<<Gastkonzert in Tokyo>> Schumann 交響曲全曲演奏会

Mr. Christian Thielemann Dirigent クリスティアン・ティーレマン氏

Sächsische Staatskapelle Dresden シュターツカペレ・ドレスデン

 

2018年10月31日 サントリーホール Programm 1 (31. Oktober)

ロベルト・シューマン Robert Schumann

第1番 Symphonie Nr. 1 B-Dur op. 38 »Frühlingssymphonie«
第2番 Symphonie Nr. 2 C-Dur op. 61

 

2018年11月1日 サントリーホール Programm 2 (1. November)

ロベルト・シューマン Robert Schumann 

第3番 Symphonie Nr. 3 Es-Dur op. 97 »Rheinische«
第4番 Symphonie Nr. 4 d-Moll op. 120

 

2年振りの御来日となったクリスティアン・ティーレマン氏&シュターツカペレ・ドレスデン、初日はシューマン交響曲全曲演奏会より第1番と第2番が御披露目された。まず最初に自分に言い聞かせたいこと、それはMr. Christian Thielemannが今まで教えてくれた作曲家達とは毛並みの異なるロマンチストRobert Schumannが今夜の御相手であり、シューマンは決して常軌を逸する人でも宗教的でもなければ客受けを狙うタイプでもない。

 

つまり、これまで私がTokyo&Dresden&Bayreuthで鑑賞経験を積み重ねてきた思い出を引き出しに仕舞う必要がある。何故ならば、アプローチの仕方が異なるであろうから。痺れる半拍ずらし芸や出力100%以上の興奮に包まれる姫気分でいては、ステージならぬ客席から蹴り落されるだろう。彼が如何にシューマンを若い頃から愛してきたか、それは何なのか?知ろうと歩み寄ろうと切磋琢磨する此方のスタンスが心から楽しむ秘訣となる。

 

それには、まず「彼のWagner」「彼のStrauss」「彼のBruckner」を同じテーブルに座らせてはならない。更に、日本人が好む揃いの美学、此方についても私の心は「ドイツ寄り」なので好まない。キッチリ後ろ髪が直線に切られたバービー人形より、乱れた髪の方が魅惑的だ。それ故クラシック音楽も又、同じこと(リズム感より歌心)を期待してしまう。オペラを振れるのではなく、オペラを非常に得意とする指揮者の描くカンタービレの何と耽美なことよ。ユニゾン(第4番の第2楽章にてオーボエとソロ・チェロ)が3回とも一糸乱れずにしない解釈、そこにChristianのロマンを感じる。

 

又、実演(再現芸術)を評価する為に録音(再生芸術)を引き合いに出すのはナンセンス。予習材料として役立つとは言え、プロデューサーや録音エンジニアが介在する融合料理ならぬ共同制作は、限られた聴衆に届けられるライヴとは歴然とした差が生まれる。それは、指揮者の解釈に留まらずソリストにも同じことが言える。本番でのパフォーマンスとセッション録音とでは魅せ方、つまりテクニックを変えると我がクラシック音楽の師匠が丁寧に紐解いて下さった。だから、これから放送なり発売されるかもしれない10月31日&11月1日のライヴには「再現芸術(実演)で聴衆を歓喜の渦に巻き込んだパートを、再生芸術(CD/BD)で繰り返し堪能出来るであろう演奏に差し替える(差し替えざるを得ない)可能性」がある。

 

念願のシューマン・プロジェクト、私が感動したのは「ワーグナー、ブルックナー、ブラームス、R・シュトラウスとは異なる世界に御招き頂いた」こと。何時も通り高い水準を保ちつつ、宝石のようなシュターツカペレ・ドレスデンの相互作用は絶品。プログラムが外来オーケストラにしては珍しいシューマン、あえてnon-重厚長大安定企画を東京で披露とは粋なアイデア。日本仕様にしないところが、彼らしい。洗練された大人の対話、それを節度あるトーン(シューマン語)で囁くティーレマン氏の解釈。特に交響曲第2番、痺れずにいられない。千秋楽における第4番も、至高の芸術そのもの。

 

私がMr. Christian Thielemannを心から愛するのは、常に同じ表情を魅せないから。何時も彼は違うことをして、驚かせてくれる。誰よりも素直で、誰もよりも純粋。色に例えると、純白。

 

2018年、私にとって苦難の年であるが、彼のロマン溢れるシューマン交響曲全曲演奏会を通し命の洗濯が出来た。今日まで自分は生きていないかもしれない、もたないないかもしれない、辛い日々が続いていたなか漸く輝かしい光を見たような2日間となった。息が途絶えそうになっても諦めてはならない、その先に必ず幸福が待っている。そう耳打ちされた気がしたシューマン・ツィクルス、Mr. Christian Thielemann♥ありがとう。

 

P.S.

関係ない話しながら、今回の宿泊は豪華に決めた。某ホテルにて、初のジュニア・スイート経験。極上の音響芸術に触れた晩に相応しい部屋、私にしては広く感じる66平米。