テキストを見て知っているだけでは天体望遠鏡は使えない | 勉強させない子育て論と子どもの成長記録

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以前のブログを見て天体観測をして下さった方から,子どもが天体に興味を持ってくれたというお話を頂きました。ありがとうございます(^^)

 

そして天体望遠鏡が欲しいと言ったので買ってあげたところ,全く使い方が分からず,ちゃんと見えないとのこと。実はこれ,よくあることなんですね。中学受験の塾では天体をやりますし,天体望遠鏡の使い方も詳しくとはいかなくとも少しくらい扱います。そして天体望遠鏡の中にも取扱説明書が入っています。しかしそれでも使えないんですね。

 

以前こんなCMがありました。2016年に燃費データ偽装問題を起こした三菱自動車が再出発を誓うCMなのですが,このCMの中で天体望遠鏡の使い方を間違えているんですね。何が間違っているか皆さんお分かりになりますか?

 

おわかりになりましたか?天体望遠鏡の向きが逆なんですね。「もう一度,1から車づくりを見つめなおすこと」って言っているのに,地面を見ちゃってるんですね。そしてのぞき込んでいるのも逆。使ったことがある方なら絶対ありえない設置の仕方なのですが,CMを撮影した方々は誰もそのことに気付かなかったそうです。要するに誰も実際に使ったことがなかったということでしょう。大人たちが集まってチェックしてこのミスなのですから,子どもが使えないのも無理はありません。

 

ではなぜテキストで見たことがあるにもかかわらず,そんなに全く使えないのでしょうか。それはそもそも根本的なことがわかっていないからなんです。そこで今回は天体に興味を持ってくれた方のために,天体望遠鏡の使い方の基本中の基本のお話を致しましょう。

天体望遠鏡の種類

さて,みなさんは天体望遠鏡を使った事がありますか?月や火星,木星の写真を見て,一度は天体望遠鏡を欲しいと思った人も少なくないでしょう。 PHIでもやはり天体望遠鏡が欲しいという話は毎年よく聞き,買う前に実際に触らせてみるのですが,まぁ全く使えない。その時の様子から実際にどこでつまづいているのかを説明致します。

 

まず天体望遠鏡の種類ですが,大きく分けて2種類あります。一つは屈折式天体望遠鏡で,もう一つは反射式天体望遠鏡になります。

 

屈折式天体望遠鏡

屈折式天体望遠鏡の特徴は,鏡筒の部分が細いことです。対物レンズ(右側)を空に向けて,接眼レンズ(左側の折れ曲がったところ)に目を当ててみることになります。星の光を屈折して目に入れるので屈折式と言われます。

 

屈折式のメリットは,メンテナンスが楽で,扱いやすいといったところでしょう。細かいことを言うと色収差が出てにじんだ感じにみえるといったデメリットはありますが,それはガチの趣味の世界に入った人が気にするレベルなので,これから天体望遠鏡を始めようという方は気にする必要ありません

 

反射式天体望遠鏡

反射式望遠鏡の特徴はやはりその存在感でしょう。大口径なので存在感があり,天体観測している感が出ます。これは筒の中のお皿のようなくぼんだ鏡で星の光を反射して見るタイプです。そのため空に向けるのはこの画像でいうと左側,見るのは突き出たレンズということになります。右側には鏡が入っています。三菱のCMで使っていたのはこのタイプでしたが,屈折式望遠鏡と間違えたのか右側を空へ向けて,左側のファインダー(小型の望遠鏡)を逆から覗いていましたね。

 

脇についてる小さな望遠鏡みたいなのは何?

これは目標を探すためのファインダーと言います。スナイパーライフルについている,のぞくものと同じですね。これを見て目標物を合わせ,あとは実際に天体望遠鏡の方を見ながら微調整するのです。これを使わずに,いきなり目標物に合わせるのは大変!

 

どっちがおすすめ?

