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ロシア大統領所信表明演説:次世代に向けた機構改革

2020-01-16 14:52:11 | アジア情勢複雑怪奇

このところ毎年しっかり見てるロシアの大統領による所信表明演説を今年も見た。

最初の30分ぐらいは、出生率がソ連崩壊後1.1まで下がった(大祖国戦争時より低い!)ところから1.6、1.7ぐらいまで行ったがその後また1.5程度になってる。これではいかん、と。なんとかせねばならないとして、いわゆる子ども手当みたいなのを増額していくスキームを延々説明。

ファミリーこそ国の基といった建付けで、様々な支援策を披露していた。10歳まで小学校の子どもは全員温かい給食を無料で食べられるそう。この政策を巡っては金持ちの子弟にまでそんなことをするのはおかしいという議論も延々やったが、そういうことじゃない、子ども全員が対象だというのでいいんだ、という結論になったそうだった。これってものは考えようだよな、と私は思った。金持ちの子どもと貧乏人の子どもを分けるのもまた、むしろ金だけが指標になってしまった人の発想ではあるんだよな、と。

財政的には、国家安定のための基金の積み立てがGDPの7%になったので、この金をロシアの今後のために大胆に使っていこうという発想であるように見えた。財政黒字、貿易収支黒字、経常黒字の国家っていいよね、ほんと。

 

と、その後から今度はロシアの政治機構改革の話になって、これは憲法改正が必要なので、それを国民投票にかけようという。

要点としては2つだったかと思う。

ロシア憲法を各種の外国との条約等々の上に置く。本当のsovereignはロシア国民であるという建付けの明確化。

そして、首相の指名権を大統領ではなく下院に持たせる。大統領はそれを任命する。

 

これは何を意味しているのか。

戦時から平時への移行とロシア人主権の明確化いうことなんじゃないかと私は思いますね。

ソ連崩壊後バタバタと作った憲法をなんども改正してきたが、最終的なロシア国民によるロシア憲法の至高性の確立と宣言には至っていなかったところを、やる、ということでしょうか。

我々の法域におけるロシア憲法の優位性を保証する、

国際法および国際機関の決定はロシア憲法に抵触しない限りにおいてロシアにおいて効力を有する、

とプーチンが言っているのはそれだと思われる。

"It is time to make some changes to the fundamental law of the country, which would guarantee the priority of the Russian Constitution in our legal space. What does this mean? It means that requirements of international law and decisions of international bodies can only be enforced in Russia to such an extent that does not violate human and civil rights and freedoms and does not violate our Constitution,"

 http://en.kremlin.ru/events/president/news/62584

 

具体的には、おそらく、欧州人権規約なんかに繋がれていて、そっちを優先して受け入れるようになっていたんだろうと思う。

また、現在アメリカは、自分の国で決めたものをあたかも国際条約か何かのように他国で効力をもたせようとしている傾向を非常に強く持っているので、こういう動きに対する防御にもなる。(というか、アメリカがエゴの拡張によって狂人化しているというのが正解だと思うが、言って聞く相手ではないのでまずは防御する)

といって、今すぐ何かが変わるわけではないだろうと思うけど、この部分を明確化し、かつ、それを国民にしっかり理解させて、選ばせ、維持させる、と。

 

■ 国民主権の方が安全

で、大統領にではなく、下院に内閣の内容を作る権限を与えるのは不安ではないのか、という時のためには、安全保障理事会の権限の明確化で応える、ってことかな、と。

つまり、前に、「ロシアは元老院優位の共和制指向と危機対応システム優位型の混在」と書いたことがあったけど、この元老院にあたるのが上院でもあり、安全保障理事会でもあるって感じではなかろうか。

戦時と平時を分けて考えてるとも言えますね。そしてこれはロシア国民にとっては安心材料だと思う。だって西側に狙われ続けて300年ですから、ロシア国民が最も懸念しているのは安全保障というのは衆目の一致するところ。

 

