【この記事は、最後に小説のラストに触れています。未読の方は読んでから】
夜の大都会、紫煙とバーボンの香りの中、一人トレンチコートをまとい、金や権力と縁遠くてもなお誇り高く自らの矜持を貫く探偵。
彼は金に媚びず、権力におもねらず、暴力にも屈しない孤独な騎士。
レイモンド・チャンドラーの描きだしたフィリップ・マーロウが、あまりに魅力的だった故に、それは多すぎるほどのフォロワーを生み、さらにはそのパロディまでがあふれ出すほどに書かれ、いわゆる探偵というイメージを固定してしまったあの姿。
それを日本流に描く事を生涯の仕事にしたような原寮さんの作品は、常に新しいモノを求める私には、読みたいと思う作品ではなかったです。
今回もこのミス一位ですが、期待はなかった。
それでも相変わらず、過去の作品と同じように圧倒的に読ませる。
幾多のフォロワーたちと違い、原寮さんがここまで来られたのは、まずチャンドラー流の華麗な文体を真似しようとしなかった事でしょう。
アレはレイモンド・チャンドラーだけが描ける文体なんですが、それに目を眩まされたフォロワーたちは、なんとか自分もと無理な挑戦を試みた末、幾多の屍をさらす事となったのです。
原寮さんのやった事は、書ける事を丁寧に書く。
無理な抒情を差しはさまない。
キャラクターを丹念に造り上げる。
プロットを無理なく組み立てる。
それらの地道な作業を、じっくり時間を掛け、決して焦らずにやり遂げる。
結果、古い革袋にも極上の酒が注がれた。
そんな感じでしょう。
それにしても登場人物たちがみな、タバコを吸う事吸う事。
なんかの恨みでもあるんじゃないか、と思われるほど、僅かな隙でも吸いまくる。
原寮さんは、禁煙ファシズムの対抗者でしょうか?
そして迎えるラストは二段構えのオチが待っています。
一段目は孤高を貫く決意表明。
最後の最後のオチはなんと3.11。
それまでとまったく関連がない、思いもよらない幕切れなのですが、効果的なので、二度ビックリ。
結局、読んでいる間、登場人物たちと深くコミットさせられていた、という証拠なんでしょうね。
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