こんにちは。

 

先日、友人に誘われて、ローレンス・オリヴィエ賞を5回受賞、トニー賞の優秀振付賞と最優秀ミュージカル演出賞の両方を受賞した唯一のイギリス人、マシュー・ボーン演出の『シンデレラ』を観てきたので、今日はその感想を書いておきます。

 

『シンデレラ』

〈creative〉

◎演出・振付:マシュー・ボーン

◎美術・衣裳:レズ・ブラザーストン

◎照明:ニール・オースティン

◎音響:ポール・グルーシィス

◎映像:ダンカン・マクリーン

◎音楽:セルゲイ・プロコフィエフ

◎アソシエイト・ディレクター:エタ・マーフィット

◎レジデント・ディレクター:ニール・ウェストモーランド

 

〈performer〉

シンデレラ:アシュリー・ショー

ハリー(パイロット):アンドリュー・モナガン

天使:リアム・ムーア

継母:マドレーヌ・ブレナン

 

〈story〉

舞台は第二次世界大戦下のロンドン。シンデレラは継母やいじわるな姉妹・兄弟たち、軍人でしたが現在は車椅子生活を余儀なくされた父親と暮らしています。

 

継母はシンデレラ家の財産を食い潰し、派手なドレスに身を包み、専制君主のように君臨していました。義理の姉妹や兄弟らも地味で冴えないシンデレラに何かと辛く当たるのでした。

 

怪我と病で心身が弱ってしまった父は何も抵抗することができず、シンデレラとともに屋敷の隅に追いやられていました。

 

自由もなく、息苦しい生活を強いられていたシンデレラの前に、守護天使の導きで、頭と心に傷を負った英国空軍のパイロットのハリーが空襲のどさくさにシンデレラの屋敷に転がり込んできます。

 

当時のイギリスは、空襲があると、大きな屋敷は玄関を解放し、逃げ惑う人々を匿わなければならなかったのです。

 

出会った二人は一瞬で恋に落ち、心を通わせますが、それに気付いた継母にハリーは屋敷から追い出されてしまいます。

 

継母と姉妹・兄弟たちは招待状が届き、ナイトクラブ、「カフェ・ド・パリ」へ着飾り出かけてゆきました。

 

実はシンデレラにも届いていたのですが、意地悪な継母はシンデレラに渡そうとはしませんでした。

 

意を決して、シンデレラは亡き母の形見の靴を持ち、戦時下の街へハリーを探しに出ます。

 

ガスマスクをつけた男たちや懐中電灯を持った警官たちが物々しく動き回るロンドン市街を、互いを求めながらさまようシンデレラとハリー。

 

やがて爆弾が落ちてシンデレラが倒れると、守護天使は彼女を助け起こして舞踏会(カフェ・ド・パリ)へ連れていくのでした。

 

守護天使が運転するのは、かぼちゃの馬車ならぬ白いモーターバイクです。

 

「カフェ・ド・パリ」は1941年に爆撃を受けた、当時ウェストエンドに実在したナイトクラブです。戦時下にも関わらず営業を許可されていたこのクラブは爆撃当時、正装した客たちで賑わっていたといいます。

 

マシュー・ボーンは歴史的事実を上手く取り入れていますね。

 

人々が倒れ、まさに爆撃を受けた直後と思われるナイトクラブを、守護天使が時間を巻き戻し、魔法で蘇らせます。表ではサイレンが鳴り響く中、刹那的な歓楽に溺れ人々はダンスに酔いしれています。

 

やがて、白いロングドレスに身を包んだシンデレラが現れて、正装のハリーと再会を果たします。

 

このナイトクラブでのシーンは、マシュー・ボーンならではの華麗さと、その後の二人の行く末の切なさを感じさせる名場面だと思います。

 

二人はグラン・ワルツを華麗に踊り、爆撃の轟音が響く中、ハリーの部屋で結ばれます。

 

官能的で幸せな時間もつかの間、12時の鐘が響く中、空襲が二人を襲い、シンデレラは元の姿に戻って爆弾に倒れてしまいます。シンデレラは病院に運ばれ、二人は再び離れ離れに…。

 

シンデレラが残して行った片方の靴を手に、ハリーがシンデレラを探す旅がはじまるのです…。

 

僕はマシュー・ボーン演出の舞台を観るのは久しぶりでした。

 

僕がマシュー・ボーンという演出家を知ったのは、2010年に今は無き青山劇場で『白鳥の湖』を観たのが最初です。確か三度目の来日公演でした。

 

噂は以前から聞いてはいたのですが、僕の大好きなチャイコフスキー作曲のクラシック・バレエの代表作「白鳥の湖」を男性が白鳥を踊るなんてどういうことだ(笑)なんて、ちょっとナメてたところもあったんです。実は。

 

