KIMG4435 - コピー

 の告白がしたいのか、自分でもよくわからないのだが、僕は、複数の人間が入り乱れるAV(たとえば乱交パーティ)、あるいは群像劇、その類の物語を楽しんで見ることができない。ただただ苦痛なのだ。あえて解釈をするとすれば、それくらい団体行動というのが苦手なのだと思う。

 社会の最小単位は3人であるというような言説を、小学生の頃に読んだ本に書いてあった記憶があるが、ひとたび人間が集まると、そこにはおのずと方向性が生まれる。三人寄れば文殊の知恵という言葉もあるが、不思議なことに人が3人以上集まると、一対一の関係性ではありえない、口にすることをはばかるような醜悪で下品な態度や言葉を投げかける人間が現れる。

黒メガネって誰?
タバコの吸い方が猿に似てるやつw
あいつ店とグルなんだろ? 報酬は一日一万二千円らしい。店側はマジで重宝してるみたいね。
あの黒メガネメガネの持ち上げ方イライラしねえ?
スロットの打ち方も気持ち悪いし、
ガリガリだし、後ろから見てるとあの細腕と首の骨を折りたくなるwww
死ねばいいのに

 ネット上に散見するヘイトも、その一種なんだろう。集団行動。僕は逃げ出したが、もしかしたら、鳥が編隊で飛ぶのも、魚が魚群になるのも、同じような性質があるのかもしれない。ということは、生物として生まれてきた時点で、あきらめるか、受け入れなければいけないコミュニケーションのルールなのかもしれない。でも僕は人と人のそのような関係を欲していない。その意味で、僕は自分勝手な人間だ。自分勝手な人間が寂しい思いをするのは、考えるまでもなく当然のことだ。だから僕は一人でスロットを打ってきたし、これからもそうしていくつもりだった。寂しいといえば、寂しい人生だろうが、寂しさと苦痛を天秤にかければ、寂しさの方がマシなのだった。

 が、小僧、牙、リバと過ごした山賊団の中では、そういう苦痛を感じなかった。どうしてだろう? と考えてわかったのは、山賊団の最優先事項は、チームとしての機能であって、個々人の気持ちや想いではないということだ。もう何度も言っていることだが、ヒキは努力で何とかなるものではない。オリジナリティなんていらない。機能的、効率的であればそれでいい。僕はずっと、優しさや思いやりは、機能や効率とは正反対の場所にある、個人の資質から生じてくるものなのだと思っていた。が、機能や効率を求めただけの集団である山賊団から、僕は思いやりのようなものをたしかに感じていた。

 ただ、やはり個人の内面となると、僕にはわからないところがたくさんある。僕にはリバがどうしてあれほどむきになって彼の兄に遮二無二向かっていったのか、よくわからなかった。無視することはできなかったのか? あるいは逃げるという選択肢はなかったか? リバではない僕は、安易にもそう思ってしまう。

 2014年が暮れ、2015年がひっそりとはじまった。たけさんと2人きりの正月に、祝賀ムードは皆無といってよかった。そんな1月のある日、ちょっと買い物に行ってくるわ、と出て行ったきり、たけさんは帰ってこなかった。僕は待っていた。たけさんの家でずっとたけさんを待っていた。だけど、たけさんが帰ってくることはなかった。代わりに来たのは、警察官だった。


       777


 夢を見た。夢の中で僕たちは、スロットをしていた。緑の平原のような、どこまでどこまでも広がるパチ屋の中で、山賊団は、期待値を追っていた。小僧は相変わらずのヒキを見せ、頭上にドル箱を並べ、牙は、自分が集団に果たすべき役割の割合みたいなことをチマチマ計算し、浮かれたり、凹んだりしている。リバは、ライバルと口喧嘩をしたり、店員に注意されている。そして時々、堂々とサボる。まあいい。集団がサボっている人間を許容できるのは、何か不測の事態が起きたときの保険なのだ。今は僕、牙、小僧がいる。リバが少しサボっているくらいが、山賊団としては、ちょうどいいのだろう。あいつは、やるときはやる男なのだから。

 スロットの結果は上々だった。どういうわけか(あまりに出過ぎて店のコインがなくなってしまったのかもしれない)、そのパチ屋は18時に閉店し、僕たちは、その日に得たすべてのコインを特殊景品に交換し、景品交換所で受け取った現金を、たけさんの軽自動車の中で、山分けした。牙が運転席、リバが助手席、僕と小僧は後部座席。4人が乗ると、たけさんの軽自動車は、しんどそうなエンジン音を響かせたものだった。スピードなんて出やしない。まあ、急ぐ必要はない。夜は長いのだ。僕たちはドン・キホーテ的なガチャガチャしたスーパーに向かい、肉やら野菜やらをどっさりカゴに入れ、ポテトチップやスルメ、チーズ、ビーフジャーキーのようなツマミも入れ、もちろん、缶ビールに缶チューハイ、それから、たけさんとりんぼさんのために、いつも飲んでいる安いパックではなく、ランクの高い芋焼酎を買って、ついでにバーベキュープレートも買った。
「山賊団のバーベキューパーティ」僕が笑うと、「パーリー」小僧の目が嬉しそうに輝く。
「パーリーイエー」と牙が叫び、「パーリーイエー」リバが乗る。4人の山賊団は、たけさんの軽自動車にしんどい思いをさせつつ、帰宅する。

 手洗い、うがいをして、バーベキューの準備を終えた頃、たけさんが手をつないでマツリちゃんと帰ってくる。みなで乾杯をする。ところどころはげた6畳の畳の部屋の、ちゃぶ台の上にバーベキュープレートを置き、焼く、焼く、戦利品を次々と焼いていく。酒を飲んで、肉を食らう。居間には多少臭いがこもるが、しょうがない。ここは山賊団の本拠地なのだ。遅れてりんぼさんが、そして越智さんがやって来る。居間だけでは狭いので、何人かが縁側から足を出す。あれだけたくさんあった肉が、野菜が、ツマミが、酒が、見る見るうちに減っていく。その間も、みんな笑っている。くだらないことでみんな笑っている。小さい頃、友達の誕生日会に行きたがらない、誕生日会など開きたいわけがない嫌な子供だった僕が、このパーティだけは心の底から楽しんでいた。そして、この時間がいつまでも続くことを願った。

 もちろん、現実は違う。目が覚めた後で、僕は現実に直面する。たけさんは戻ってこなかった。リバもマツリちゃんも戻ってこなかった。入院していた小僧は、事態を知ってやって来た叔母さんに連れられて、広島に帰ってしまった。牙は、怪我が治癒するかしないかという時点で、病院から消えた。りんぼさんは姿を消したままだし、越智さんは、修行し直してきますと言い、どこかに行ってしまった。主を失った家に、他人である僕が継続して住めるはずもなかった。家と土地の権利は、神戸に住むたけさんの息子さんのものになるという。後に聞いた話では、たけさんの息子は、家を取り壊し、更地にして、地元の不動産屋に、二束三文で売ってしまったという。

 僕はまた、ひとりになったのだ。

つづく
にほんブログ村 スロットブログへ