ヤングジャンプで原泰久「キングダム」574話「解放者」を読んだ。

 

「キングダム」は秦の始皇帝による統一の時代を描いた漫画で、フィクションの要素も多いが、実在の将軍・李信を主人公とし(今のところ作中では姓はない)、一兵卒から今では将軍一歩手前のところまで成長してきている。

 

 

物語の方もついに始皇帝(作中では政)による中華統一戦が始まり、最初の趙の鄴に対する攻略戦が始まっているのだが、主戦場である朱海平原での主人公たちの活躍とは別に、別働隊である美貌の異民族の女性将軍・楊端和が率いる軍が趙の軍事拠点の一つ、橑陽で戦う。主敵は同じく異民族である犬戎で、彼らの王・ロゾが巨大な敵として立ちはだかる。

 

 

この「橑陽の戦い」はすでに48巻518話で始まっていたが、その最終日の戦いがヤンジャン28号561話の途中から始まっていて、そのあとずっと、43号574話まで続いている。つまり562話以降は主人公が全く出てこない展開が単行本1巻分以上続いている訳だ。

 

 

この戦いは頼りない秦の将軍壁と美貌の山界の死王・楊端和を中心にした展開で、始まった頃はここまで読ませるとは思わなかった。メラ族のキタリ、犬戎のロゾなど魅力あるキャラの力は大きいが、特に壁というキャラに対する作者の愛情のようなものが強く感じられた。

 

 

「橑陽の戦い」では壁が敵軍に食糧を焼かれるという失策をおかし、山民族、特にメラ族のキトリにけちょんけちょんに言われていたところから、それをいかにして挽回したか、という物語だった。

 

 

その背景には楊端和の神算があって、そこも一つの見どころではあるのだが、壁に関しては中間管理職の底力、みたいな話になった。

 

 

そういう意味で、このシリーズ、評判は多分悪くないんじゃないかと思う。突出したキャラクターがオンパレードのこの作品、特に主人公の信と違い、壁はいわば等身大のキャラだ。おそらくはこれからどんどん主人公たちに追い抜かれていく立場になるはずのところ、政の側近である昌文君の片腕としてこれからも活躍していくのだろう。

 

 

そして壁が心酔している楊端和だけでなく、壁を罵倒しながらも族長たる兄を失って総崩れになりそうなところを壁に救われたキトリという二人の女性がいる訳で、その辺の展開も少し楽しみにはなってきた。

 

 

信が大勝利を収めるのも気持ちがいいが、壁が不格好ながら戦果を上げていくのもまた、この作品の新しい面を見せたように思った。