第4話「炸裂!ドラグリーチスティンガー!!」
魔王討伐に必要な伝説のフリックスを求めて、情報収集のためにライブラヴィレッジの資料館目指して馬車に乗っていた弾介とシエル。
しかし、いきなり盗賊団「カッコイイ団」の襲撃に遭ってしまった。
カッコイイ団のボス、ゴウガンと副団長のブン
そして、弾介とシエルはお互いのフリックスをスケールアップさせて対峙している。
「この世界に来て初めてのフリッカーとのバトルだ!絶対に勝つぞ!!」
「ケッ、ド素人が!経験の違いを教えてやるよ!!」
先にアクチュアルモード起動していたゴウガンのアシュラカブトがウェイトタイムを終えてシュート可能な状態になる。
ゴウガンの前にアシュラカブトの等身大サイズのホログラムが現れた。
「食らいやがれ!!」
ドンッ!!
ゴウガンが力任せにホログラムアシュラカブトのシュートポイントを弾く。
それに連動するようにアシュラカブトは轟音を立てながらドラグカリバーへ向かって突進する。
「だ、弾介さん!!」
「耐えろ!ドラグカリバー!!」
弾介は咄嗟にバリケードを構えた。
ドゴオオオン!!!
アシュラカブトの突進がドラグカリバーにヒットし、バリケードで支えている弾介にも凄まじい衝撃が走る。
「ぐっ、うぅ……!!なんてプレッシャーだ……!」
どうにか攻撃を耐えきったもの、弾介の手は痺れて感覚が鈍ってしまった。バリケードもかなりの負荷を受けている。
「はぁ、はぁ!なんとか耐えたぞ!」
「なかなかやるじゃねぇか。だがなぁ!」
「これはスポーツじゃ無いんだよね!!」
「!?」
いつのまにか真横に来ていたアサルトスコーピオに弾介は反応出来なかった。
「ステップで移動してたのか…!」
「これがアクチュアルバトルなんだよね!!」
ブンは、アシュラカブトの攻撃を受けたばかりのドラグカリバーの横っ腹に向かってアサルトスコーピオをシュートした。
「うわあああ!!!」
バチーーン!!
なす術なくその攻撃を食らったドラグカリバーは無抵抗に飛ばされていく。
飛ばされた距離だけダメージが加算され、HPが減ってしまう。
いや、それだけじゃなくこのまま場外すればフリップアウトでさらに大ダメージを受けてしまう。
「ドラグカリバー!!」
「弾介さん!!」
バッ!!
咄嗟に飛び出してきたシエルのフリックスがドラグカリバーの前に出てきた。
バチンッ!
シエルのフリックスが弾かれる代わりに、ドラグカリバーは停止した。
おかげで受けるダメージはかなり軽減された。
「大丈夫ですか!?」
「ありがとうシエル!でも、シエルの機体は……!」
弾かれたシエルの機体は、シュートの最中だったためバリケードすることもできずにそのまま場外に飛び出してしまった。
バーーーン!!!
場外に出た事による衝撃波がシエルの機体を襲う。
「ごめん!僕のせいでフリップアウトに…!」
「大丈夫です。シュートの途中で場外したのでフリップアウトではなく自滅扱いでダメージは少ないので」
しかも敵機と接触したわけじゃ無いので弾かれた距離もダメージには加算されず、シエルの受けたダメージは大した事なかった。
そして、場外した機体はフィールド内の自由な場所に設置して再びウェイトフェイズからやり直せるようだ。
「ちぇ、命拾いしたんだよね」
「だがそんな弱っちそうな女に助けられるなんて、伝説のフリックス使ってる癖にカッコ悪い奴だぜ!」
「なにぃ…!確かに今の僕はカッコ悪かったけど、身体を張って助けてくれたシエルを悪く言うのは許さないぞ!!」
シエルをバカにしたゴウガンとブンの二人に対して、弾介は怒りを示した。
「弾介さん……」
「へ、変なとこで怒るんだな…!」
「変わった奴なんだよね」
そして、ようやくドラグカリバーのウェイトタイムが終わりシュートできるようになった。
「今度はこっちの番だ!」
弾介は、二機で固まっているアシュラとアサルトへ狙いを定めた。
「おいおい、あいつ俺たち二機分飛ばすつもりかよ」
「受け止めて、カウンターしてやるんだよね」
ブンとゴウガンがバリケードして弾介の攻撃に身構える。
シエルは場外復帰したばかりなのでまだ動けないから、弾介の攻撃にだけ集中できる。
「いや、固まってくれてた方が好都合だ」
「どういう意味だ?」
「ハッタリなんだよね!」
(アクチュアルバトルって言っても動かせるタイミングや操作の仕方がちょっと違うだけで、あとは基本的に現実のフリックスと感覚は同じ……だったら!)
