ウォーレン・モズラー「命取りに無邪気な七つの嘘」紹介①(政府支出と徴税能力について) | 進撃の庶民 ~反新自由主義・反グローバリズム

本日は、望月夜様の寄稿コラムです!

ウォーレン・モズラーの翻訳を頂いているのですが、このモズラーはガルブレイス教授(格差と不安定のグローバル経済学などを著した)いわく「物事を平易に表現できる人」だそうです。読んでいて、むっちゃ面白いです!

なるほど、モズラーの現代貨幣論は非常に平易でわかりやすく、望月夜様いわく「啓蒙に重きを置くモズラー」との評し方も納得です。

本日のコラムでモズラーの言っていることは、文中にはその言葉は出てこないものの、万年筆マネー(万年筆で数字を書くだけで、貨幣が生み出される)と、租税貨幣論のさわり、そして機能的財政論かと思います。

読んでいただければ「なるほどっ!」と理解は容易かと思いますので、1つだけ用語解説しておこうかなと。

ソルベンシー:日本語では財務健全性とか訳されます。ソルベンシー・リスクは「健全ではない財務リスク」と読み替えて良いかと。

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ウォーレン・モズラー「命取りに無邪気な七つの嘘」紹介①(政府支出と徴税能力について)~望月夜様

noteにて、「経済学・経済論」執筆中! また、「望月夜の経済学・経済論 第一巻」「望月夜の経済学・経済論 第二巻」も発売中! その他、 「貨幣論まとめ」 「不況論まとめ」 「財政論まとめ」 などなど……


今回は、MMTerの一人であるウォーレン・モズラーの翻訳記事「命取りに無邪気な七つの嘘」を紹介していきたい。

これまで紹介してきたビル・ミッチェルは、歴とした経済学の教授だったわけだが、このモズラー氏はやや毛色が違う。彼はアカデミシャンではなく、ファンドマネジャーとしてキャリアを積んでおり、あくまで”独学”のエコノミストだ。

とはいえ、その経緯もあって、彼はMMTの研究以上に、啓蒙に熱心である。今回から紹介していく彼の記事も、MMTをまだ知らない人々にわかりやすいように苦心して書かれている。私がこれまで翻訳し紹介してきたビル・ミッチェルの記事よりも、こちらの方がわかりやすく役に立つ、といったことも十分考えられるはずだ。

早速、以下に紹介していこう。

MMT(現代金融理論)のエッセンス! ウオーレン・モズラー「命取りに無邪気な嘘 1/7
『命取りに無邪気な嘘 その1:
政府は支出するために、まず税金や借入によって資金を調達しなければならない。 あるいは、政府支出は、徴税能力と借入能力に制限されている。』
『事実:
政府の支出は、収入には全く制約されない、つまり「ソルベンシー・リスク」というものは存在しない。言い換えれば、連邦政府は赤字の大きさとは無関係に、また税収がいかに少ないとしても、自国通貨を用いた支払いをすることができる。』


冒頭ではまず、「政府は支出するために、あらかじめ税をとることによってお金を確保しておく必要があると考えるのはナンセンスだ」ということが強調されている。

納税に際して、小切手で振り出すなら、あなたの銀行預金口座の数字が減るだけだし、現金で納税するとしても、それは税務署でシュレッダーされる。「そう、それは捨てられる。破壊される!なぜ?もう使い道がないのだ。ちょうどスーパーボウルのチケットと同じだ。スタジアムに入って窓口にチケットを出すときには1000ドルの価値だったかもしれない。担当者はそれを切り刻んで捨てる。ワシントンに行けば裁断された紙幣を本当に買うことができる。」


次に、「政府はどのように支出しているのか」という疑問に対して、端的に「お金は、銀行口座の数字を変えるだけの操作によって払い出されている(支出にしても貸出にしても)」という現実を指摘している。

「支出する前に、あらかじめ税(または借入金)を「獲得」することなどまるでなくて、ただスプレッドシートに数値を入力することが、私たちが「政府支出」と呼ぶものなのだ。そのデータはどこからか「やってくる」ものではない。それなら誰でも知っている!」

