小説西寺物語 52話 全国の豪族衰退へ「京都仏像美術大展覧会」開幕・京都不粋大学

 814年12月1日の早朝から西寺講堂に展示された京都仏像美術展覧会に出品された仏像50体に仏の魂を入れる開眼法要が執り行われていた。比叡山仏教を代表して中央に最澄、左には真言宗貫主空海、右には奈良仏教を代表して守敏僧都が座るが、この日本を代表する大僧正が三名揃っての法要は後にも先にもこれが歴史上最初で最後になる。

 その後ろには各大僧正の高弟200名がこの大法要に参加しているが、将来この開眼法要に参加した僧侶かそうでない僧侶かで僧侶としての位が跳ね上がるという歴史的な開眼法要になっていた。ただ、この大掛かりな開眼法要で魂を入れられた50体の仏像はもうこれだけで一万貫の値打ちはあるだろうと仏像を彫った仏師もこの仏像を買いに来た全国各地の豪族も納得していたので、出品された仏像は最低でも一万貫以上の値打ちがあると仏像の位も跳ね上がっていた。

 午前9時には嵯峨天皇と正室橘嘉智子さまが入場されて京都仏像美術展覧会は開催された。この時すでに大極殿から羅城門までの道幅80メートルもある朱雀大路にはこの嵯峨天皇ご夫婦の御行幸を一目見ようと集まってきた民衆で混雑していた。この後にも次々皇族や従三位以上の高級貴族の牛車や輿が通り公卿通や高級貴族通の老人が各辻辻に立ってあの牛車は少納言従二位の藤原兼人さまでと説明しているがその真偽は誰も分からなかった。


 この初日に招待された従3位以上の皇族、貴族は70名ほどで牛車そのものはまだ30台ほどで多くの招待者は歩くが主が先頭で警備の私設武士、家来の貴族、それに官女、侍女らで30数名の行列になる。都の若者たちの目当てはこの若くて美人で着飾った女性の品定めになる。この行列が70組で大極殿や各貴族の屋敷と西寺を往復するのだから朱雀大路は朝から夕暮れまでお祭り騒ぎになっていた。

 まず一番に西寺講堂の会場に入った嵯峨天皇と橘嘉智子皇后、入った瞬間に二人揃って一瞬立ち止まり身構えていた。それもそのはずで目の前には高さメートルの金剛力士が物凄い形相で左右から入場者を威嚇していたからだ、これには天皇も橘嘉智子皇后も顔を見合わして笑うしかなかった。もうこの瞬間に入場者は度肝を抜かれて邪念を捨てて仏の世界に引き込む守敏僧都の演出だが、まずは成功したと胸をなぜおろしていた。

 これら招待された公卿や貴族は一組に付き一貫(銭1000枚)の賽銭を持参することが義務化されている。この賽銭は出品仏像の前に置かれた賽銭箱に気にいった仏像に小分けして投げ込みその金額の総計で嵯峨天皇賞などを決めることになっていた。嵯峨天皇は100文で一組の銭を五束、橘嘉智子皇后も5束でそれぞれ気にいった仏像に銭を賽銭箱に投げ入れていたが、嵯峨天皇と橘嘉智子皇后とはそれぞれ感性が違うのか同じ仏像は選ばれなかった。この嵯峨天皇と橘嘉智子皇后が選んだ仏像は守敏、最澄、空海しか知らないが、これは審査の中立公正のために秘密にされていた。

 初日の賽銭は約70貫になり僧侶らは賽銭箱の賽銭を数えて記帳していたが、やはり各流派の代表が彫った5体の仏像が人気になっていた。賽銭箱は上から中の賽銭の量が見えない工夫がされている。これはなにせ優勝賞金が10万貫、5位以内なら1万貫という超大金で中が見えたり途中経過を発表すれば組織票で銭を1千貫や2千貫入れてもまだ儲かるからだ。僧侶はこの銭を明日からの一般入場者の両替用にするために回収もしなければならない。

 12月2日からは一般入場出来るが、入場料は取らずに1人10文以上の銭を賽銭箱に入れるということにしていたが、もし10文を持たずに無料で入場すれは入口の金剛力士や48体の仏像の罰が当たるのは当然としていた。この当時はまだ銭がそんなに流通していないために物々交換が主流でたとえば玄米一升20文で一合2文、木綿布地、絹織物、杉板と角材、檜板と角材、野菜類というようにどんな物でも銭との換算表、米との換算表があり民衆は色々な物を持って来て両替所で所定の物と銭を交換する小屋も10ヶ所設置された。

 2日からは西寺のすべての門が早朝6時に開けら7時から会場に入れるがもう夜明けを待たずに各門の前には民衆が行列を作って待っていた。6時からは各両替所で米5合で10文を受け取り会場に入れるが、すべての観覧者が入口入った左右の金剛力士に驚き歓声を挙げていた。各仏像にはこの仏像を彫った仏師やその弟子が拝観者からの質問に丁寧に応えていた。

 全国からこれらの仏像を買いに来た豪族一行も48体の仏像を熱心に見て回り仏師の説明を聞いていたが、これら展示されている仏像はあまりにも見事な美術作品で田舎の小さな豪族では持参してきた1万貫や2万貫では到底買えないことを肌で感じていた。ましてや嵯峨天皇賞の仏像や上位5位に入った仏像などは到底手に入らないと観念はしていたが、もっと安い仏像を予約して買うことも出来ると知ってその仏師との交渉の予約もしていた。