弾介は、並んでいるアシュラカブトとアサルトスコーピオのちょうど中間へ狙いを定めてドラグカリバーを放った。
「いっけええええ!!!!」
バシュウウウウウ!!!!
勢いよくまっすぐ飛んでいくドラグカリバー。
そして、ドラグカリバーの細いフロントが敵機二体の隙間に入り込み、そのまま斬りこむように二機をY字方向へ飛ばした。
「「なにぃ!?」」
想定外の方向へ飛ばされたため、バリケードによって機体を守ることも出来ず、無防備に飛ばされてしまう。
とは言え、力は分散しているのでフリップアウトするほどではなかった。
「おっしい!フリップアウト出来なかった!」
「でも、一気に二体にダメージを与えました!凄いです弾介さん!!」
「アクチュアルシステムは初心者でも、フリックスバトルはそれなりにやってるんだ!これくらい余裕さ!」
浮かれる弾介に、ゴウガンは険しい顔つきになる。
「あいつ、思ったよりやるな……ブン、こっちも容赦は終わりだ」
「了解なんだよね、アニキ!マインセット!!」
ブンの行動ターン、ブンはシュートせずに長方体の物質を召喚し、それをドラグカリバーの後ろへセットした。
「な、なんだ?」
「喰らえ!!」
今度はゴウガンのシュートがドラグカリバーにヒット!
「こ、こんなの!」
バリケードで耐える弾介だったが、その前にすぐ後ろにあった長方形の物体に接触してしまう。
バンッ!
接触してから数秒後、ドラグカリバーが小さく爆発してそれなりのダメージを受けてしまった。
「こ、これは!?飛ばされてもないし、場外もしてないのに」
「フリップマインです!シュートする代わりに爆弾型武器を一つセットすることができるんです」
「マインヒットもあるのか…!」
パートナーにセットさせて、もう1人がシュートしてマインヒットする。
チーム戦だからこそできる戦術だ。
「なら私も……マインセット!」
シエルもフリップマインを召喚してアサルトスコーピオの後ろへセットした。
「使ってください、弾介さん!」
「よし、お返しだ!!」
弾介がアサルトスコーピオとその後ろのマインめがけてシュートする。
「甘いんだよね!!」
しかし、ブンはバリケードを使ってアサルトスコーピオを動かしてそれをかわした。
「くっ!」
ドラグカリバーはマインのみを弾き飛ばしたが、攻撃は不発。
そして弾かれたシエルのマインはアサルトスコーピオの目の前で停止した。
「いい位置なんだよね!」
「やっちまえ、ブン!!」
ブンはアサルトスコーピオのアームを変形させ、まるで目の前のマインを抱きかかえるように前方へ出した。
「必殺!ホールドバイパー!!なんだよね!」
ブンがアサルトスコーピオをシュートすると、アサルトスコーピオはアームでシエルのマインを掴みながらドラグカリバーへ突進した。
ガッ!
アサルトスコーピオの抱えているマインにぶつかり、ドラグカリバーは大きく飛ばされた。
「うわああああ!!!」
バチンッ!
飛ばされた後にマインヒットによる小爆発が起こる。
これによって、マインヒット+弾かれた分のダメージを受けてしまい、ドラグカリバーのHPが半分以下になってしまった。
「くっ!ホールドバイパー、なんて技だ……!マインを抱えたまま突進する事で打撃力を高めつつ、弾きとばしながらマインヒットするなんて!」
「わ、私のマインのせいで…!」
「おっと、人のこと心配してる暇はないんじゃないか?」
シエルがミスを気に病んでいる間に行動できるようになったゴウガンが攻撃を仕掛ける。
「キャッ!」
バーーーン!!!
大きく弾き飛ばされたシエルのフリックスはそのまま場外してしまい、HPが0になって撃破されてしまった。
「シエルー!!くっ!ドラグカリバー!!!」
バキィ!!!
