B級スタンダード・決勝――


「競技ナンバー３７、B級戦スタンダード決勝です」


泣いても笑っても、これが今年最後、そしてB級として戦う最後のフロアーになった

並んだ6組が、背番号と名前を呼ばれて進み出る


「背番号〇✖、ドロン、リー組」


決勝の舞台に上がれたものだけの栄誉のコールを受け、俺はリーの手を捧げてフロアーを縦断、主催者席側左長辺で向き合った。


ワルツ


並走する組は外側に一組。

流れ出したギターの音色に左手を差し上げ、リーを招き入れる。

大きくプレパレーションしてスタート

この一年の感慨を胸に、フロアーを丁度一周したところで90秒は尽きた。


タンゴ


少し右手へ戻ってポジションを取る。

今度はバイオリンが奏でる印象的なイントロで、リーをホールド。

ゆっくりとPPに開いて息を合わせて飛び出した

フロアーを転々。こちらはフロアーを一周して、更にルーティンの二巡目に入ったところでタイムアップ。決勝は１曲が長い


「ありがとうございました。選手の皆さまには水分補給の時間を取らせていただきます」


中々成果の出せないタンゴへの力みからなのか、既に俺は力を使い果たした状態で、主催者席に頭を下げるタイミングで膝に手を置き、荒い吐息を吐きだした


「行ってくるね」


コーナーに置いたペットボトルでリーを振り返りながらの給水


スロー


リーの元へと戻った俺は、そのまま主催者席の右端を指さし移動する

各組がポジションへと戻るまでの間に、俺はリーへと歩み寄り、その小さな肩に両手を置いた。

感謝からだったのか、最後まで頑張ろうという意味だったのか、自分でもよくわからない

リーは少し驚いてから、俺を見返しニッコリ微笑んだ


「それでは競技を再開します」


並走する組は内側に一組。

流れ出した音楽にリーをホールド。大きく身体を揺すった俺たちは、フェザーステップでフライトして、大外を巡って進みだす

最初のコーナーで内側の組とも離れてスペースは十分の筈だった。

ところがだ

シンコペーティッド・スリーステップからコーナーを切り返してタンブルターンで振り返った瞬間。


�爛疋���


どこにいたのか、いきなり現れた全く別の組の男性と、リーが背中合わせに激突してしまう


「大丈夫か？」

「大丈夫ですか？」


思いのほか激しい接触に、謝るより先に俺も相手もリーを気遣った。


「大丈夫大丈夫です」


一瞬、顔を顰めたリーは、それでも気丈に振る舞って、お互い頭を下げ合ってから、再度のスタート

俺たちはバックステップでその場を離れて、残りのルーティンを踊り切った。


「痛かったろ？本当に大丈夫？？？」


曲が終わると同時に俺はリーの顔を覗き込む。


「うん。痛かったけど大丈夫。ビックリしたね〜」


リーの笑顔にホッとする。


クイック


とうとうこの日最後の種目。

リーを連れて主催者席側の右端に移動。


「Lucky、Lucky、Lucky、Lucky Day〜」


この日を象徴するようなコーラスに、リーの手を取りプレパレーション。ナチュラルターン＆ターニングロックを決めると、リーと二人で走り出す


「Lucky、Lucky、Lucky、Lucky Day〜」


最後の力を振り絞り、フロアーを一周半ほどしたところで、すべての種目は終わりを告げた


「お疲れさまでした。本当におめでとうございます」

「ありがとう。なんとか踊り切ったよ」

「面白かったわ〜、ドロンたら、途中で死にそうな顔してるんだもの」

「スタミナ切れ。準決勝がマックスだった」


表彰式を終え、表彰状を手に戻った俺たちを、メアリー＆アンソニーが待っていてくれた

当然のように常勝ペアが優勝したが、順位は問題ではなかった。

俺たちは、サバイバルを賭けて戦って、そして生き残ったのだ。


「昇級おめでとう。やったなぁ 」

「ゲージツ家さんたちこそ、昇級おめでとうございます」


ゲージツ家さん＆エマさんも又、サバイバルを勝ち切っていた

タクシーで帰る俺たちは、自家用車で帰るゲージツ家さんチームと別れて荷造りをして、メアリー＆アンソニーと日が暮れた駐車場へと出て行った。


「わぁ、星が綺麗〜」


冷たく澄んだ夜空に、星が輝いている
（「ハチャメチャB級奮戦記」END）





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