補足編に引き続き、こちらは小説風の妄想文になります(^^)
思いのほか長くなってしまったので、前篇・後篇で構成させて頂きました。


※倒幕派メンズ及びはつみはナツ殿が原案を担当して下さっています。
 設定をお借りして作成させて頂きました。


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「父上、皆様、今日もありがとうございました。」

「ああ、ご苦労。道草を食わず、真っ直ぐ屋敷へ帰るのだぞ。」

「お疲れ様でした、操様。また明日も宜しくお願い致します。」



日増しに暑さが厳しくなる夏のある昼下がり、城内での父・忠の公務の手伝いを終えて一人自宅の屋敷へと歩みを進める操。

手伝いとは教本や資料本の作成であり、
それらは城内にて忠が藩士達に向け、定期的に行っている講義で使用される物である。

元々筆まめで書道を得意としている操。
今回の江戸剣術修行より戻った折に、かねてより心に留めていた
「いつも江戸行きを支援して下さる殿や藩の為に何か少しでも恩返しが出来ないか。」
という思いを忠に相談。彼はその熱意を受け入れ、「ならばお前の得意分野である書を活かすものが良いな。」と、直接山内容堂に操からの感謝の意を伝えた上で、数多ある自分の公務の一つである教本・資料本の書き写し及び作成を手伝わせる許可を得たのだ。


そのような経緯を経て、操は自分に与えられる仕事に感謝しつつ、毎朝登城してはせっせと真面目にこなしていた。
そして今日もまた無事に教本の書き写しを終えて忠や上士達に挨拶を済ませると、強い日差しに目を細めながら帰宅への道を急ぐ。


「う~ん…今日も暑いなぁ~。これは帰ったら行水かなぁ。
 あ!龍さんやみんなと一緒に川へ涼みに行くのも良いな!
 はつみさん、川で泳いだことが無いっておっしゃってたから、
 とっておきの場所を教えて差し上げよう~!!」

また以蔵さんと一緒に沢蟹も取りたいな、武市さんも前みたいに大きな魚を釣ってくれるかな、などとあれこれ楽しく想像している間に気付けばもう屋敷は目前。
早く帰ってみんなの元へ行こう!と抱えていた荷物をぐっと強く掴んで走り出そうとすると、


「…んんっ?あれは……」


門前から出て来る二人の姿。どうやら男性と女性のようだ。
見覚えがあるな…と操がじいっと目を凝らして見ると、
今、まさに自分が川へ行こうと誘いをかけんとしていたはつみ、龍馬ではないか。


「わあーー!!龍さーん!はつみさーーーーん!!!」

ちぎれんばかりにブンブンと腕を振って自分の存在を伝えようとする操。
彼女の大きな声に気付いたようで、二人がこちらを向いたのを確認すると、一気に二人の元へ駆け寄る。


「おお~っ!操じゃないがか!」
「操…!」

「はぁっ、はあっ…龍さん、はつみさん、こんにちは!」

「おお、こんにちは。今日もげにまっこと暑いの~!」
「こ、こんにちは、操。今日は随分早くお勤めが終わったのね。」

「はいっ!今日は書き写す資料が少なかったので、早く終わったのです!」


挨拶に応えて、いつものように満面の笑みで操の頭をわしわし撫でる龍馬に対し、
どこか驚いたような、ぎこちないような表情を見せるはつみ。
彼女の言う通りいつもならば昼過ぎまで城にて作業をしている為、こうして早い帰りである事に驚いたのだろう。
そう思った操はあまり気に留めず、はつみに笑みを向ける。
微妙な表情をしていたはつみも、操の満面の笑みにつられて顔がほころび「そうだったの~、ご苦労さま!」と優しく微笑み返す……が、


「っと…ごめんね、操。私達、もう行かなくちゃ。」


瞬間、バツが悪そうに苦笑し「ごめんね!」と言いながら両手を合わせ、隣に立つ龍馬の着物の袖を「さあ、早く行きましょう」と言わんばかりにぐっと引っ張る。
突然身を引き寄せられた龍馬は驚き慌てて体勢を整えるが、一番に驚いたのはその言葉を受けた操であろう。


「…えっ?!」

「私達ね、これから隣村まで行く用事があるの。」

「隣村…ですか?」


二人を川へ遊びに誘う気満々であったが、想いもよらぬはつみの言葉に一瞬肩透かしをくらう。
しかし、自分の抱く好奇心に関しては非常に貪欲で良くも悪くも機転がきく操。それならば!と計画を瞬時に変更し、


