霊を科学する(9)人間だけが持つ創造性



今まで論証してきたように、心は決して脳の産物などではありません。しかし、心にとって脳が必要不可欠な存在であることも否定できません。

例えば、自分自身の幼少時代と現在とを比べてみれば、当然、現在の心の方が成熟しています。それは親とのコミュニケーションから始まり、きょうだいや友人との関係、読書やスポーツ、あるいは仕事やボランティア活動など、さまざまな体験を通して心が成長したからです。

オオカミに育てられた少女が、オオカミのような生活をしたまま死んでいった出来事は、余りにも有名です。つまり、心が成熟するために、体すなわち脳を使った人間らしい生活が必要なのです。

では、私たちの内的な体験のうち、どこまでが脳の働きであり、どこからが心の働きなのでしょうか。この疑問に答えたのが、脳の神経細胞の研究でノーベル賞を受賞した、ジョン・エクルズです。

図のような直方体を用いて、心の働きと脳の働きを考察してみます。


私たちがこの直方体の図を見た場合、脳内においては「この図そのもの」が100万個ほどのモザイクに変換されているだけであることが分かっています。つまり脳の働きとは、客観的に存在する物を「そのごとく」認識することなのです。

ところが実際には、私たちは正方形ABCDが前にあると見ることもできるし、正方形EFGHが前にあると見ることもできます。自分の意志でどちらが前方にあるのかを決めることができるのです。つまり心の働きとは、脳が認識した情報を用いて、あらゆる判断を行うことなのです。このように、考える主体はあくまで心であって、脳ではありません。

このことからエクルズは、「考えるということは、脳が記憶したものを並び替えたり組み合わせることだ」と語っています。そして「考えて目的を果たすために、心はあたかもサーチライトのように脳全体を飛び回り、情報を引き出している」と断言しているのです。

では、こういった働きをする心は、果たして人間だけが持っているものなのでしょうか? それとも、脳を持っている他の動物にも、同じような作用をする心があるのでしょうか?

チンパンジーは、かなり高度な問題解決能力を持っているといわれ、さまざまな実験が繰り返されています。例えば、オリの中にチンパンジーを入れ、手が届かないオリの外にはバナナを置くとします。そして、チンパンジーがバナナを見たときにちょうど視野に入るように、短い棒と長い棒を置きます。短い棒は、ちょうどチンパンジーの手が届く所、長い棒はそれより遠くに配置します。

するとチンパンジーは、まずオリの隙間から手を出して短い棒をとり、その短い棒を使って今度は長い棒をたぐり寄せます。そして、長い棒でやっと届く位置にあるバナナを、見事に引き寄せて食べることに成功するのです。

しかし、バナナと棒が同じ視野に入らない位置に配置すると、チンパンジーにはこの問題が解けないのです。すなわちチンパンジーの思考は、目に見えるものだけに支配されているということです。バナナを見ながら、棒を思い浮かべることはできないのです。つまり脳だけで活動しており、人間のような心を持っていないわけです。

従って、チンパンジーに先ほどの直方体の図を見せても、「そのごとく」認識するだけです。どちらが前方にあるかを決めること、つまり創造性は、私たち人間の心だけが持つものだといえるのです。


“霊を科学する(9)人間だけが持つ創造性” への2件の返信

  1. いつもありがとうございます。

    今まで、「脳が考えていた」 ということが
    実は、「心が考えていた」 という事でしょうか?

    小学校の授業に関わっていたときに、「理解できる」
    という事の要素に、「心の成長」が関係している
    かもしれない・・・なんてことをよく感じた記憶が
    あります。

    オオカミ少女の事例は悲しいものですが、
    「心が成熟するために、体すなわち脳を使った
    人間らしい生活が必要なのです。」
    という内容は、育児放棄された子供たちなど
    事例はたくさんあるようです。

    凶悪犯罪者の成育歴などもよく話題になりますね。

    キャリア官僚らは高度な学習能力があるわけですが
    昨今の行動には(賭けマージャン)?が付くのは
    また、別問題でしょうか。

    • 脳が考えているのではなく、心が「脳を使って」考えているということです。

      「理解できる」と「心の成長」との関係は、そのとおりだと思います。心が未熟なうちは理解できないことも、心が成熟してくるといとも簡単に理解できるものです。

      凶悪犯罪者や、ばかなことをやる高学歴官僚は、心が成熟していないということでしょう。あくまでも心が脳を使うので、心が未熟な者は未熟な使い方しかできません。

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