「大統領がいつもいつも間違えるように「連邦政府の金が尽きる」ということはない。それはありえない。それから、中国だかどこかからドルを「獲得」しなければならないということもない。政府が支出の時にしなければならない事といえば、連邦準備銀行のある口座の数字を変えることだけ。政府が支出を望むなら、その金額に上限はない(社会保障でも利払いでもそう)。誰に対して払う場合であれ、政府によるドル払いは全部これなのだ。」

その上で、モズラーは以下のように釘を刺す。

「ただし、これは政府がいくら支出しても物価が上がる(つまりインフレ)可能性がないということではない。」

「そうではなく政府は破産のしようがないということだ。それは単純にあり得ない。」

こうして、真の問題と偽の問題が切り分けられた。政府支出が起こし得る問題はインフレである。政府それ自体が、民間部門のような”破産”を起こす恐れは全くなく、それへの警戒は杞憂、ないし欺瞞である。


こうした政府の通貨・会計システムを説明する例として、モズラーは「親が子供にクーポンを発行・支出して家事を課すケース」を用いている。

「まず親がクーポンを作ることで話が始まる。次に、子供たちに家事を頼む時にこのクーポンを与えると決める。その次は「モデルを動かす」ために、毎週10枚のクーポンを税として子供たちから集めることにする。税を支払わない子供には罰を与える。これは、私たちも税を払わないとペナルティがあるという現実の税をコピーしている。クーポンは新通貨だ。親は「支出」することによって子供たちから「サービス」(家事)を購入する。この新しい家庭内通貨における両親は、通貨の発行者として連邦政府に相当する。この「独自通貨を持つ家計」は独自通貨を持つ政府と非常に似ているとわかるだろう。」

「では、この通貨がどのように機能するかの質問だ。親は子供の雑用への対価としてクーポンを支払うことになるが、そのためにあらかじめ子供たちからクーポンを徴収しておかなければならないのだろうか?もちろんそんなことはない。むしろ逆に、週10クーポンを徴収できるようにするためには、先に子供に家事をしてもらってクーポンを支払っておく必要がある。そうでなければ子供たちは親に支払うクーポンを得ることができない。」

「親子クーポンの話では、親がどれだけクーポンを持っているかはどうでもいいことになる。親は、子供たちがどれだけ稼いだか、と、彼らが毎月の10クーポンを支払ったかどうかだけを紙一枚にメモしておくだけでいい。」


この例示は、通貨システムの本質をほぼ過不足なく説明していると言って良い。政府(統合政府、財務省+中央銀行)が、支出に際して通貨をあらかじめ税によって徴収する必要などないどころか、むしろ国民が納税を行うためには、政府があらかじめ支出を行って、国民に通貨を事前に供給しておかなくてはならない。

「ドルの支出できるようになるためには、まずどうにかしてドルを用意できる状態になっていなければならない。稼いだり、借りたり、何かを売ることで初めてドルを使えるようになる。つまり私たちが納税しなければならないドルが直接的または間接的に由来しているのは、通貨の始まるところ、つまり政府の支出からなのだ。」

「私たちが税金を払えるようにするためにはまず政府の支出が必要だ」

これは完全なる事実であるにも関わらず、全く逆の認識が世間には浸透してしまっている。


ここで、モズラーの興味深い小噺を、少々長くなるが引用したい。

「数年前、オーストラリアの経済学カンファレンスで「政府の小切手は不渡りにならない」と題した講演をした時のことだ。聴衆の中にオーストラリア連銀で首席研究員を務めるデイビッド・グルーエン氏がいた。あれは最高のドラマだった。」

「私は米国政府の小切手は不渡りにならないという話を始めたのだが、数分話したところで、デイビッドの手が上がり、中級の経済学部の学生がよくやるようなお馴染みの台詞を言った。「もし債務の金利がGDPの成長率を超えたら、政府債務は維持不能だ。」質問ですらなく、あたかも事実だとして述べたのだ。」

「対して私はこう答えた。「さあ私は連銀の端末入力担当者だ。デイビッド、教えてくれないか、”維持不能”っていうのはどういう意味だい?金利がとても高くて、過去20年間で政府債務が大きくなりすぎたから政府は金利を払えないと言うのかい?自分はちょうどいま年金受給者への小切手を切るところだけれど、この小切手が不渡りになるよと言っているのかい?」」