弾介は咄嗟にドラグカリバーをシュートしてアサルトスコーピオを抱えているマインごと弾き飛ばした。
「な、なんてパワーなんだよね!!」
バーーーン!!
ドラグカリバーの痛烈な一撃により、ブンのバリケードは破壊されてアサルトスコーピオが場外する。
そして、シエルがフリップアウトした時と同様の衝撃がアサルトスコーピオを襲った。
マインヒットの小爆発は起こらなかったものの、弾き飛ばされた距離+フリップアウト分のダメージはかなり大きい。
これによってアサルトスコーピオを撃破した。
「そのままいけぇ!!!」
ドラグカリバーはアサルトスコーピオを弾き飛ばしてもまだ勢い止まらず、アシュラカブトへと突っ込んだ。
バチンッ!!
さすがに弾き飛ばすほどのパワーは無かったものの、先ほどマインに接触した後にアシュラカブトに接触したため、マインヒットダメージを与えられた。
(やっぱり、マインヒットのやり方は現実と同じみたいだな)
「ちっ!ついでみたいにマインヒット食らっちまうなんて……よくもカッコわりぃ事してくれたなぁ!」
今の攻撃によってゴウガンの逆鱗に触れたようだ。
部下を倒された上にその返す刀のついでとして自分も大ダメージ喰らわされた事にはプライドを傷つけられたのだろう。
(くっ!こっちはもうゴウガンの攻撃を防ぎ切る体力はないぞ……!
いや待てよ、アクチュアルバトルはフリップアウトやマインヒット、自滅のルールに関しては現実とほとんど同じだった……なら、もしかして!)
弾介は何か閃いたのかバリケードを構えた。
「さぁ来い!お前の攻撃なんか目じゃないぞ!!」
「なんだとぉ強がりやがって!そんなボロボロのバリケードで俺の攻撃を防ぎきれると思うナァァァ!!!!」
ボロボロの癖に挑発してきた弾介に対して更に苛立ったのか、ゴウガンは力任せにアシュラカブトをシュートした。
ゴオオオオ!!!
轟音を立てながら突っ込んでくる。凄まじい威圧感だが、弾介は平然としていた。
「防ぐつもりなんかないね!」
「なにっ!どういう意味だ!?」
スッ……。
アシュラカブトがドラグカリバーに接触する瞬間、弾介はバリケードを引いた。
「な、なにぃ!?」
「弾介さん!それじゃ攻撃をまともに食らってしまいます!!」
「あいつ、勝負を諦めたのか?」
弾介の行動に一同は騒ついた。
「大人しく俺様に伝説のフリックスを渡す気になったか?」
弾介は何も答えない。ただ二つの機体の軌道を見守っているだけだ。
そして、ドラグカリバーが場外した。
「どうだ!これで……しまっ!」
そう、バリケードによるブレーキがなかったためアシュラカブトも同時に勢い余って場外したのだ。
二機とも場外。しかし、シュートしたアシュラカブトが自滅した事によってドラグカリバーのフリップアウトは無効になった。
「やっぱりそうか!自滅したらマインヒットもフリップアウトも無効になるんだ!!」
無効になったのはあくまでフリップアウトのみで、飛ばされた距離分のダメージは受けてしまったが撃破は免れた。
場外した事によって、二つの機体はフィールド内に戻りウェイトタイムのカウントが始まる。
「ちっ、小賢しい真似しやがって。だがな、自滅で無効になるのはあくまでシュートしてない敵機に対してのフリップアウトやマインヒットだ」
ゴウガンが意味深に言うのと同時に、ドラグカリバーとアシュラカブトがほぼ同時にカウント終了してアクティブフェイズに入る。
「お互いにHPは残りわずか。ガチンコでケリをつけようぜ」
「っ!」
その言葉の意味を弾介は必死で考えた。
(自滅で無効になるのはマインヒットとシュートしてない敵機のフリップアウトだけ……アクチュアルバトルはターンが順番じゃないから敵とシュートのタイミングが被る事もある。
って事は、シュートした同士の激突でも自滅だけじゃなくフリップアウトや弾かれた距離のダメージを受ける事があるのかも)
「おいおい、撃たねぇんだったらこっちが一方的に殴るだけだぜ!」
ちょっと思考を巡らせただけのつもりだったが、ゴウガンはすでに構えている。
何にせよ、撃たなければやられる!