「ならば私も、ご一緒させて下さい!」


と申し出る。
その姿はさながら『大好きな貴方について参ります!』とシッポをぶんぶん振りまくる忠犬のよう。
勿論その言葉の意味には『二人と一緒に遠出をすれば、きっと川へ行くよりずっと楽しい事があるだろう』という、実に操らしい思考も含まれてはいるのだが、

はつみはこの土佐へやって来てまだ半年ほど。
折を見つけては操や龍馬ら彼女を慕う者達が土佐の町を案内してはいたが、まだ訪れた事が無い場所は沢山ある。
一方幼い頃から頻繁に父や兄に連れられて近隣の村へ野掛けを行っていた操は、知る人ぞ知る隠れた名所(と言っても、水が綺麗な池であったり、花が咲き誇る野原など質素なものではあるが…)を熟知しており、そういった場所へ案内する事で、少しでも見慣れぬ土地で毎日を過ごすはつみの心の慰めになれば、と。
願わくばもっともっとこの土佐を好きになってもらいたい、と。

そう言った思いも常々抱いていた理由もあり、『これはまたと無い機会だ!』と思い切って同行を願い出たようだ。


「よーし!じゃあ一緒に行こうか!」そんなはつみの明るい声を期待しながら、目をキラキラと輝かせて彼女を見やる。

しかし、必ずしも毎回自分の思惑通りに物事が進むとは限らない。


「駄目だよ。操、今日は美紗子さまに茶道のお稽古をつけていただくんでしょう?」
「(ぎくっ)」


確かに今日は妹の律と共に美紗子から茶道の稽古を受ける事になっている。
しかし今の操にははつみの共として隣村へ行く事が最優先となっており、あわよくばこのまま家に入らずに出かけてしまえば母に気付かれる事も無いだろう。と悪い虫が腹の中で囁いている。
(操には先に述べたように然るべき理由があるのだから、母へ正直に気持ちを伝えれば稽古の延期及びはつみ達への同行を許してもらえるはず。だが・・・それに気づかず思い立ったら一直線な所がまだ子供と言えようか。)


「そ、それなら問題ありません!私のお稽古よりも、はつみさんを隣村まで無事にご案内する事の方が大事ですもの!
 隣村なら私の庭の様なもの。護衛案内なんでもござれでございます。」


どうぞお任せ下さい!と自分の胸を叩いてみせるものの、はつみの反応は芳しくない。
案内や護衛は龍馬が兼ねているから問題無いよ、とあっさり返される始末。


「う……っ、だ、駄目です!
わ、私も一緒にはつみさんとお出かけしたい…!
龍さんと二人きりだなんて不安で仕方がありません!この操がお供をして代わりにお守り致します!!」


まさかここまで拒否されるとは予想もしていなかった為、操は衝撃と悲しみのあまり半べそをかきながらも「連れて行って下さい!!」と必死の形相ではつみに迫る。
このまま引き下がればはつみに自慢の名所を見せてあげる折角の機会も失われるばかりか、同行する龍馬は自分というお目付け役がいない事で箍が外れ、彼女に道中やましい事を仕掛けるのではないかと嫌な妄想が頭を駆け巡る。
幼い頃から長い時を龍馬と過ごし、彼の人間性に触れていた操。「普段は軟派でおちゃらけてるけれど、本当は真面目で自制心の強い人だ。」という認識があるものの、相手がはつみとなると話は別であろう。
彼女の存在が稀有であり特別なものであるのは自分だけではなく龍馬も同じ。
その上、年の近い異性とあれば間近で触れてみたいと思うのは男の性。

「(私も男であったらこれを好機と思うだろう…。いや、むしろ女である今でさえもはつみさんに触れたいと思っている…だからきっと龍さんも…)」

不安げにちらりと龍馬を見やると、


「ちゃちゃ、こりゃえらい言われようじゃの、はっはっは!!」


操の心配など全く気にせずと言った様子で、腹を抱えて大笑いしている。
そんなお気楽な様子の龍馬に二人の話題の当人であるはつみは大きくため息をつきながら呆れた視線を送ると、身をかがめて笑う彼の耳目がけて腕を伸ばすと勢い良く「ぐいっ!」と引っ張り、


「おわっ!!??
いたたたたたたーーーッッ!!はつみさん、痛いき…!!勘弁しとおせ…!!!」

「年下の操に心配されてるのにヘラヘラしない!!全くもう…!

