銀座に木琴が響く

当初ブログにはしない積りでしたが、あまりに面白かったので、記録の意味も込めて紹介しましよう。
超大型台風13号(ハギビス)が接近する前日、銀座の王子ホールで行われた「通崎睦美 木琴リサイタル」です。

このリサイタル、あるいはコンサートは昼の部と夜の部の二部構成で、同じプログラムが2回繰り返されるもの。私共は昼の部を聴いてきました。以下の様に多くの作品が取り上げられましたが、休憩無しの正味1時間半。平日のマチネーとあって年配の聴き手たちが集まっていました。

モンティ(西邑由記子編)/チャールダシュ
モーツァルト(平岡養一版)/アイネ・クライネ・ナハトムジーク~第1楽章
モーツァルト/フルート四重奏曲第1番ニ長調K285(木琴四重奏曲版)
西邑由記子/カプリッチョ・アマリリス
平野一郎/「鳥ノ遊ビ~木琴ト奏者ノ為ノ物語~」~第2・3・8・9曲
グレインジャー/岸辺のモリー
S.ぺプシュ/「プレリュードとヴォランタリー」より プレリュード
ヴィヴァルディ/ソナタ「忠実な羊飼い」第4番イ長調より第2楽章
作者不詳/「アンナ・マグダレーナ・バッハのための音楽帖」よりメヌエット イ短調
ヴィヴァルディ/ソナタ「忠実な羊飼い」第4番イ長調より第4楽章
J・S・バッハ(林光編)/3声のインヴェンション(マリンバとピアノのための) 「インヴェンションとシンフォニア」より
林光(野田雅巳編)/3つの小品~「草稿の森」より
江文也(松園洋二編)/祭りばやしの主題による狂詩曲
 木琴/通崎睦美
 弦楽四重奏/クァルテット・エクセルシオ

リサイタルはメインの木琴奏者である通崎氏が、曲間にトークを挟みながら進められるスタイル。彼女のトークが実に楽しく、話題も初めて知った驚きの内容。あっという間の90分でした。
配布されたプログラムも情報満載、間違いなく永久保存版でしょう。

そのトークを一纏めにすると、通崎氏は恐らく世界でただ一人となってしまった木琴奏者とのこと。つまり木琴はルネサンス時代からヨーロッパで楽しまれていた楽器で、アフリカや中南米由来のマリンバとは似て非なる楽器だそうな。
木琴と言えば故・平岡養一が思い出されますが、通崎氏は平岡氏の楽器と約600点に及ぶ楽譜やマレットを譲り受けた方。平岡氏は「僕はね、仮に世界で僕一人だけになっても、マリンバは弾きませんよ。あの楽器だけは弾きません。」という言葉を遺して1981年に世を去りました。

この日、通崎氏は平岡氏から受け継いだ1935年アメリカ製の木琴と、一部1920年代に製作された骨董的な楽器も使って演奏するという、極めて貴重な体験をさせて頂きました。
会場には某著名指揮者の姿もあり、このリサイタルが歴史的にも貴重な時間であったことに気が付きます。

作品はどれも木琴という「木」に拘った作品、編曲ばかり。改めて木琴の素朴ながら味わいある響きを楽しみました。これが銀座のど真ん中で聴けたのも面白く、近付いている台風を暫し忘れる至福の時でもありました。
通崎氏は京都出身で、京都では度々木琴のリサイタルを開いているようですが、いつもの会場が200名では小さく、かと言ってより大きい会場では楽器の性格上相応しくない、ということで同じプログラムを2回、内容を絞り込んで休憩無しの90分とすることに落ち着いたとのこと。今回はこのスタイルを東京でも披露する、という趣旨でした。

彼女のトーク、逸話を細かく書くわけにはいきませんが、通して語られたのが「平岡養一」という人物像。
私は故人の演奏をナマで一度、東京文化会館で行われた日本フィルの定期演奏会で聴いたことがあります。その時は伝説の音楽家アンドレ・コステラネッツが客演指揮し、平岡氏とはホヴァネスの「日本の版画による幻想曲」という作品を取り上げました。
今回の通崎氏のお話から、何故コステラネッツとの共演だったかがストンと腑に落ちた次第。なるほどそういう歴史があったのか。

日本の作曲家では林光、黛敏郎、伊福部昭、台湾出身の江文也などの話題も登場し、懐かしいこと、初めて知った事などなど。目から鱗のトークでもありました。
演奏された作品では、西邑由記子と平野一郎とが現役の作曲で、何れも1920年代の古い楽器で奏された木琴ソロ曲。平野氏は会場に来ておられ、客席からの拍手に答えられました。

またグレインジャー作品は純粋な弦楽四重奏による演奏で、平岡養一氏が生まれたのと同じ1907年の作品であることが、今回選ばれた理由だそうな。
ぺプシュからヴィヴァルディまでのバロック音楽4曲は、木琴とチェロによる二重奏。バッハ作品を林光が編曲したものは木琴、ヴァイオリン、チェロの三重奏での演奏。林光氏のビックリ編曲についてのトークも貴重な内容でした。
またモーツァルトのフルート四重奏曲は、フルートのパートを木琴に置き換えたもの。オリジナル作品の様に聴こえるのは流石です。

残るモーツァルト、冒頭のチャールダシュ、最後の林作品と江作品とは木琴と弦楽四重奏。この日の出演者全員での演奏でした。
アンコールはポンセのエストレリータ、これについても平岡氏の秘めたるエピソードが紹介されています。

最後に通崎さん、無事に京都に帰れたでしようか。リサイタルが一日早くて良かった。

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