私はどちらも持っていますが,正直こちらの屈折式はかさばりますし,メンテナンスが面倒です。初めての子が扱うのであれば,断然屈折式の方が楽でしょう。本格的に使うようになったら改めて検討する方がいいでしょう。というのも,写真をクリックして頂ければお分かりになりますが,屈折式天体望遠鏡は高いんですね。細かくこだわると屈折式の方が高くついてしまうのですが,お手軽簡単に作るなら屈折式の方が安く作れるのです。正直その辺にある安物でもいいと思っています。もちろん見栄えや倍率には大きな差が出てきますが,実際に月を見て感動をするのが目的でしたら,1万円くらいのものでも十分です。1万円を切ると,正直双眼鏡で見るのと大して変わらない気が(笑)

 

そんなわけで,もし買ってタンスにしまったままとかなってしまったら悲しいので,壊れても使わなくなっても諦めがつく屈折式の安いものからスタートするのがいいでしょう。

実際に使わせてみた

さて,実際に「月を見るぐらい簡単だよ!大きいじゃん!」と言っていたこの子に,操作が簡単な天体望遠鏡を貸して使わせて見ました。もちろんちゃんと月を見ることができます。その結果,

「先生,あれ全然見えないよ! 何も見えない!真っ暗!てか使い方わからない!」

使い方も何も,レンズをはめて,のぞいてピントを合わせるだけじゃん!(笑)

 
 

でもできないんですね。というわけで安物の天体望遠鏡で使い方を教えました。

目標は50mぐらい先にある看板。安物の天体望遠鏡は倍率がそこまで大きくないので,看板でも練習できるのです。そして看板だから周りにいくらでも目標物があります。それでもなかなか合わせられません。見えるまでにかかった時間はなんと30分!

 
 

これ,上下左右を間違えてアップロードしたわけではなく,天体望遠鏡で見ると上下左右がさかさまになるんですね。これが慣れてないと操作を難航される原因の1つでもあります。

 

こんな操作が簡単な安物の天体望遠鏡ですらこんな状況です。ちゃんとした天体望遠鏡なんて使ったことがない人が使えるものではありません(笑)

よくやりがちな間違った使い方

なぜ小中学生が天体望遠鏡を使えないのか,よくある間違った使い方を書いておきますので,天体望遠鏡を実際に使ってみようと思う方は参考にして見て下さい。

 

いきなり高倍率で見ようとする。

まず低倍率のレンズで目標を探し,見つけてから高倍率に変えましょう。高倍率にすると見える範囲がせまくなるため,見つけるのが大変になります。授業で用いた安物の天体望遠鏡にはファインダーがついていませんが,一般的な天体望遠鏡ならファインダーがついていますので,まずはこちらで目標を探し,その後で天体望遠鏡をのぞいて微調整するようにしましょう。

 

天体望遠鏡を不用意に触る。

顕微鏡とは違い,天体望遠鏡はちょっと触っただけでレンズから目標が消えます。というのも倍率がものすごく大きいので,ちょっと動かすとどこに行ったかわからなくなってしまうんですね。基本的に必要な時に必要な場所以外は触れない,揺らさないのが常識です。また,動かすときはそーっとゆっくりと。なお,天体望遠鏡の価格が上がると,この辺りが精巧になり,微調整しやすいねじになっていきます。価格も折り合いがついて,使い方が分かるとこっちの方が断然楽なんですけどね。

 

見ないで動かす。

レンズをのぞきながら動かさなければ,目標がどこにどうあるのかもわかりません。見ながら根気強く,ゆっくりと操作するようにしましょう。

 

ガチャガチャ動かす。

空は真っ暗です。今回の看板とは違い,目標となるものはほとんどありません。それゆえ,目視で天体望遠鏡を目標へ向けたら,その近辺を根気強くじっくり探します。せわしく動かすと視界に入っても一瞬で消えていくので気付けないこともあります。

 

見えないものを見ようとする。

これ,意外と多いんです。月だったらクレーターが見えて面白いですが,ベテルギウスが見たいと言っても,点にしか見えないんですね。大きく見えるものだという思い込みで見よとしても,全く見つかりません。

 

また,遠い天体になればなるほど,目標に合わせるのが大変になります。月ですら見られないようなら土星の輪などまず見られないでしょう。所詮市販用の天体望遠鏡ですから,パッケージにあるような写真が見えるとは限りません。過度な期待はせず,やはり最初の天体望遠鏡は,練習用と割り切った方がいいでしょう。ある程度どう見えるか,倍率ごとの写真を予め見ておくといいかも知れませんね。

 

諦める。

使うからには見る所まではやるべきでしょう。簡単に諦めてしまうようでは,諦めグセがついてしまいかねません。親子一緒に,見えるまで頑張って見て下さい(^^)