操も操だよ!あなたは武士の子。人との約束は決して破ってはいけないって、いつも忠様や美紗子様に教えて頂いているでしょう?

だから私はお稽古を怠けてまで一緒に行こうとする操を歓迎はしないわ。
何より大切なお母様との約束さえ守れない操なんて、私は嫌いだよ。」

「……ッッ!!??」


『嫌い』という言葉に大きくびくっと肩を震わせ、驚いた様子で視線を龍馬からはつみに移すと、厳しい表情は変わらないままでこちらを見据えている。一方、耳の痛みから解放された龍馬は突如醸し出された不穏な空気に反応し、ゴクリと、ゆっくり唾を飲み込みながら二人の表情をうかがう。



「………っ。(私ははつみさんを喜ばせたいだけなのに…一緒に楽しい時間を過ごしたいだけなのに…何故そんなに冷たく突き放すの…!?)」


操の表情がみるみる曇ってゆく様子を見て居た堪れなくなった龍馬は、思わずはつみの袖をクイクイと引っ張りながら
『まぁまぁ、はつみさん。少し厳しすぎやないかのう?操もに悪気は無いき…な?』となだめる様に柔らかい口調で言葉を掛けるも、はつみはそれを聞いて更に表情を硬くし
『悪気は無くても駄目なものは駄目。龍馬はいつも操に甘すぎるのよ。』とバッサリと切り捨ててしまった。

どうしても共に行きたいと言う操と、決して首を縦に振らないはつみ。
間に立たされた龍馬は二人の顔を交互に見ながら『参った』と言わんばかりに、苦い笑みを浮かべる。
どちらかが折れなければ冗談抜きでこのまま日が沈むまで(いや夜が更けてもか?)ここで立ち往生するはめになりそうだな…と頭を抱えた時であった。

ふわり、と花の様な甘い香りが龍馬の鼻をくすぐる。


「いけませんよ、操。お二人を困らせては。」


柔らかな声と共に、ゆっくりとこちらへ歩みを進める女性。
日の光と同じ色の髪を風になびかせ、空の色と同じ色の瞳でこちらに微笑みかけると、はつみと操を仲裁するかのように二人の間へ立つ。


「は、母上!」
「美紗子さま…!」

「美紗子さま、ええ所に来て下さったがじゃ~!」


安堵の声を上げる龍馬に優しく微笑みかけると、思いもよらぬ母の登場に驚く操に視線を移し、彼女の目を見据えながら諭すように語りかける。


「律があたなの声が聞こえること言うので外に出てみれば…
お二人はお急ぎなのでしょう。それを無理に引き留めるばかりかはつみさんのご意見を遮って自分の我儘を押し付けようとするなど…その様な身勝手な振る舞い、許しませんよ。」


声の様子や口調こそ穏やかではあるものの、その場に佇む姿は母親としての凛とした威厳が感じられる。
いつもはどんな物事にも威勢良く物怖じしない操でも、そんな母の様子にすっかり萎縮されてしまっているようで、口答えも出来ずに小さくなってしまった。
『怒った母上は父上と比べものにならない程恐ろしい。』とよく操から愚痴を聞いていたはつみや龍馬も、美沙から放たれる『母の威厳』の前に少したじろいでしまう。




~以下・那由他ツイートによるダイジェスト~


はつみがサプライズで操の誕生日に好物の柚子を使ったお菓子を作ってプレゼントしようと計画する中での出来事なのよー! はつみとお供の龍馬が二人で隣村に行ってしまい(自分も同行を望んだが、あっさり断られた上に二人の協力者である美紗子に捕まり)→

別のお使いを言い渡されて恨めしそうに遠ざかる二人の背中を見つめる操。隣村に行くのは美紗子の知り合いから柚子を受けとる為なので、はつみも操にバレないように心を鬼にして同行を断った…のだが、そんな事は露も知らない操。龍馬と二人で自分に隠れて美味しい物でも→

食べに行くのではと思い、武市や乾らに聞き込みをするものの、はつみから口止めされている為に皆けんもほろろな受け答えしかしてくれない。何故はつみが自分を仲間はずれに…とがっくり肩を落とす操の姿を見かねた以蔵がそばに寄り「二人は柚子を取りに行った」→