だがしかし、それでも下院の優位性というのは、戦時の多い体制からすると不安に思えないこともない、という議論も結構あったんじゃないかと想像する。

しかし、多分ね、そうじゃなくて、むしろ、プーチンらはマジョリティの意思を裏切れない構造にしておく方が安定し、そしてそれが安全につながる、と考えているのではなかろうかと思う。

なぜなら、ソ連はどうして一夜にして倒れるようなことになったのかといえば、ソ連領内の市民に権力が、というより権力を示す手段がなかったから、ではなかろうか。(ソ連の方がよかったと言う人たちが今でも過半数以上の共和国が結構あるぐらいなのが実態)

つまり、ソ連は利口な人たちが上でしっかりやっているから大丈夫という建付けなので、それが故に効率的だったことも有効だったこともあった。しかし、別の見方をすれば要路にある人たちが裏切ったら取り返しようもないことになる。

 

とはいえ、その国民が、ワシントン・コンセンサスこそ天壌無窮の神勅よね、とかいう国民だったら一夜ではないにせよ、徐々にロシアが壊れるのも自明。

そこで、ロシアとはどういうものかを知らしめるために、過去20年間様々な機会にnationとしてのロシアの歴史を紐解き、その最終的なエピソードとして1945年に終わった大祖国戦争をもってきて、その子孫としての我々を理解させることによって、unity(連帯)を確かなものにした。

我々はロシアを守る「不滅の連隊」である、と。

これはロシアの5月9日のビクトリーデー恒例の「不滅の連隊」の様子。

近年、毎年、国中で800万から1000万人ぐらいの人が外に出て、大祖国戦争当時の自分の祖先の写真などをもってパレードというかマーチというかをする。

ロシア世界が守られてよかった、守ってくれた祖先に感謝する、今度は私たちが不滅の連隊となってロシア世界を守る、ってなのが趣旨だと言っていいでしょう。

もし、沢山の人間が何らかの支持のためにデモンストレートすることが民主主義的で良いことなのだというのなら、世界中のメディアはこぞってこのマーチを毎年取り上げるべきではないのか? これこそ大多数のロシア人の確固たる意思の表明でしょう。

人口の5%ぐらいがマックスだろうと言われているロシア国内のいわゆる「リベラル派」の動向だけを取り上げるというのは、まったく不公正で、そして、現実のロシアを知るためにまったく不正確な話。

nationを守る vs 利益を守る &文明史雑感

 

■ スターリン後の混乱を避ける

ということで、プーチンたちは自分たちの政権というのは緊急事態対応的な政権だという自覚があって、これでは長持ちできない、と考えてきたんだろうと思われる。

その時彼らの頭の中で共通に懸念材料とされていたのは、スターリン後の混乱だったんじゃなかろうか。スターリンは、西側がなんといおうと、革命から内戦、ポーランドと日本による領土分捕り願望の戦争といった混乱を制して、大祖国戦争でロシアを守ったおじさんには違いない。

だがしかし、その過程で生じた様々な裏切りやら策謀やらを力で制していったために、大変な混乱を内包していた。西側からのスリーパーもいっぱいいた。それを整理できない上に、さらには50年代から西側とは表面では「戦後」とか言ってるけどずっと「冷戦」という戦争をしていた。だから、ソ連は大まかにいえば戦時体制を変えられなかった。

プーチンは可能性としてスターリンと同じになる道にいた。ロシアを立て直したはいいけど、次の大統領がフルシチョフみたいになったら、またまた西側との協力体制という名で引きずられる道が見えている。

だから、そうならないようにするために、

1) 国民主権を確立して、国民の意思が表明できる体制を作る(sovereintyの確立)

2) その国民がよって立つロシアとは何かを国民の間で共有化する(unityの確立)

さらにもう1つ、

3) 西側は天国ではないし、嘘ばっかりついてきたという点を明確にする(プロパガンダに負けない体制の確立)

といったことを実行して安定したロシアを作る。これがプーチンをリーダーとしたロシアのエリートたちがこの20年間に達成した柱だったのかなと思う。

 