 その交渉の予約とは各仏師が豪族の宿泊所としている東寺の宿坊や塔頭に展示が終わったその夜に訪ねて豪族と同行してきた氏寺の住職らと仏像の種類や寸法、価格、納期を決める商談会のことになる。つまり、守敏僧都がこの京都仏像美術展覧会を企画した最大の目的は全国から集まった豪族に美術的価値がある仏像を売り、さらにその金で仏師は京都仏像美術工房団地に工房を構えて弟子を大量に育てて世界に通用する仏像を制作して海外に輸出して外貨を稼ぎ強い日本にすることとこの天皇制を豪族らに脅かされないために豪族の貯め込んだ銀、金を使わせることに尽きていた。

 展覧会期間中に全国から有力豪族270の部族長やその子息が入洛することになっていた。守敏、最澄、空海はこれらとの人脈作りに精力的に取り組んでいた。まず、豪族が東寺の宿坊や塔頭に入るが、その夜は歓迎会として守敏は自坊の源光寺、空海は東寺の塔頭、最澄は広隆寺に招待して若狭の新鮮な魚や京料理、それに伏見の般若湯でもてなしていた。

 目的は各地の豪族の動向を探るためだが、そのためには奈良仏教、天台宗、真言宗の末寺を増やして弟子をその寺に派遣しなければならない。現在の末寺勢力は奈良仏教は全国に2500寺院、天台宗は1200寺院だが、その中には空海が布教した寺院の600寺院があるのでいずれ空海に返還される。真言宗は50寺院で日本中の寺院は約一万寺院あるとされるが、全国組織されているのは4割程度で残りは豪族らの氏寺本山とその末寺になる。その氏寺の檀家総代は各豪族の長になるので豪族の親分が空海の真言宗に改宗すれば自動的にその末寺も真言宗になるのでこの朝廷公認の3派連合(最澄、守敏、空海)が全国の宗教寺院を把握できるからだ。

 この豪族と氏寺とは切っても切れない関係になり、豪族の力を誇示するには立派な氏寺が必要になるが、以前なら山門や金堂の大きさを競い合うことから空海が「粗製乱造の仏像を民衆に拝ますのは仏教への詐欺行為」になると粗末な仏像を強烈に批判したことが全国的に流布されていた時期に都で嵯峨天皇主催の「京都仏像美術大展覧会」が開催されてその案内状と招待状が各豪族に送られて来たことで各豪族たちが力を誇示するためにはどの豪族よりも立派なご本尊と仏像を各本山の本堂や山内のお堂、各末寺まで安置する必要があると都まで仏像を買いに来ていたが、あまりにも仏像が高価なもので買えなくて都から尻尾を巻いて逃げ帰って来たと思われることがその豪族の最大の侮辱だという雰囲気が豪族が宿泊する宿坊中に蔓延していた。

 全国には有力な豪族が300部族あるが、これもピンキリで単族で力をつけている部族もあれば国をまたいで連合している部族もある。その中でも九州の半分を牛耳っている熊本氏、四国連合の讃岐氏、中国地方の土岐氏、美濃を押さえている織田氏、駿府関東連合の入江氏、北関東の牧田氏、東北の服部氏、越後の新田氏、越前若狭の土師氏などこれら9氏は豪族の中でも別格で展覧会で嵯峨天皇賞や入賞した仏像を買うだろうと仏師も守敏も予想していた。

 守敏僧都はこれら別格部族の入洛の日程には気を使いなるべく日をずらしていた。別格部族の一行はどれもお供の人数も10名~15名になっていた。宿泊も東寺の塔頭一棟を貸し切り最高の接待を計画をしていた。中でも空海の真言宗本山の高雄神護寺では紅葉狩りの絶頂期でこの神護寺宿坊旅亭もみじ亭に招待していた。紅葉亭には昨年秋の神護寺再興大法要に訪れた嵯峨天皇が座る「玉の間」があり、この玉の間が別格部族の長と氏寺の貫主ら一行の宴席としていた。

 もちろん別格部族の宴席での接待は空海、最澄、守敏の大僧正と全国的に有名になった高級貴族と漁村の娘との涙の再会劇の主人公の従六位椿御前でもみじ亭の女将がするという豪華版だった。接待された9氏はせれぞれの国では〇〇天皇とは呼ばれはいたが、本物の天皇が座る玉の間で一年前に嵯峨天皇と橘嘉智子皇后が御召上がりになった若狭の新鮮な魚介類と同じ献立というお膳立ての接待にはどの豪族も正直驚き嵯峨天皇への忠誠と空海、最澄、守敏には心からの恩義を感じていた。一年前は若狭高浜の漁村の出戻り娘だった椿は空海の正妻、従六位椿御前として貴族のありとあらゆる教養と仕来りを身につけて宮殿社交界の人気者になっていた。

 

#京都不粋大学 115 #ダイエー #グルメシティ
毎日使える65才以上5%割引きの「紙のカード」がありワタシもかなり使っている。それが来年3月からアプリになって使えなくなる。つまり、スマホがないお年寄りはもう店に来るな!というのと同じ。スマホ時代だが、お年寄りに優しい店になってほしい

 

                                                   

#京都不粋大学 116 #コンドルが飛んでいく
京都市内上空の朝は伊丹空港発着飛行機のラッシュだが、コロナ禍で飛行機を見ることはなかった。でも最近チョコチョコ見るようになった。今朝もコンドルが飛んでいた。秋から冬はこの #雲の芸術 がしばしみられる。 #金のかからない趣味

                                                  

 

小説西寺物語 51話 京都仏像美術展覧会仏像搬入、最澄比叡山僧侶撲滅へ

 

小説鯖街道①~⑤話
この小説は「小説西寺物語」の44話~48話の鯖街道の章だけを分離したものです。小説西寺物語は現在49話まで書けています。

小説鯖街道 1話 小説西寺物語 44話 空海若狭の鯖寿司を嵯峨天皇に献上へ、鯖街道①

 

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