「……これはバンさんへのトドメに使うつもりのとっておきだったんだけどな。
まぁ、相手も必殺技使ってきたし、こっちも使わなきゃ勝てないか」
弾介は意を決したような表情でドラグカリバーのフロントの剣を変形させた。
「変形しただと!?」
「いくぞ、ドラグカリバー!」
驚くゴウガンに構わず、弾介はドラグカリバーをシュートする。
遅れまいとゴウガンもシュートした。
2人のシュートはほぼ同時。
あとは純粋なパワー勝負だ。
「パワーで俺様に勝てると思うナァァァ!!!!」
「ダントツで決めろ!ドラグリーチスティンガー!!!」
二つのフリックスが接触する!
バチーーーーン!!!
その瞬間、凄まじい破裂音とともにアシュラカブトが大きく後ろへ仰け反るように吹き飛ばされた。
対して、ドラグカリバーはその場に留まっている。
「な、なにい!?」
そして、そのまま場外へ向かって飛び出していく。
「これが僕のとっておきだ!延長したフロントソードがしなって、バネみたいに弾き飛ばすんだ!」
「クソッ、マズイッ!奴が場外せずに俺様だけ場外したら自滅どころじゃ済まねぇ!」
バーーーーン!!!
場外ダメージの衝撃を受け、アシュラカブトは撃沈。
フィールド生成者のフリックスが負けた事によって、結界が解除された。
「やった…!勝った……!異世界初のフリックスバトルで勝ったーーー!!!!」
弾介は飛び上がり、勝利の喜びを全身で表現した。
「う、うそだろ……俺様が負けるなんて……」
ゴウガンは呆然としながら、自分を負かしたドラグカリバーを見た。
鋭い剣先がキラッと光る。
「変形する剣か……へっ、かっこいいじゃねぇかよ」
潔い表情でつぶやくゴウガンとは対照的に取り巻きの部下たちは息巻っていた。
「ありえねぇ!ボスが負けるなんて!」
「調子にのるなよクソ野郎!」
「まだ俺たちが残ってんだからな!!」
戦闘態勢になる部下達だが、ゴウガンがそれを制した。
「おめぇら!かっこ悪い真似すんじゃねぇ!俺たちカッコイイ団のモットーを忘れたか!!」
「し、しかし、ボス……!」
「おい、弾介とか言ってたな!バトルには負けたが、お前の持ってる伝説のフリックスを奪うだけなら今すぐにでも出来る。それだけは覚えとけ」
「な、なんだと!今からだってそいつら相手にしても僕は負けないぞ!!」
弾介もゴウガンも負けず嫌いだ。
「……まぁそれでもいい。けどなぁ、今日の所はそのカッコイイ剣に免じて見逃してやる。次は俺様もその技をマスターしてカッコ良くお前のフリックスを奪ってやる!覚悟しとけ!!」
それだけ言うとゴウガンはフリックスを回収し、部下を引き連れて去っていった。
去っていく背中に、シエルはポショリと呟いた。
「だ、だから、盗賊はカッコ良くありません……」
「それ拘るね君」
先程の戦いが嘘のように当たりが静まり返る。
これでとりあえず一安心だ。
弾介とシエルはアクチュアルモードを解除して一息ついた。
「ふぅ、でも一か八かの考えが当たってて良かった……普通はシュートして場外したら自滅扱いだけど、敵機のシュートとぶつかってから場外したら自滅以上のダメージ受けるのか」
「そうですね。だから、相手と行動できるタイミングが被ったらなるべく早くシュートした方が有利になるんです。敵機とぶつかる位置はなるべくシュート位置から遠い方が場外のリスクは少なくなりますから。
でも、弾介さん初めてなのに戦いながらそんな事まで考えついたなんて凄いです」
「いやぁ、こっちの世界と共通するものも多かったし、無我夢中だったから」
明るく話す弾介とは対照に、シエルの表情は浮かなかった。
「それに比べて私は、弾介さんの足を引っ張っただけで、何も出来なかった……」
「え、そんな事ないって!シエルは僕のこと助けてくれたし、一回や二回の失敗なんて誰にだってあるよ!」
「ですが、私達の戦いに失敗は許されないんです……」
「そうかもしれないけど、でもだとしたら今回は勝てたんだからいいじゃないか!それは間違いなくシエルのおかげでもあるんだ!