3)はかなり重要でしょう。西側みたいになるといいんだよ、という悪魔のささやきというか妄想こそ、ソ連の中の人たちが、ソ連を上手に改変して使う機会をもてなかった根本的な原因の1つでもあったんじゃなかろうかと思うな。自分たちが不満であるのは、きっと西側のようになってないからだわ、みたいな。

そして、ソ連は閉鎖系で情報を遮断することで頑張っちゃったもんで、これを取捨選択して落ち着かせられなかった。

逆にいえば、西側のソ連の悪魔化が非常に有効だったとも言えるでしょう。

(しかし、こうやって馬鹿を雇ってソ連に攻撃を仕掛けた結果として、手持ちの政治資産がテロリストメンタリティーのジハード主義者とアホなクリスチャンシオニストと反共主義者ばっかりになった、とも言えるのでこれは西側の負債になってると私は思うが)

だからこそ、プーチン政権は西側メディアを制限せず、入るものは拒まずにして、その上で嘘を指摘するという作戦に出た。折しも、過去10年ぐらいは、西側の各国民(特にアメリカ人)もまた自分たちのエリートの嘘とだらしなさに辟易してオールタナティブ系のニュースを出してきている状況が持続しているので、これはプーチン体制にとっては追い風だった。プーチンたちが、ロシアの皆の衆、自信を持て、と言えちゃう機会をてんこ盛りで用意したのは、もってアホな西側メディア。

 

ということで、プーチンのロシア愛には感嘆させられることが多かったわけだけど、彼の周辺のロシアのエリートたちを含め、彼らはステルス帝国の子分になると安全だわとか言ってる人たちとはモノが違うとしか言いようがない。

今後の個人的な課題としては、一体なぜこうなのだろうというとこをろ考えてみたい気はする。

 

■ そうであればこその75周年問題

ロシアの今後の設計にとって、大祖国戦争、つまり一般にいう第二次世界大戦におけるソ連の役割を無効化するような西側の試みというのは、是非とも覆す必要のある重大事であることが、ますますよくわかる。

そういうわけで、今年は5月までこの話が延々出てくるものと予想できる。そしてこれが現行のユダヤ問題にもかかわってくる。

 

■ オマケ

書いてきてしみじみ思うけど、日本の戦後体制にとって重要だった現行の1947年憲法では、国民主権の確立というのが最も重要で、最もそれまでと異なるものだったと思うわけだが、どうしたことか、いつのまにか、戦後、日本は「民主主義」になった、みたいな言い方をする人は多いが、国民主権にハイライトを置く人は少なくなった。これはやっぱりわざとなわけ?

 

■ オマケ2

ロシアの機構改革についての提案の中に、大統領選挙への立候補資格というのがあるらしい。

https://www.rt.com/op-ed/478381-russian-government-resignation-mishustin/

それによれば、立候補以前に25年間ロシアに居住していなくてはならず、外国のパスポートまたは居住許可を得たことのない人、となってるんだそうだ。

これはもちろん外国で養ってもらってる親西側勢対策。ロシアの「リベラル」が当選できる見込みはまずないんだが、それでも立候補して、その人をフィーチャーして西側が勝手に話をつくるというくだらない設定はあったし、今後もあり得るので対策にはなる。

この伝でいくと、レーニンも立候補できないね(笑)。

 

 

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コメント (3)    この記事についてブログを書く
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3 コメント

