今さら横溝正史?
と思うかもしれないけど、読めばやっぱり圧倒的にオモシロい!
彼の作品はカドカワ映画を始め、幾多の巨匠監督たちが、有名女優、俳優を使い、何度も映画化されているから知った気になっているかもしれないけど、本当に分かっているでしょうか?
映画の途中で、こんがらがったりしたでしょう。
なんでそうなるかというと、彼の長編は、あまりにも多くの殺人が起き、奇怪な所以奇縁が延々と語られ、登場人物やたらと多く、山場も谷間もあり過ぎるので、映画の尺である2時間かそこらのに収めると分かり難くなるのだ。
でも小説なら大丈夫。
横溝の文章は、日本ミステリー史上でも随一の説明の巧さを誇り、状況と経緯は過不足なく読者に伝わり、かつ楽しい。
特筆すべきは女性キャラクターの魅力で、この作品でも美貌のやり手女子、美也子に、まさに姉のような情愛で、主人公の辰弥を包む春代、若い純情と恋心を思い切りぶつけて来る典子など、みんな魅力的。
反して、男性キャラはダメなんだけどね・・・
主人公の辰弥も金田一耕助もなんかサエナイんだけど、冒頭からのストーリーが、まさに千変万化で読ませる読ませる。
大事な事だから二度言うけど、それが決して映画のような駆け足でないから、読者はゆっくりと物語を楽しめる。
ああ、オモシロいな、とため息をつけるのが値打です。
物語は、八つ墓村の名の由来となった陰惨な伝承から始まり、神戸で天涯孤独でも普通に暮らす主人公が、不気味な由来と名をもつ山深き村に、不安のままに向かい、数々の災難と連続殺人の中、なんとか女性たちの助けで生き延び、最後は鍾乳洞の中での派手なアクションシーンまでありという、娯楽小説のフルコースのメニュー。
それが全部堪能できます。
例によって、全てが手遅れになった後に、金田一耕助の解説が始まるんだけど、そこはそれ、凡百のミステリーとはレベルの違う、諸々の伏線の回収、納得させらるのは巨匠横溝先生の力量です。
本の表紙は、おどろおどろの極彩色って感じだけど、読んでいる感じは、安心して読める娯楽小説。
個人的には、江戸川乱歩風の本物変態風味は好みでないので、その点も良かった。
今さら横溝正史?
違います。
今だって横溝正史なんです。
ホントにオモシロいから。
ちなみのこれは歴代ミステリー57位
どうしても仕方ないんだけど、新しい作品が有利になる中で、今から70年前の作品で57位ですよ。
やっぱりスゴイよね。