ちょっとの失敗は大きな成功で塗り替えればいいんだよ!」
「弾介さん……」
弾介の慰めに、シエルは顔を上げる。
そこにあった弾介の顔はとても穏やか……だったのに徐々にニヤつき始めた。
「それにさ、すっっっごい楽しかったし!!」
「えーーー」
「なにその『えー』って」
「だって、すっごい危なかったじゃないですか!こんなバトルでも楽しめるんですか?」
「こんなバトルだからいいんじゃん!
強いやつを相手にして、お互いに持てる力とテクニックを出し切って、ちょっとでも有利になるように作戦考えて、ギリギリの戦いをして勝つ!!
まぁ、欲を言えば相手が悪い奴じゃなかったらもっと楽しめたんだけど、そこまで贅沢は言えないか」
「う、うーん……」
「それにしてもアクチュアルバトルって面白いなぁ!ターンが順番じゃなくて時間だから気が抜けないし、攻撃や防御の手応え気持ちいいし、でっかいから迫力あるし!
現実世界に戻ってもこのルールでフリックスバトルやりたいなぁ」
そんなふうに楽しげに語っている時だった。
弾介は視界の端から赤い閃光が向かってきたのが見えた。
「シエル、危ない!!」
「え、きゃあっ!!」
弾介が咄嗟にシエルを押し倒すと、頭上を物凄い勢いで赤い物体が通り過ぎた。
「あれは…フリックスか!?」
スケールアップはしていない等身大のサイズだが、赤くて翼を広げたようなフリックスが飛んでいた。
そのフリックスは翼を傾けて空中でブーメランのように向きを変えて戻ってきた。
「空中で旋回した!?」
パシッ!
そして、そのフリックスを放ったであろう人物が戻ってきた機体をキャッチする。
「ほぅ、反射神経はそこそこあるようだな」
そこにいたのは、黒地に赤いカラーリングの服を着た黒髪短髪な少年だった。
「あ、危ないじゃないか!お前一体誰なんだ!!」
苦言を呈する弾介を鼻で笑い、少年は勝手に言葉を続ける。
「ふん、あの程度の相手に苦戦するとは、伝説の力が聞いて呆れる」
「な、なに……!?お前、伝説のフリックスを知ってるのか?」
弾介の問いには答えず、少年は踵を返して歩き出した。
「ま、待て!!」
「いずれ分かる。その時は俺がお前を潰す」
振り返りもせずにそれだけ言うと少年は去っていった。
「な、なんだったんだ……次から次へと」
「あ、あの、弾介さん……」
謎の少年の言葉に困惑している弾介の下で遠慮がちか声が聞こえてきた。
「え?」
「そろそろ、どいていただけると……」
見ると、弾介はシエルを押し倒したままだったことに気づいた。
乱れたスカートからは白い太ももの付け根が見え、右手には柔らかな感触が……。
「うわあああごめん!!」
弾介は慌てて手を離して立ち上がった。
シエルもいそいそとスカートを直して立ち上がる。
「それにしても、さっきの人は一体……?」
「さぁ、伝説のフリックスについて知ってそうだったけど、すぐ何処か行っちゃったから……」
「伝説のフリックスに関係がある人なら旅を続けていればまた現れるかもしれませんね。警戒しておきましょう」
「そうだね……それよりもシエル、これからどうしよう?シャトル馬車はもう行っちゃったし」
ここで本来の目的を思い出す。
元々ライブラヴィレッジへ行くためにシャトル馬車に乗ってたのだが、さっきまでの騒動で移動手段を失ってしまった。
「……歩いていくしかないですね。ここら辺はお店も民家も無いですし、暗くなる前に」
「うへぇ……」
結局、それから数時間かけて徒歩でどうにかライブラヴィレッジへ到着したのだが
あたりはすっかり暗くなってしまい、資料館もとっくに閉館時間が過ぎていた。
「はぁ、やっと着きました……」
「さ、さすがにバトルした後に数時間歩き続けるのはキツイ……」
「足がパンパンです……今日の所は宿を取って、資料館へは明日向かいましょう」
「そうだね……今はとにかく休みたい」
と言うわけで近くの宿屋へ足を運ぶ事にした。
「申し訳ございません!」
宿屋の玄関口で受付の女性が弾介とシエルへ頭を下げている。
「え、部屋無いの……?」
「いえ、その、あるにはあるのですが……一部屋しか空きがなくて……」
