久々にSEP(標準必須特許 standard essential patent)のトピックをとりあげます。かなり新しいCAFC判決です。いま(8/7になったところ)から3日前に出たばかり。(Godo Kaisha IP Bridge 1 v. TCL Communication Technology, Fed. Cir., 8/4/2020)

標題の通り、標準必須特許の「必須性」判断者は誰か(裁判官か、陪審か)が主要争点となりました。
重要な争点だと思います。「SEP、SEP」といっても、世でいうSEPは本当に関連標準規格にとって必須であるのか正規に判定されているわけではなく、あくまで自称「SEP」です。
(たとえば、2017年11月29日に公表された欧州委員会のSEPライセンシングガイドラインでは、標準化団体(SSO)が備えているSEP申告リストの必須性に関する管理上の問題点(必須性についての判定はなされておらず、申告当時の特許/出願の状態が後に変わっても更新されず etc.)を指摘し、各国特許庁との協力により信頼性のあるリスト作成・更新などを提言。cf.『第116話:欧州委のSEPライセンシング指針公表される -- 多様なステークホルダー間のデリケートなバランスをとる...』(2017.12.3) )

前置きが長くなりましたが、以下、最新CAFC判決を紹介します。


Godo Kaisha IP Bridge 1 v. TCL Communication Technology,
Fed. Cir., 8/4/2020

事案の概要

特許権者Godo Kaisha IP Bridge 1(「IPブリッジ」)は、TCL Communication Technology Holdings Limited他(「TCL」)に対し、米国特許8,385,239号および8,351,538号の侵害を主張してデラウェア地区連邦地裁に提訴した。
2018年に行われた陪審審理において、IPブリッジは、Fujitsu Ltd. v. Netgear Inc.判決(620 F.3d 1321, Fed. Cir. 2010 )に依拠し、1)本件係争特許はLTE規格に必須であり、かつ2)TCLの被疑製品(携帯端末)はLTE規格に準拠していることを示す証拠を提出し、TCLによる侵害を主張した。
陪審はTCLによる侵害を認定し、95万ドルの損害賠償を認める評決を下した。
TCLはIPブリッジによる侵害理論が誤りであるとして、「法律上の問題としての判決(judgement as a matter of law: JMOL)」の申立てを地裁に提出した。

地裁はTCLによるJMOL申立てを却下。TCLはこれを不服としてCAFCに控訴した。
(IPブリッジも損害賠償/金銭救済に関する修正を求め、これは地裁に認められている)
― 控訴棄却


判 旨

当裁判所は、標準必須特許が関わる事件において、被告製品による標準規格への準拠(standard compliance)を、侵害を証明する方法のひとつとして認めてきた。たとえば、Ericsson, Inv. v. D-Link Sys., Inc., 773 F.3d 1201, 1209 (Fed. Cir. 2014) 他。
本件控訴は、これまで当裁判所の判例法において明確に回答していない問題を提起するものである。
すなわち、『争われている特許クレームの標準必須性(standard essentiality)を判定するのは誰か。クレーム解釈の一部として裁判所が判断するのか、侵害分析の一部として陪審が認定するのか』という問題である。

[TCLの主張]
IPブリッジの侵害理論は、Fujitsu判決に対する誤った理解に基づくもの。文言通りの侵害を証明するためには、特許権者は、クレーム中のあらゆる構成要件が被告製品中に存在することを示さなければならない。Fujitsu判決はこの原則に対する狭い例外を、次のように述べて作り出したものにすぎない。「地裁がクレーム解釈をし、そのクレームの範囲が標準規格を実施する装置を含むことを認定すれば、侵害を認定するにはこれで十分である」 
Fujitsu判決に基づけば、まずは裁判所が、クレーム解釈の一部として、標準規格の実施部分すべてがクレームを侵害するという判断(threshold determination)をしなければならない。IPブリッジは地裁にこのような分析を求めておらず、また、この問題を陪審に提示すべきではなかった。

[IPブリッジの主張]
標準必須性は古典的事実問題(classic fact issue)であり、事実認定者(factfinder)の領域である。Fujitsu判決は、必須性の判定はクレーム解釈の文脈で行われるべきとの立場をとっていない。Fujitsu判決は、地裁におけるサマリージャッジメント(事実審理省略判決)に対する控訴事件であり、それゆえに陪審の関与がなかったのである…。

当裁判所はIPブリッジの主張に同意する。
侵害判断をするためにはクレームを被疑侵害製品と比較すべきということに異論はないが、被疑侵害製品が標準規格に従って作動するのであれば、クレームと当該標準規格とを比較することはクレームと被疑侵害製品と比較することと変わりない …。

Fujitsu判決において当裁判所は、特許クレームがある標準規格をカバーするという事実は、必ずしも標準規格準拠の装置すべてが同じ態様で当該標準規格を実施することを証明するものではないと述べた。また、主張された特許クレームが標準規格のすべての実施物をカバーするわけではないことも指摘した。そのような場合は、クレームと被疑侵害製品を比較することにより、あるいは、被疑侵害製品が「当該標準規格の関連オプション部分(optional section)を実施する」ことを証明することにより、侵害を証明しなければならないと指摘した。
このように、Fujitsu判決は、特許が標準規格の必須部分(mandatory aspects)をカバーする場合、まさにその場合にのみ、標準規格への準拠を示すことによって侵害を立証することができることを示したのである。

クレーム解釈の過程でクレームの標準必須性を判断することは、実用的観点からもほとんど意味あるものと思われない。結局のところ、必須性とは、標準規格準拠の装置が組み込むべき必須部分にクレーム構成要件が読みとれるか否かに関する事実問題なのである。この問いは、クレーム解釈分析(より多く内部証拠に焦点を当て、クレームが何を意味するかをいう)よりも、侵害分析(クレーム構成要件と被疑侵害製品を比較する)に近い。
Fujitsu判決では、標準必須特許の侵害訴訟において被疑侵害者が抗弁で成功するひとつの方法は、主張された特許の標準必須性に対し反証を挙げることと述べた。必須性の問題解決にはクレーム解釈で足りるというのであれば、この示唆も意味ないこととなってしまう。

本件のように、主張されている特許クレームが標準規格の実施物すべてにとって必須であるか否か、という事実問題について重要な争いが存在する場合、必須性の問題は、侵害審理における事実審判者(trier of fact)によって解決されなければならない。 

以上の理由により、TCLのJMOL申立てを却下した地裁命令を確認する。

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“trier of fact”… 陪審審理が請求されている場合は、陪審ということになりますね。

判決原文...全9頁です。

本判決については、Dennis Crouch教授のPatently-Oで知りました(”Proving Infringement by Standard Essentiality -- Also, Interesting Ebay Question" 8/4/2020 Patently-O


8/7/2020  ヨシロー   


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