と教えてくれる。(勿論サプライズの事は伏せて) 隣村の柚子は絶品。その美味しさをはつみと分かち合いたいのにそれが出来ない、しかもはつみと龍馬二人きり。やきもちも相まって益々解せない操はせめて一子報いてやろうと悪戯を思い付く。「夜道お化け大作戦」→

隣村からの道は一本道。城下から隣村の距離を考えれば帰りは恐らく夜更け。その道中化け物に扮して忍んで二人を驚かせてやろうという何とも陳腐な悪戯(笑) でも大真面目で必死な様子の操を見て以蔵は操の力になってあげたくて自分も付いてゆくと言う。→

サプライズをばらさないというはつみへの義理を守りつつ、でも操の意思を尊重してあげたい、他でもない自分が助けになってあげたいと同行する以蔵。心強い協力者を得た操は嬉々として夜道に忍び、はつみと龍馬の姿を待つ…のだが→

人通りも少なく、響くのは風と虫の音。肩が触れる近距離でしゃがみ、二人きりで草むらにじっと忍ぶ。普段から操に対して抱く強い慕情を抑圧している以蔵の気持ちが昂らないはずがなく… という流れで接吻事件が発生します。

調度タイミング良くはつみと龍馬が通りかかった事で接吻より先には進まず、驚かし作戦も一応成功?。悪戯に驚いたはつみに操と以蔵はこっぴどく叱られるも、以蔵は操の唇の感触を思い出してぼーっとしてそう(笑)

簡単にまとめてみたはずが長い上に読みにくくなってごめんね

後日誕生日のサプライズも成功して、以蔵とも何事も無かったような普段通りの関係に戻れたのだけど…そう感じているのは操だけで、以蔵は更に操に対する慕情と身分の差との狭間で悶々と悩む事になるのであった。。めでたし、じゃないかw










~以下・創作用メモ~

ある日、はつみはある目的を携えて龍馬と共に隣村を訪れるのだが、その際操も「私も一緒に行きたいです!」とせがむ。
しかし、はつみは「駄目だよ。操、今日は美紗子さまから茶道のお稽古をつけていただくんでしょう?」と首を縦に振らない。操も必死に食い下がり「私もはつみさんと一緒にお出かけしたい!龍さんと二人きりだと不安ですから、私もお供して代わりにお守り致します!!」とアピールするが(龍馬、「ちゃちゃ、こりゃえらい言われようじゃの、はっはっは!!」と隣で爆笑w)、はつみは厳しい表情で駄目の一点張り。

いつもなら「うん!一緒に行こうね」と優しく応えてくれるのに、何故…?
二人を恨めしそうに見つめ「(こうなったらこっそり後からついて行こうか…)」と企んでいると、背後から美紗子の姿が。一言「操、お稽古の時間ですよ」と。
母の静かな威圧感(笑)に弱い操は有無を言わさず自宅へと引き戻され、はつみと龍馬は笑顔で手を振って出かけて行った。


「……という事があったんです!!」
稽古の後、以蔵をつかまえて今朝の出来事を愚痴っぽく話す操。仲間外れにされた事が相当悔しいらしい。
以蔵はうんうんと頷きながら静かに操の話を聞いている。
(以蔵自身は、愚痴話であれ何であれ操と一緒の時を過ごせるのは喜ばしいと感じており、怒りで頬を膨らませる操の横顔でさえも彼女が幼かった頃を思い出しては「本当に、綺麗になったな…」と見惚れていた。)

むしろ操の愚痴よりも、操自身を見る事に夢中になりかけたが、操の「私が子供だから…頼りないからお供にして下さらなかったのでしょうか…」の言葉に「…俺はそうは思わん。まあ、頼りないとは思うが…おんしは…良く成長した。」と力強く返す。
一言余計であるが信頼する以蔵にそう励まされて嬉しそうに笑う操。以蔵も笑顔になり、彼女の頬に触れようと手を伸ばしかけるが、操の屈託の無い笑顔がみるみる悪だくみを含んだ笑顔になっていく事に気付く。
多分、いつものイタズラ癖で何か悪い事でも考え付いたのだろう。付き合いの長い以蔵はすぐに察知した。


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場所は隣村との境にある森の小道。城下町へ帰るにはここの道を通らねばならない。
夕刻も過ぎ、辺りは闇に包まれつつある