っていた。

そのため、まだ自家用車を持つ家庭が少ないのに、虫プロの駐車場には社員のクルマが並んでいたという。

「徹夜続き」だけど「高賃金」だったのだ。

虫プロは10年後の1973年に倒産するが、その頃には社員の多くが独立して、それぞれのプロダクションを設立していた。彼らが起業できるだけの資金を持っていたのは、給料が高かったからだ。

著作権を含む全ての権利は虫プロにある、これが手塚先生による確信の根拠でした。そして事実、アトムはアメリカで売れ、キャラクターグッズによる莫大な版権収入が虫プロにもたらされたそうですから、手塚先生の目論見は正しかったようです。

では、アニメが儲からないのは何故なのか?その原因を、この記事ではTCJ(現・エイケン)と東映動画のせいであると書いています。また、「ただ、あのとき彼(※ブログ主注:手塚治虫のこと)がやらなければあと二、三年は遅れたかもしれない。そしたら、ぼくはもう少し腰を据えて昔のやり方の長編アニメーションの現場でやることができたと思うんです。それも、今ではどうでもいいことですけれど。」という発言に関しても否定しています。

当ブログでは、この記事に関しましてこれ以上の引用は行いませんので、興味のある方は是非とも元記事をご覧ください。(アニメ業界の低賃金は手塚治虫のせいなのか?見えてきた意外な真実 https://gendai.ismedia.jp/articles/-/75170?imp=0

さて、この記事を受けて、おそらくは、さらに宮崎駿監督の言い分というものがあるでしょう。そもそも他社の参入を防ぐために55万円で受けた、というやり方に問題があった可能性もありますし、労働環境の酷さは結局否定できていない点に問題があると言えるかもしれません。また、宮崎監督の手塚先生への批判はこの金銭に関する点だけではなく、アニメーションに対する姿勢自体についても批判が行われていますので、この記事だけではそれらの全てに反論がなされているわけではありません。しかし、このような反論が出た以上、現状、宮崎駿監督の発言には一部誤りがあった、ということも事実でしょう。当ブログでは立ち入れるのはここまでだと思いますので、以上で終わりにしたいと思います。

さて、この記事を書いた中川右介さんは、この件も含めて一冊の書物、『アニメ大国建国紀1963-1973』にしています。このを『アニメ大国建国紀1963-1973』書いた動機のひとつは、この「『手塚治虫疫病神説』を検証し、覆したいとの思いがあったから」だそうですので、興味のある方は、是非お読みになってはいかがでしょうか?