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Unknown (ローレライ)
2020-01-17 10:42:23
西側の工作のロシア革命を軌道修正したスターリンの死後裏切り者のオリガリヒの跋扈して反省するプーチン大統領の布石!
プーチン演説の意義 (石井)
2020-01-19 11:19:57
アメリカの繁栄は他国の犠牲の上に成り立っているのでしょうが、犠牲を強いられているのは日本だけでなく、ロシアも然りと聞いて驚きました。最近、シベリアに住む友人からあるブロガーの存在を聞きました。
https://www.youtube.com/channel/UCkUK1bWH4jlHrUTke9aX5Tg/featured
この若者の主張は、
・ロシアは冷戦敗北により植民地状態に陥った
・その成果が93年の「アメリカ製エリツィン憲法」
・クレムリンに居座った数千人の「西側専門家」がロシア役人を扱き使った
・この憲法にはロシアの主権を失う条項が満載
・9条2項:天然資源私有化参入許可
・13条2項:国家イデオロギーの禁止
・15条4項:外部による操作(何よりも国家間取り決めが優先する)
・29条5項:外部イデオロギーの押し付け
・75条2項:財務金融の操縦
・特に15条4項により国民経済の発展が大きく阻害されている
・これにより例えばIMFの「勧告」を拒否できない(憲法裁判所が判断済み)
・重要省庁の監査役が英米人、中央銀行はPwC、財務省はKPMG、デロイト
・彼らが法律を作っている
・無原則な「民営化」
・「予算原則」もIMF勧告通り
・付加価値税導入、その後の値上げ
・原油はドルのみで決済すること
・原油バレル40ドル以上の場合、それを超える金額は全て米国債購入に充てる
・結果、毎日1billionドルをアメリカに貢いでいる計算になる
・カレンシーボード制を強いられ自由なルーブリ発行ができない
・「年金改革」もIMFの勧告に従ったまでだ
・このことをマスコミは報道しない、年金改革とIMFの関係は検閲カットされた
・国会議員の多くも「西側利権」を持つため沈黙している
・マスコミの沈黙によりこの現実を知る人は少ない
・従って、この状況を打破するために憲法改正のための国民投票を呼び掛ける

このサイトに纏まった解説があります。
https://zzackon.ru/blog/43041448600/Ob-ETOM-nelzya-govorit-ETO-samaya-zamalchivayemaya-tema-v-Rossii?utm_referrer=mirtesen.ru&utm_campaign=transit&utm_source=main&utm_medium=page_31&domain=mirtesen.ru&paid=1&pad=1

「国民解放運動」
http://rusnod.ru/
「憲法改正国民投票により主権を回復し、アメリカによる植民支配からロシア連邦の解放を目指す」

この文脈で見るとプーチン演説の意味が分かると思います。これが「革命的」と評される理由です。僕が思うに、プーチンは最初からこの憲法改正をやりたかったのでしょうが、ここに辿り着くまで20年も掛かった。仮に政権初期にこれをやれば、キエフのマイダンのような事態になっていたかも知れません。今でも西側からの恩恵を受ける「エリート層」は多く、かなりのパワーを持ち、彼らが「西側かぶれ層」を巻き込み事を構えるかも知れません。(特にモスクワ 既に憲法改悪反対デモが計画されています)しかし、防衛軍備に自信を持ち、西側の明らかな没落から、機は熟したとして今回の演説に踏み切ったのでしょう。国民投票まで紆余曲折があるでしょうが、どう条文が書き直されるか注視したいと思います。
ワシントンコンセンサス (ブログ主)
2020-01-19 13:00:09
石井さん、

いやいやそういう人、サイト、ほんとにたくさんありますね。ここ数年たくさん見ました。

多くの場合、半分正しく半分あやしい、とか思ってみてました。問題は、WW1&2を通してできたブレトンウッズ体制でありその後のワシントンコンセンサス体制。(その意味でロシアナショナリストとアメリカナショナリストは同じことを言ってる)

皮肉なことを言うようで恐縮ですが
ロシア愛国者の話は、熱心でいいと思うと同時に、プーチン体制が時間をかけている意味の1/3ぐらいな国民対策かも、などとも思いました。

ロシア国民にも勉強してもらわなならん、ってことで。

つまり、ソ連圏はもうない、ということが重要なんだと思います。

ソ連はソ連で自分のところが単体で大きく、かつワルシャワ条約機構の諸国があった。つまりこれをまとめて閉鎖系で経済を回せた。しかし、それはもうない。つまり、外の世界と付き合って生きないとならない(だからパイプラインを敷き、経済関係を密にして、自分たちだけを孤立化させようとするワシントンの策に乗らないようにしている)、ということだと思います。

それができて初めて独立だ、となってきたところなのだろうと私は拝察しています。熱に浮かされて独立しても死にますから。

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