金利上昇予想のガンドラック氏と低金利予想のダリオ氏、勝つのはどちらか

新型コロナによる下落相場のあと株式市場が反発を続けているのは周知の通りだが、その影でアメリカの長期金利がじわじわと上がっている。

低金利がこれまでの株価バブルを作り上げてきたように長期金利は株式市場に影響を及ぼすだけでなく、自動車や住宅のローン金利を通じて実体経済にも影響を与える。新型ウィルスによって空前絶後の不況が予想されるなか、市場の楽観は上げてはならないものまで上げ始めている。

アメリカ長期金利

まずはチャートを見てみよう。長期金利とは10年物国債の金利のことであり、アメリカの10年物国債の金利は次のように推移している。

株式の代わりの投資対象になりやすい30年物国債の金利はもっと露骨に上がり始めている。

超長期国債はコロナで大幅リスクオフとなったBridgewaterのポートフォリオでも買われていた銘柄である。(金利上昇は債券価格低下となる。)

低金利か金利上昇か

ここから金利が上がるのか下がるのかが投資家にとっても重要となってくる。金利は常に株式市場に影響を及ぼすからである。

ここ最近の金利上昇は明らかにコロナ対策の経済政策によって国の借金が増えていることによるものである。政府が借金をするとは国債を発行することであり、発行された国債は市場で売られることになるので、債券にとっては価格低下(金利上昇)となる。アメリカはヘリコプターマネー(現金支給)を含む経済対策のために第2四半期だけで3兆ドルの借金をするという。

問題はこの金利上昇が続くかどうかである。新型コロナ相場空売りで大儲けをしたジェフリー・ガンドラック氏はTwitterで次のように述べている。

30年物国債の金利はまるで登場前のロデオの暴れ馬のように不安定だ。中央銀行は暴れ馬を永遠に囲っておきたいと考えている。出来るかどうか見てみよう。ゲートが開けば8秒も持たないだろう。

中央銀行の能力

ガンドラック氏はこれまでも度々金利上昇予想をしてきた。そしてここまでずっと低金利が続いているように、その予想はことごとく外れてきた。彼は債券投資家であるにもかかわらず、株価予想の方が当たるのである。

それは恐らく彼が債券の専門家だからこそ金利上昇がまともな結果だと考えるのだろう。短期間に3兆ドルも債券が発行されれば債券投資家の常識では金利は上昇する。しかしそれを中央銀行はここまで押さえつけて来たのである。

よってこれは中央銀行に何が出来るのかという問題である。超長期国債を買っていたBridgewaterの創業者レイ・ダリオ氏はブログ投稿で次のように書いていた。

中央銀行が実質金利を上昇させて実体経済に悪影響を及ぼすのか、紙幣印刷と債券購入を行って実質金利の上昇を抑えるのかの選択を迫られたとき、中央銀行は後者を選ぶだろう。

筆者は中央銀行を万能だとは考えていない。中央銀行はすべての資産価格を操作することはできない。しかし国債市場に限って言えば、投資家は中央銀行の能力を疑問視するべきではないだろう。

ガンドラック氏の疑問に回答するとすれば、中央銀行は金利を押さえ込むことが出来る。中央銀行はいくらでも債券を買うことができる。厳密には、債券が市中に存在する限り債券を買うことができるのである。現状では中央銀行の購買能力よりも存在する国債の総量の方が問題となっている。存在する国債をすべて買ってしまった場合、国債市場を通した金融緩和がそれ以上出来なくなるからである。

よって金利に関してはダリオ氏が正しいだろう。

中央銀行は株式市場を支えることが出来るか

一方で、もう1つの問題は「中央銀行は株式市場でも万能なのか」ということである。

まず、金利が下がることによる株式市場への好影響には限界がある。例えばリーマンショックの時には長期金利は5%から2%まで3%下がった。

一方でコロナによる景気後退はリーマンショックの倍以上であるにもかかわらず、金利の下落幅は2.5%程度と当時より少ない。危機は大きくなり、刺激策は小さくなっている。

ちなみに長期金利はほぼゼロまで下がっているので、コロナの影響で来年の経済がどん底に陥ったとしても金利低下による景気刺激を期待することは出来なくなったことを意味する。

では中央銀行が株式を買えばどうなるだろうか。それならば中央銀行は市場を支えられるのだろうか。

答えはイエスだが、大きな代償が伴う。まず中央銀行は株式市場を支えられても実体経済は支えられないだろう。株式市場は債券市場より大幅に小さく、株式市場をバブルにしても実体経済への影響は金利操作よりも少ない。

次に、株式市場をまるごと支えるほど買い上げるということは株式市場が機能不全になるということである。株式市場は今既に機能不全である。日経平均の1割近い部分を占めるファーストリテイリング(ユニクロ)の株価収益率は60にも達しており、GoogleやAppleよりも高い。服飾はそれほどのグロース株なのだろうか。もはや忘れられているかもしれないが、株式市場には値決めという役割があるのである。

国が持っている人的、物的資源は限られている。その資源を自分の事業に使いたいという人が沢山いる。その中で誰が資源を使うべきかを決定するのが株式市場である。資源を使って誰も使わないものを作ってしまうと資源が無駄になる。誰もが使いたい製品を作る事業に資源を分配するのが株式市場の役割なのである。

それが機能不全に陥るとどうなるかと言えば、経済成長率が下がるのである。人々が特に使いたいわけではない製品を作る人々に資源を渡し続け、それほど欲しくもない製品が大量に作られているのだから当たり前である。ファーストリテイリングの株価は高いが、日経平均の1割弱を占めることと大量の資源がユニクロの服に投入されるべきかどうかとの間に何か関連性があるのだろうか? これも日銀が日経平均ETFを買い続けた結果なのである。

こんなことを続けていれば元々沈んでいる日本経済はもっと沈んでゆくだろう。日本経済を沈めることで金儲けを企んでいる自称保守の方々が政府にたくさんいるのである。

一方でアメリカでは中央銀行は株式は買っていない。今後買うかもしれない。しかしアメリカがその悪手にたどり着くまでには、株式市場はもう一度落ちなければならないだろう。そしてその時には経済を沈没させる悪手を使ってまで市場を支えようと企んでいる日本も一緒に落ちることになるのである。