Fish On The Boat

書評中心のブログです。記事、それはまるで、釣り上げた魚たち ------Fish On The Boat。

『リプレイ』

2018-10-10 21:47:39 | 読書。
読書。
『リプレイ』 ケン・グリムウッド 杉山高之 訳
を読んだ。

1988年のとある秋の日、43歳で死亡したジェフ・ウィンストン。
しかし、気がつくと18歳の自分に戻っていた。
記憶と知識は43歳当時のままで、肉体と時代は25年前のもの。
繰り返される人生は、彼に何をもたらすのか?
世界幻想文学大賞を受賞した作品。

面白かったです。
序盤はまあ、そうなるだろうという程度の深度だったのが、
どんどん深度を増していきます。
つまり、主人公の思索というか、作者の思索が深まっていく感じなんですね。
そういうある種の深淵に降りていくのが長編の醍醐味であるなあと思いました。
でてくる言葉にしても、モノや地名や歴史などのバリエーションにしても、
作者の博識さには、作者が人生に真剣に取り組んできて、
その姿勢で正面から勝負しているさまがわかるし、
それが心のレーダーにだけひっかかる衝撃波のようにこちらに伝わってくる。

こういうよくできた人生の繰り返しの話を読むと、
自分も同じように人生を繰り返してみたい、と夢見そうなものですが、
僕の場合は逆に、この一回きりの人生の尊さ、リセットのきかない希少性、
そして、いつなんどき人生を終わらせるかわからない
「死」というものの仕組みのその役割の大きさを感じました。
特に「死」でもって強制的に人生を終了して、
そのあとは何も残されていない、
という状態の不可逆性をとみに妙な実感をともなって、
あらためて教えられた感があります。
死んだら終わりだとわかりきっていたのに、
それがどういうことか、頭だけの感覚というより、
肌感覚に近いようなところで想像することができたといったらよいでしょうか。

そういう気持ちにさせられたり、考えさせられたり、浸ったり。
だから、面白いフィクションって宝物みたいです。
エッセイや論説もの、科学ものなんかも面白いけれど、
フィクションをもっと大事に思おう!という主張には大賛成ですね。


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