英宰相ウィンストン・チャーチルからのメッセージ   

チャーチルの政治哲学や人生観を土台にし、幅広い分野の話を取り上げる。そして自説を述べる。

将来の経済破綻の可能性に危機感なき政治家   参院選の演説を聞いて思う

2019年07月19日 22時43分14秒 | 経済・財政
  今回の参院選で、安倍政権と与党は消費税率の10%への引き上げを掲げ、野党各党は反対の声を全国津々浦々で上げている。しかし近い将来に直面する厳しい経済危機を国民に知らせていないだけでなく、その対応策を示していない。
  人口動態調査から見えてくる2020年の東京オリンピック後に本格化する人口減少と少子高齢化による国内総生産(GDP)の縮小は、確実な暗黒の未来だ。
 GDPは、公的年金や学童の学費無償化などを保障にするエンジンである。現在のGDPレベルを堅持してこそ、現在の社会福祉水準は保障される。
  現在、多くの国民は公的年金などの社会福祉政策に不満を抱いていても、支給されているため、不満のレベルで押しとどまっている。しかし、GDPが縮小していけば、厚生年金を受け取る退職者の金額が2千万円不足するどころの話しではなくなる。生涯の年金不足額が6千万円不足するといわれている現在の国民年金受給者1471万人と将来の国民年金受給者には想像がつかない暗い老後が待っている。しかも、1471万人の半数は保険料未納なので低年金・無年金になる可能性がある。
 このままでは日本経済は確実に破綻する。資産運用会社ゴールドマンサックスの元アナリストのデービッド・アトキンソン氏は「今すぐにでも対応を始めないと、近い将来三流先進国に成り下がることは確実です。下手をすると・・・途上国に転落する危険すらある」と警告している。
 GDPが奈落の底へと落ちていけば、現在の社会福祉政策を維持するのは不可能になるばかりでなく、日本の借金が仮に増えなくても、縮小するGDPに対する比率が高まり、日本人の肩に現在以上の重荷として食い込んでくる。ましてや1200兆円とも言われる借金がさらに増えれば、どうしようもない事態に至るのは必至だ。
 しかし「嵐が目の前に迫ってきているのに、(日本人の)危機感はまったくといっていいほど感じられない」(アトキンソン氏の発言)。その危機感のなさの先頭に立っているのがノー天気な与野党政治家だ。
  安倍内閣や与野党各党、新聞各紙は現在のGDPのレベルが維持されるという前提で話している。安倍晋三首相は7月18日の三重県四日市市での演説で、消費税増税への理解を有権者に求めた。税率が一律なため、低所得者層に負担感が強い。このため、国民の負担感を軽くするため、国の借金返済に充てる予定だった消費税増税の税収分の一部を、幼児教育無償化などに振り替えた。
  首相は3日の日本記者クラブ主催の党首討論会で「(10%の消費税増税後)今後10年間は上げる必要はないと私は思っている」と語ったが、その根拠を示さなかった。また悪化の一途をたどっている国の財政をどうするのか、長期的な展望に立った解決策を示していない。
  社会保障の財源を消費税増税だけに頼る政府自民党の路線は、さらなる消費増税をもたらし、日本の経済破綻を遅らせるだけの効果しかもたらさないだろう。低所得者層への給付金などの消費税増税対策終了後の1世帯当たりの家計負担は、年間4.7万円増える。各家庭の所得が上がらなければ、ますます生活は苦しくなる。
  一方、野党は消費税増税反対で足並みをそろえる。野党第1党の立憲民主党の枝野幸男代表は記者団に消費増税が参院選の大きな焦点だと位置づけ、「消費増税を容認する自民、公明に投票するよりも、いま凍結すべきだという野党5党派に入れる有権者が多い現実を突きつけることだ」と話した。(7月19日付け朝日新聞朝刊)
  野党各党は、内部留保が膨れあがっている大企業優遇政策を転換し、そこから財源を確保すべきだと説く。消費増税を撤回して大手企業や富裕層への増税を訴えるが、それだけで充実した社会福祉政策が可能なのか。
   総じて具体的な財源論に乏しい。消費増税に反対する社会保障の具体的な財源(大手企業や富裕層への増税)は焼け石に水だろう。
  膨らみ続ける社会保障関係費や天文学的な段階に達した国の借金1200兆円(日本の国家予算の10年分以上)は与党の自民党や野党各党が訴える政策を不可能にしている。借金のGDP比率は2倍以上で、世界で一番高い。
  日本経済が破綻するか、危機を脱して回復基調を始めるかの分水嶺に立たされているわれわれは、既存の延長線上で解決策をもとめるのではなく発想の転換をしなければならないと思う。
  GDP総額=人口×一人当たりの生産性、生産性=GDPの総額を国民の数で割ったもの(1人当たりのGDP)、GDP=労働者の給与、企業の利益、政府への税金などだ。
  日本の人口減少は総務省が4月に発表した2018年10月1日時点の人口推計によると、外国人を含む総人口は17年の同じ月に比べて26万3千人少ない1億2644万3千人だった。2008年をピークに減り続けており、減少率は0.21%で、統計を取り始めた1950年以来、最大となった。
  日本の総人口は減り続け、2060年には日本の生産労働人口は約3200万人減少し、その規模は現在の英国の総生産労働人口とほぼ同じだ。これは今まで世界が経験したことのない規模である。
  この大幅な人口減少では、日銀がこれまで進めてきた既存の金融の量的緩和ではデフレ解消は不可能だ。また人口減による需要の減少、それに伴う税収の減少は消費税増税をしたところで年金などの社会福祉対策の抜本的な解決にはつながらない。
  アトキンソン氏は「社会保障のためにGDPを維持する必要があり、人口減少と高齢化により需要が構造的に減る。・・・個人消費を増やすために継続的な賃上げ必要だ」と語る。人件費の増加による事業の利益の落ち込みを押さえ、さらには利益を上げるには生産性を向上させなければならないと説く。このようにして、日本のGDP総額を維持する必要があるという。
  私には現在のGDPを維持するためには生産性を向上させることが正しいかどうかは分からないが、日本の生産性が世界28位と低く、それでいて人口が減少していけば、GDPが縮小していくのは理解できる。GDPが縮小すれば、現在でさえ不十分な年金などの社会福祉政策が行き詰まることは目に見えている。
  21日に投開票される参議院選挙の各党党首や候補者の演説をテレビなどで聞き、あまりにもこの問題に対する危機感のなさに唖然とする。自民党のプリンス、小泉進次郎氏は「年金破綻はうそだ」と話すが、これから到来する大規模な人口減少と労働者の低い生産性を考えれば、必ずしも「うそ」とは言いきれない。
  私は「うそ」だと信じたい。しかし与野党の国会議員が危機意識を持たなければ、日本経済は三流先進国となり、年金は破綻しなくても、老齢者の悲惨な老後が待ち受けているだろう。

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