まだまだ若く元気な世代の患者さんの場合、自分の歯を極力残すよう努めます。

例え厳しい状態の歯であっても、患者さんの希望によっては歯を残すことがあります。

これは、万が一その歯がダメになっても、新たな次の一手が打てるからです。

しかし、通院や口腔清掃、入れ歯の取り外しなど、身の回りのことが一人では出来なくなった高齢者における治療においては、そうはいきません。

医学的にきちんと治療をしようとすると、それなりの負担を高齢の患者さんに強いることになるからです。

もうダメだと分かっている歯でも、抜くに抜けない状況というものが、臨床では実際にあるのです。

ダメな歯でも、いざ抜いてしまうと咀嚼が全く出来なくなり、栄養補給がままならず、体力・気力がみるみるうちに落ちていくであろうことが予測できるからです。

このような状態から、入れ歯を新たに作り、その入れ歯に馴染んでいただくというのは、自由の利かなくなった高齢の患者さんには、きっと耐え難い苦行に違いありません。

下手に治療をしようものなら、物が食べられなくなり、死期を早めてしまう恐れすらあると感じます。


理想と現実の狭間で、実際に出来ることには限りがあります。

超高齢社会を迎えた今日、治療をする時には、5年後、10年後、患者さんがどのような生活を送っているのか、そのような長期的な視点にたった治療計画や治療法の選択が、今後ますます重要になるでしょう。


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