1995年、ロンドンのサドラーズ・ウェルズ劇場にて初演されてから、ダンス作品としては4ヶ月公演というロングラン記録を打ち立て、1998年にはブロードウェイ進出を果たし、1999年度トニー賞において、最優秀ミュージカル演出賞、振付賞、衣裳デザイン賞の3冠に輝いた他、ローレンス・オリヴィエ賞など、30以上の賞を受賞したと聞いて、すごく興味を持ち、友人に観ればわかるよと言われ、観劇し、打ちのめされたことを今でも覚えています。

 

アダム・クーパーがスワンを演じた初演のDVDも購入し、なんども観ましたね〜。セリフのない、コンテンポラリー・ダンスだけで表現された作品なのに、真実の愛を求めて彷徨う青年の傷ついた心の痛ましさが、とても胸に深く迫ってき大感動してしまいました。

 

来年の7月に、新演出で久しぶりに来日公演があるそうですよ〜。メッチャ楽しみです〜(笑)。

 

その次に観たのが、ジョルジュ・ビゼーのオペラとして知られる「カルメン」を、1960年代のアメリカを舞台に再構築した『ザ・カーマン』でした。

 

マシュー・ボーンのプロダクションの中で、観客から最も好きな演目として一番言及される作品なんですよね〜。

 

分かります、分かります〜(笑)。セクシーさに圧倒されますからね。

 

19世紀に書かれた古典「カルメン」を残酷で背徳的で情熱的で甘美な物語に描きなおしたマシュー・ボーンの才能に唸りましたね。

 

その後は、マシュー・ボーンの作品には縁がなかったのですが、久しぶりに今回マシュー・ボーン演出の『シンデレラ』を観ることができて嬉しかったです。

 

『シンデレラ』の舞台は、第二次世界大戦下のロンドン。冒頭、けたたましいサイレンが鳴り、戦時下の心得を説く、当時のニュース映像がスクリーンに映し出されます。続いて、爆撃を受けて燃える建物の映像とともに流れる、プロコフィエフの序奏が映像と妙にマッチしていることに驚きました。

 

セルゲイ・プロコフィエフが『シンデレラ』を書き上げたのは第二次世界大戦中だそうで、歴史に残る暗黒時代の雰囲気が何かしらの形で音楽に反映されているのではないだろうか?と感じたマシュー・ボーンは『シンデレラ』の舞台を第二次世界大戦下のロンドンに設定したのだそうです。

 

愛を見つけたくても叶わない時代。

愛を見つけたとしても突然、奪われてしまう時代。

尊い命が、幾つも失われた時代。

 

そんな時代でも、一瞬一瞬を大切に、希望を失わず生き抜いた人々の、魂の愛おしさを感じることが出来た舞台でした。

 

おとぎ話として書かれた『シンデレラ』を現実に起こった出来事と重ね合わせて、リアルに人々の心に響く物語に再構築したマシュー・ボーンのセンスと手腕に今回も唸らされました。

 

観終わった直後は『白鳥の湖』や『ザ・カーマン』と比べると、ロマンチックで幻想的なビジュアルで素敵だったけど、なんだかドラマチックさに欠けるなあと物足りなさを感じたのですが、時間が経つに連れ、やはり『シンデレラ』もマシュー・ボーンの代表作だと思うようになりました。

 

誰からも愛される作品なんだろうなと感じます。

 

史実に沿った設定で、ロンドンのおなじみの風景が取り入れられていることもこの作品の魅力です。ロンドン中心部に実在するナイトクラブで、1941年、営業中に爆撃を受けて多数の死者を出した、ロンドン市民にとっては生々しい戦争の記憶を呼び覚ます場所カフェ・ド・パリ、そのほかにも、セント・ポール大聖堂やテムズ・エンバンクメントなどを再現したレズ・ブラザーストンの美しい舞台装置が良かったです〜。

 

こういう舞台で、衣装や美術のセンスが無いとガッカリですから(笑)。

 

王子に当たるのは英空軍パイロットのハリー。しかしパイロットといっても華やかなヒーローではなく、心身ともに傷を負い、どこか気弱な普通の男性。シンデレラもメガネにひっつめ髪、地味なプリーツ・スカート姿だけど、ただ運命の出会いを待つ少女ではなく、自ら運命を引き寄せようと行動する現代的な女性。

 

こんな、どこにでもいそうな普通の男女が、明日をも知れぬ時代に、真実の愛を求めてもがき抜く姿が共感を呼ぶのではないでしょうか。

 

シンデレラを導く守護天使を演じたのは、ロンドン発の人気ミュージカル『ビリー・エリオット』の初代ビリーの一人として日本でも知名度が高いリアム・ムーアです。

 

銀髪で、白い光沢のあるスーツに身を包んだリアム・ムーアは、背も高く、がっしりとした体躯で、時や人の生死を司る存在として神秘的に優雅に舞台上に存在していました。素敵でした〜。

 

僕もマシュー・ボーンの魔法にかかってしまった一人です(笑)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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