「デイビッドは黙り、深い思考に沈み、このことを考え続け、ついにこう言った。「ああ、自分は今日ここに来た時まで、準備銀行の小切手清算がどのように機能しているのかちゃんと考えたことがなかった。」」

「ついにデイビッドは言った。「いや、その小切手は普通に処理する。でもそれはインフレを引き起こし通貨価値を下げる。人々が”持続不可能”という言葉で意味しているのはそれなんだ。」」

「私はデイビッドに話し続けた。「ええと、ほとんどの年金支払者が関心を持っているのは、引退したときに基金が存続しているだろうか、とか、オーストラリア政府はもう基金に支払うことができなくなるのでは、ということじゃなかったのかな。」対してデイビッドはこう答えた。「いや、彼らが心配しているのはインフレーション、オーストラリアドルの水準だと思う。」」

「あの日、シドニーの学会で参加者が確認したこととは何だっただろう? 独自通貨を持つ政府は、政府が望みさえすれば、常にフットボールスタジアムと同じように、ボードに好きなポイントを入れることができる。過剰な支出の帰結はインフレーションかもしれないが、決して破産ではない。」

最終的には、以下のようにまとめられる。

「事実はこうだ。:政府債務が支払い不能を引き起こすことはあり得ない。ソルベンシーの問題は存在しない。支出とは政府自身の準備銀行に持つ口座の数字を増やすだけの行為なのだから、「お金を使い果たす」ということはない。」


さて、ここからモズラーは「は政府は支出のために何かを得ているわけではなく、そうしておく必要もないのなら、政府はどうして私たちに税を課しているのだろうか?」という問いへと向かっていく。

「政府が私たちから税金を取ることには、大事な理由がある。税は、経済の中に「ドルを獲得するニーズ」を生み出すのだ。このことゆえに、人々はドルを得るためにモノやサービスや労働を売らなければということになる。納税の義務があるからこそ、政府はもともと何の価値もない紙切れでモノを買うことができる。そのドルを納税のために必要とする人がいるからだ。」

またモズラーは、既に用いた親・子ども・家事・クーポンの例を意識しつつ以下のように述べている。

「親自身はクーポンを必要としないのに子供から週10のクーポンを取る需要がある。それと同じ理由だ」

「子供たちに課するクーポン税が、家事をすることで親から稼ぐクーポンのニーズを生み出している。」

モズラーは、わかりやすい史実の例として、英国の植民地運営を引用している。

「1800年代のアフリカで、英国が作物を作るために植民地を作ったときの話だ。最初英国は現地の人々から職を募ったが、英国のコインを稼ぐことに興味を示さす者は誰もいなかった。そこで英国はすべての住居に「小屋税」を課し、それは英国の硬貨だけでしか納められないものとした。すると地域はたちまち「マネタイズ」され、人々は英国の硬貨を必要とすることになり、それを得るためにモノや労働力を売りに出し始めた。こうして英国は彼らを英国硬貨で雇い、作物を育てることができるようになったのだ。」

モズラーは、税のもう一つの機能として、総需要抑制効果を挙げる。政府が十分に支出しつつ、インフレを発生させないための適切な徴税の基準がある、というわけだ。その裏では、政府支出が要求する「本当のコスト」が、実物資源の接収(による機会費用)であることが根本にある。

ここではモズラーは、不況に際して政府を拡大することも、財政黒字に乗じて政府を拡大することにも反対している。尤もそれは、「あらかじめ適正な大きさの政府にしてあるのなら」という極めて強力な留保の上での話であるし、私見を述べれば、不況においては、実物資源が余剰となり、政府支出による機会コストは低下しているので、基本的には政府拡大が望ましくなる可能性が高いのではあるが。

さて、モズラーのこの見解をまとめれば、「税の機能は経済を統制するためであって、議会の支出のためのお金を得るためではない。」となる。


「政府がこの「命取りに幼稚な嘘」の第一番、「政府が支出をするためには、まず税金や借入によって資金を調達しなければならない」を信じ続ける限り、産出と雇用を制約する政策が支持され続けていくだろう。そうやらなければ素晴らしい経済的結果など、容易に達成できるのだが。」

(了)


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