「真説・企業論」を読む③――ベンチャー・キャピタルの理想と現実 | 進撃の庶民 ~反新自由主義・反グローバリズム

本日は、望月夜様の寄稿コラムです!

マジでごめんなさいm(__)m

また失念してました、更新を。若年性痴呆症かっ!とのツッコミも避けがたくm(__)m

まず更新。

中野剛志さんの著作である「真説・企業論」は「実はアメリカだって大したことねーぞ?」という、我々日本人が持つ「起業大国でイノベーティブなアメリカ」が印象論である、ということを研究されておられまして、その解説になります。

実態はどういうものであるのか?ぜひとも望月夜様のコラムからお読みくださいませ!

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「真説・企業論」を読む③――ベンチャー・キャピタルの理想と現実~望月夜様

noteにて、「経済学・経済論」執筆中! また、「望月夜の経済学・経済論 第一巻」「望月夜の経済学・経済論 第二巻」も発売中! その他、 「貨幣論まとめ」 「不況論まとめ」 「財政論まとめ」 などなど……


前回のコラムでは、中野剛志氏によるアメリカのベンチャー事情に関するサーヴェイについて取り上げた。

大雑把にまとめれば

・アメリカは各種改革が施行された1980年代以降も、開業率、若者の起業、全要素生産性の面で特に再興の兆しはない。

・アメリカにおけるIT産業の隆盛も、その主要因は(特に予算的・資金的な)国家的後押しによるものである。

といった具合になる。

第三章で中野氏は、ベンチャーキャピタルの実際について焦点を当てている。


ベンチャーキャピタルの投資判断について検討するにあたって、中野氏が引き合いに出しているのが、ベンチャーキャピタル「WiL」の伊佐山元氏のインタビュー記事、『日本でシリコンバレーはまねできる?』である。

このインタビューで伊佐山氏は、
①ベンチャー・キャピタルの審査は非常に厳しく、投資した会社が悪い状態にあるのを放っておくなら、潰す。
②ベンチャー・キャピタルは、投資の判断に当たっては「人」を見る。
という2点を述べている。

中野氏は、この2点についてそれぞれ検討している。

Ⅰ.「①ベンチャー・キャピタルの審査は非常に厳しく、投資した会社が悪い状態にあるのを放っておくなら、潰す。」について

・「CBインサイト」というアメリカの調査会社のデータによると、ハイテク・ベンチャー企業の約七割が最終資金供給を受けてから二年以内に倒産する。

・同じくCBインサイトのデータでは、半分以上のハイテク・ベンチャー企業が100万ドル以下の資金調達しかできず、かつて倒産したハイテク・ベンチャー企業の資金調達額の中央値は約130万ドルに留まる。

(※ 中野氏が参照したページは既に閲覧できなくなっていたので、参考になりそうなリンクを提示しておく→”Venture Capital Funnel Shows Odds Of Becoming A Unicorn Are About 1%”ここでは、資金調達の2nd Round(期間の中央値:16ヵ月)を受けられるのがわずか48%で、3rd Round(2ndからの期間中央値:18ヵ月)に到達するのは全体の30%に留まり、他の70%は退出するか、買収されるか、自己資金調達で何とか食いつなぐかといった状態とのこと。資金調達額の中央値も、original roundが35万ドル、2nd roundが約300万ドル、3rd roundが730万ドルといった具合で、半数以上の企業は1億円にも満たない資金調達を最後に短期間で潰れるという構造になっている。)

・このような小規模資金では短期間で成果を出すのは難しい上に、短期間で成果を出せるような技術が、画期的なイノベーションであるとは考えにくい。基本的には(既存の)ハイテクの事業化がベンチャーキャピタルの資金供給対象であると推測される。ベンチャーキャピタルは長期間かかるイノベーション投資に資金を出さない。(『本物のベンチャーキャピタルは死んだ』by原丈人氏)

・ベンチャー・キャピタルの研究者ダイアン・マルケイは、ベンチャーキャピタルに関する通説(「スタートアップの主要な資金源」、「スタートアップ企業への投資には大きなリスクを取る」、「素晴らしい助言や指導をしてくれる」、「素晴らしいリターンを生み出す」、「大きなベンチャー・キャピタルほど良い」、「ベンチャー・キャピタルはイノベーターである」)は、全て神話であると断じている。

・伊佐山氏は、「目指せ起業大国、失敗ですべて失う慣行変えよう」という記事で、『シリコンバレーでは、「リスク」には「計算された行動で、うまくいった場合の成果が大きい」という意味合いが強い。』、と述べているが、計算可能なリスクに基づく投資はイノベーション促進的ではない(実際、ベンチャーキャピタルのスタートアップ企業への投資は短期間かつ小規模)。

・武石彰氏、青島矢一氏、軽部大氏らの『イノベーションの理由 -- 資源動員の創造的正当化』に見るように、あるいは、古くはケインズやシュンペーターらの言説に見るように、イノベーションは計算できない不確実性に対する資源動員の結果として得られるものだから、計算可能なリスクのみに基づいて行動するベンチャー・キャピタルはやはり非イノベーティブ。

・そもそもリスク計算が正しい保証もない。金融工学の第一人者が経営したLTCMの破綻や、金融工学的手法が存分に利用されていた格付け会社でサブプライムローン関連証券が高い格付けを得るなど、様々な陥穽が生じ得る。


Ⅱ.「②ベンチャー・キャピタルは、投資の判断に当たっては「人」を見る。」について

・ベンチャー・キャピタル5社が2011年~2013年前半に出資したシリコンバレーの会社88社を対象にロイター社が調査を実施したところ、このうち70社の創業者が「大手IT企業の幹部職経験者や、影響力のある人物と関係する会社に勤めていた人」、「すでに起業の経験がある人」、「スタンフォード、ハーバード、MITのいずれかで学んだ人」であり、「その人の情熱やコミットメントを見ている」という伊佐山氏の主張とは裏腹に、経歴や肩書、コネが最重要視されている傾向が見て取れる。

・元々そうした経歴やコネがある人物にとって再挑戦が容易なのは当たり前で、そのようなシリコンバレーの現状は、日本の施策の参考にならない。

・そもそも古くは荻生徂徠も言うように、人を事前に評価するのは極めて不可能で、やらせてみなければ分からないのが普通である。適性もあるし、経験による成長も織り込まなくてはならない。それこそ計算不可能な不確実性の最たるもので、だからこそベンチャー・キャピタルも実際には外形的基準に依存している。




今一度まとめれば、ベンチャー・キャピタルは、「計算されたリスク」を取ると称して、基本的には短期間に端金しか出資しない代物で、大規模かつ長期間の資金供給を必要とするイノベーションの担い手には到底なり得ないし、ベンチャー・キャピタルによる「人」の評価というのも、経歴やコネなど外形的基準を足切りに使っている底の浅い代物だ、と指摘されているわけである。

(了)


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