70の瞳

笑いあり涙あり、36人の子どもたちが生活する児童養護施設「さんあい」の出来事や子どもと職員の声をお聞きください。

生存者の偏見

2018-07-13 15:13:02 | 愛すべき子どもたち

心理学の用語で、Survivorship bias (サバイバーシップ バイアス)という言葉がある。日本語に直訳すると、「生存者の偏見」或いは「生存者バイアス」となる。どんなことか例を挙げて解説すると、例えば、「自分は高校生の時の部活で、先生から叩かれてしごかれて上手になり大会にも優勝できたから、部活の指導で体罰を与えて鍛えるのは良いことだ。」と主張すること。或いは、「風邪を引いたら医者なんかに行かないで、卵酒を飲めば一発で治る。」などという主張もそうだ。

更に、「昔は今より不衛生で医療も発達していなかったが、子どもたちは元気でアトピーもアレルギーもなく、今より良かった。」と主張するのも、「生存者の偏見」に他ならない。なぜなら、実際には多くの子どもたちが今では考えられない感染症や事故で命を奪われていったのが昔なのだ。

上に挙げたのは、極端な例かもしれない。しかし、現在世の中に蔓延しているビジネス成功例、夢が叶う方法や東大に合格させた子育など、すべて「生存者の偏見」と言っても過言ではない。つまり、その方法で成功した人(生き残った人)の声はマスコミに注目されるが、現実には同じ方法で失敗した(生き残れなかった)沢山の人々の例があり、それら方々の声は拾われないのが現実だ。

「生存者の偏見」という視点で、これからの児童養護施設や社会的養護の議論を耳にすると、ベテラン職員や大御所施設長から時々聞く、〝大舎養育の素晴らしさ、里親委託より施設養育の方が上、卒園児に感謝された云々″のお話は、その類の偏見に聞こえてならない。 また、その逆の偏見で「失敗したからもうこの方法はだめだ」と烙印を押すのは「認知バイアス」といってこれも議論の妨げになる。

社会的養護の必要な子どもたちのニーズは、昔とは違ってより複雑で困難になっている。 まず現場の声を聞き、そこをしっかりと分析することが必要だ。子どもたちはより傷ついている、そして回復するには高度な技術と時間が必要になっている。その子どもたちを守り育てるためにあらゆる偏見を捨てて議論し、1人ひとりの子どもにとって最善の養育を社会が提供できるようさんあいとしての役割を全うしてゆきたい。

 

 

ケアの難しい子どもたちのために、スパーバイザーの支援のもとでカンファレンスを開いて最善のケアを探る職員たち。


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