小沢健二『So kakkoii 宇宙』感想&レビュー(6thアルバム) | とかげ日記

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●時代を超えて

小沢健二の13年ぶりのアルバム。音楽性的には、『LIFE』のキラキラしていた華のある時期とその後の3枚のマニアックに走った時期の中間に当たるようなアルバムだろう。

小沢さんが最も脂の乗っていた時期である『LIFE』(1994年)。このアルバムはポップの結晶とでも言うべき、めくるめくポップ万華鏡な世界が展開する、渋谷系を代表する名盤だった。

そして、その後の3枚のアルバムでマニアックな音楽性に走る。この時期の小沢健二の音楽を指して、「大人のコスプレ」と評している人がいた。小沢さんが理想とする音楽を鳴らしていても、どこかしら着飾った感のある時期だった。

その点、本作『So kakkoii 宇宙』は等身大と言えるアルバムだろう。艶々としている訳ではないけれども、枯れている訳でもない、51歳の小沢健二の音が鳴っている。ボーカルもハリを失ったが、それでも全身全霊で歌い上げようとする姿にグッとくる。

そして、等身大から宇宙へと繋がっていくような飛躍感も魅力だ。等身大で宇宙を鳴らしているんですよ、小沢さんは。小沢さんの現実は、いつでも宇宙と繋がっている。そんな全能感が全肯定の思想へと繋がる。本作を聴いていると、自分を宇宙まるごと肯定してくれるような、そんな心地になる。

宇宙を歌っているのだが、宗教臭さはない。語り口はとても爽やかだ。宗教というよりも、小沢さんの「宇宙」は哲学かな。緻密に組み立てられた思想の上に成り立っている。

最初に#1「彗星」を聴いた時に、このご時世で躁すぎはしないか、バイブスが明るすぎはしないかと違和感を覚えた。だが、小沢さんの音楽は現実や時代とリンクしながらもそれらを飛躍していくものだ。何度も聴いているうちに、僕の周りのリアルがSo kakkoii 宇宙へと光景を変えていくような肯定感を覚えた。

#5「いちごが染まる」のスローでダルなビートの曲の後に、#6「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」の小さな花のように慎ましいギターのアルペジオが聴こえてきた時の感動といったら!

僕が本作で最も好きな曲は、#6「アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)」。漫画家の岡崎京子さんとの絆を歌った、個人的だが普遍性を持ってリスナーの胸に響く曲だ。

しかし、シングル曲は素晴らしいのだが、アルバムで新たに加わった曲はもう少しポップにしても良かったのではないか。ストリングスやホーンセクションもあり、音楽性はカラフルではあるのだが、やや退屈にも感じられた。

ただ、新曲の#10「薫る(労働と学業)」は良かった。ギターのカッティングが渋谷系出自の小沢さんらしくオシャレ。「君が僕の歌を口ずさむ/約束するよ/そばにいると」という歌詞に、小沢さんとファンの幸福な関係をそこに見た。前作から13年も時が経ってしまったので、ファンに心配させたくないという小沢さんの思いがこめられているのだろう。

このアルバムには、リスナーとコミュニケーションを取ろうとする小沢さんの意欲を感じた。だからこそ、マニアックな音楽性のものにはしなかったのだろう。テレビ番組に出演したり、雑誌のインタビューに答えたりしているのも、コミュニケーションへの意欲のためだろう。

英語圏に長く暮らしていた影響が見られる「So kakkoii 宇宙」というタイトル。初めて目にした時、突き抜けたタイトルだと思った。アルバムの内容もSo kakkoii。小沢さんの新たな船出を僕も祝いたいと思う。

Score 7.8/10.0

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