(「唾を吐いてはいけない」先進国では、これ常識)

 

 読者の方で、「わしはどこでも唾を吐く!」と豪語する方はいらっしゃらないと思います(たとえそうでも…)。自分で、「自分は低脳である」と認めているのと同じでしょ。

 

 アメリカでだって、上記のようなスティッカーがあるように、「唾を吐くこと」は100%マナーに反します。しかし…

 

 カーセールスマンで、「唾を吐かない人間」を見つけることは、すご~~(x100)く難しいんです。就職面接で、ファイナンスディレクターのジムが、「セールスマンは毒づくよ(僕も)」と予告されていましたから、一語一語(注:「一文」ではない)に、例のフォーレターワードがつくのには、抵抗はありません。うちのお父ちゃんも、よくやる。この頃は、うちのガキどもまで。勿論、学校でこれをやって先生に見つかったら罰則ですから、表向きにはやりませんが、電話や一緒にコンピューターゲームをやっているのをそばで聞いていると、まあ、もう耳を塞ぎたくなるくらい、「いけない」言葉が飛び出てくる。ディーラーシップでは、全てのマネージャーを含め、全ての(はい、全ての)セールスマンが、フォーレターワードを使わずに会話が「できません」。そして、どこでも、唾を吐く。唾を吐かなきゃいけない状況は、確かにあります。けれど、もうこれは、「セールスマンになったら、唾を吐くもんなんだ。」と教育されているがごとく、唾を吐くのには、もう辟易でした。ちょっとした世間話をしている途中で、「この人、なかなか物知りやねえ。皆、教育がないと聞いてたけど。」と思うが早いか、勢いよく、「ペッ!」とやってくれる。日本でこんなことをするのは、やくざくらいでしょう。今は知りませんが。

 

 観察していると、これが、120%自然に唾を吐いているんです。息をするみたいに。私が若い頃(半世紀以上前)、プロ野球で、巨人だけは外人を雇わなかった。だから、私の周りは、私も含めて、巨人ファンが多かったんです。外人を嫌う主な理由が、「やつらは唾を吐く」というものでした。どれだけホームランを打っても、あの「ペッ!」を見ると、尊敬の気持ちはどこへやら。その頃は、「外人選手が本国で唾を吐くのはごく普通」なんて知らなかった。だから、「あの外人も唾を吐くから嫌い」、「この外人も唾を吐くから嫌い」、なんてことを言っている人が一杯いたもんです。どうしてもこのマナーの悪さを受けいれられない。

 

 経験が多く、トップセールスマンになるにしたがって、皆唾を吐くもんですから、新入りのおぼこい兄ちゃんまで、かっこいい唾の吐き方を研究している。見ていて面白いと言えば面白い。20歳やそこらの、このディーラーシップへ来るまでは、どこかのハンバーガーやでハンバーガーをひっくり返していたとか、カーウォッシュで、洗車をしていたとか、レストランでサーバーをやっていたとか、要するにプータローに近いような最低賃金しか稼げないような若造がこの世界に入ると、運よくこの仕事に向いていれば、以前の10倍とか稼ぐのも不可能ではなくなる。だから、トップセールスマンを真似て、たばこを吸ってみたり、仕事の帰りに酒を飲みに行ったり、汚い言葉で話をしたり、ましてや、唾を吐く、こういう習慣を自分の方から選んで身につけるようになるんでしょう、多分。

 

 「カーセールスに向いていれば、最低賃金で働いていた頃の10倍稼げる」という神話は、真実だったんだ、ということを、私は、この目で、目撃しました。

 

 就職してすぐ、ジェイダンというぽっちゃり型の女の子に会いました。「このディーラーシップで働き始めて3年になる」と言う。すごく、フェアな明るい女の子です。私がいる6ヶ月間の間に、21歳(アメリカでは公的成人)から、22歳になったという女の子です。最初から、彼女の名前が、売上表のトップにあったので、トップセールスマンに違いないとは思っていましたが、この女の子、話をすると、ごく普通の女の子なんですが、カーセールスとなると、「天才」としか言いようがないんです。「カーセールスIQ」というのが存在するならば、間違いなくIQ200以上でしょう。前回もお話しましたが、大体2日に1台売れば、トップセールスマンの末席に並べます。ひと月15台くらい、ということですか。トップセールスマンは、大体、それ以上売ります。即ち、15~18台くらい売る。ここまでくると、ボーナスが激しいので、手取りで月に、13,000ドルくらい稼ぎます。

 

 ジェイダンは、平均して、月に22~25台売ります。オフがありますから、簡単に言って、1日1台は必ず売る計算になります。他のセールスマンがどれほど苦労しても売れないようなお客でも、彼女にかかると、「いっちょあがり」なんです。だから、アルバカーキでも結構いい場所に、一軒家を購入し、旅行は行きまくり、車は、トラックも含め、3台だとか4台だとか運転しています。これ、全部、「キャッシュ」で払ったとのこと。19歳でパワーフォードに来る前、やってたことは、「(ジャンバジュース)という健康志向ジューススタンドの姉ちゃん。彼女の話によると、「ジャンバのマネージャーが、『お前、年間いくら稼ぎたいんだ?』ときいてきたので、『2万ドルから3万ドルくらい稼げればいいかなって思ってるの』ってこたえてん」とのこと。ジャンバの時給は、おそらく最低賃金の8ドルくらい。1日8時間、週40時間働いたとすると、その頃の彼女の年収は、約17,000ドル程度。税金高いから、実際はもっと低い。それが…

 

 新車・中古車ともども月に20台以上売る。彼女の月給は、少なく見積もって、20,000ドル。即ち、カーセールスマンになることで、彼女の年収は「軽く10倍以上」に跳ね上がったという事です。「そんなにむちゃくちゃ儲けて、将来何するのん?」ってきくと、「結婚するつもりないし、お金一杯貯めといて、何かビッグなことがしたくなったらやろう、と思ってるけど」。要するに、何か特定の目的があるから車を売っているのではなく、たまたまやってみたら、自分がその分野の天才だとわかった、というタイプなんですね、この女の子。最近、彼女は、セールスマンを卒業して、ファイナンスマネージャーになりました。ファイナンスマネージャーというのは、お客が、月賦払いを希望するときに、そのプロセスを銀行と一緒になって進め、取引を成立させる仕事です。パワーフォードには6~7人のファイナンスマネージャーがいます。そのディレクター(ボス)が最後に私をインタビューしたジムです。

 

 さて、ジェイダンは特別の特別なので、例外ですが、他の男性のセールスマンは、皆唾を吐く、という話に戻りましょう。ルーキーにとって、ジェイダンのレベルには届かなくても、他のセールスマンのまねをして、一日も早く、暗い過去(最低賃金の仕事)から抜け出したい、という気持ちを持つのは分かるような気がします。そこで、かっこよく唾を吐く練習をする。

 

 この「唾吐き」に貢献しているもうひとつのアメリカ人の悪い習慣が、「刻みタバコ」を口に入れ、それを人前で堂々と吐き出し、その後、唾を吐く。これ、ホントに見ていて、へどが出そうになります。生理的に気持ち悪くなるんです。

 

(缶入り刻みタバコ)

 

(このようにして「チュウチュウ」と吸う)

 

 だから、ロット(販売用の車が展示されている場所)を歩いていると、あちらこちらでこの刻みタバコが吐き出されたものを見かけます。うぇ~、気持ち悪い!何で、口の中で、タバコを吸うのか?煙を吐かないから、喫煙所がいらないからか?理解したくない。

 

 何にせよ、「カーセールスマン=唾を吐く」。これには、神経の図太い私もお手上げでした。