「さすがに同じ部屋はちょっとなぁ……ねぇ、シエル」
恋人でも無い年頃の男女が同じ部屋に泊まると言うのは、ノンケとしては問題ありだろう。
「え、私は別に問題ないと思いますよ。部屋に空きがあるなら泊まらせてもらいましょう」
シエルは予想に反してケロッとしていた。
「ええええ!!いや、普通こういうのって女子のが嫌がるんじゃ……!」
「もちろん、私も二人きりだと抵抗を感じる方もいますけど……弾介さんが誠実な方と言うのは分かってますから、大丈夫ですよ」
シエルは嘘偽りない瞳でニッコリと笑った。
(うぅーん、その無闇な信頼は逆に困るんだよなぁ……。
褒められて悪い気はしないけど)
「それに、今はなんでもいいから一刻も早く休みたいですし……」
急に疲れた声になった。恐らくこれが本音だろう。
「そう言う事なら、それでお願いします」
シエルの許可が得られたならゴネる必要もないし、何より弾介も異性と二人で泊まる云々よりもとにかく休みたいってのには同意見だった。
「かしこまりました。では、こちらへどうぞ」
と、言うわけで弾介とシエルは和室のような部屋に案内された。
「今度は和室かぁ。王宮では洋室だったけど、畳もあるんだ」
弾介は珍しそうに畳を触った。
それから、ご飯食べてお風呂入って、明日に備えて就寝する事にした。
部屋に並べて敷かれた二つの布団。
弾介はおもむろにその一つを部屋の端へと移動させる。
「弾介さん、どうしたんですか?」
「いや、さすがに並んで寝るのもどうかと思って……そんな距離変わんないけど」
「そこまで気を遣わなくても大丈夫なんですけど……」
(僕が大丈夫じゃないんだよっっ!!!)
心の中で叫びながら、弾介はなるべくシエルから布団を離し、二人は電気を消して就寝する準備を整えた。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
旅の疲れからか、一旦目を瞑るとすぐに睡魔に襲われ、意識は闇の中に吸い込まれていく……はずだった。
(ん?)
弾介は何か違和感を覚えた。
身体に、何か暖かくて柔らかいものが纏わり付いている。
いや、布団の中に入っているのだから柔らかくて暖かいのは当たり前なのだが。
「ん、すぅ……」
「っ!?」
頬に生暖かい空気を感じた。
横目で確認してみると……。
(やっぱりかぁ!!)
シエルが自分の布団を吹っ飛ばし、わざわざ弾介の布団の中に入り込んで抱き枕のように抱きついていた。
「う、うぅ〜ん……」
存在を確認すると余計に感覚が鋭くなってきた。
乱れた寝巻きから覗く柔らかな谷間、絡みつく太もも……。
(うぅ、感覚が生々しい……)
「……パパ…パパァ……」
(誰がパパやねん)
ツッコミたい衝動が湧き出たが、シエルの声音に涙が混じっていたのを感じた。
(シエルって、もしかして僕同じなのかな…?)
そう考えると色欲もツッコミ衝動も治まってくる。
(いや、やっぱエロい!無理!!)
弾介とて思春期を迎えた中学生。
そういった欲求がないわけではない。
むしろめっちゃあるお年頃だ。
可能であるなら、今すぐにでも自ら絡みついてくるその色欲の塊を貪りつくしたい。
しかし、弾介は必死でそれを抑えた。
それは理性によるものではない。
圧倒的な別の欲求が、彼を色欲ヘの誘いから引き止めているのだ。
(ここでもしシエルの信頼を裏切ったら、魔王討伐に支障が出る…!)
今のこの状況は弾介に全く非がない。このまま何もなければシエルが弾介を責めるようなことも無いだろう。
しかし、ここで安易な欲望に負けてしまえば形勢は逆転。
いくらきっかけが不本意なものとは言え、それでも弾介の立場は悪くなってしまう。
(目の前のエロより未来の魔王。目の前のエロより未来の魔王。目の前のエロより未来の魔王。目の前のエロより未来の魔王。目の前のエロより未来の魔王。目の前のエロより未来の魔王。目の前のエロより未来の魔王。目の前のエロより未来の魔王………)
弾介は奇怪な呪文を頭の中で唱えながら
もう二度とシエルと一緒の部屋では寝まいと強く誓うのだった。
つづく