私の顧客の1人に、アルツハイマーを患う女性N(80代後半)がいる。
これまでもちょいちょいNのことはブログに書いているのですが、アルツハイマーのせいで最近は短期記憶がだいぶ怪しくなっている。
気を抜くと5分前に話してたことを忘れるぐらい。
けどNはめちゃくちゃ聡明で、時々仕事中に昔旅行に行った時の話や、子供の頃の話なんかを身振り手振りを加えて面白おかしく話してくれる。
この時代の女性にはかなり珍しく、Nは結婚して子供ができてからも仕事をしていたそうな。
しかも日本でいうならNHKであるABCで。
そこでNは、現地取材に行ったスタッフ達が報告してくる情報を、アナウンサーがテレビで報道できるように速攻で原稿に書き上げる仕事をしていたらしい。
ABCでは爪の先ほどのミスもご法度。
でも、Nが働いていたのはかれこれ50年ほど前のこと。
時にはのんびりと同僚達とデスクでお茶を飲みながら、おしゃべりしていることもよくあったらしい。
そんなある日、目の前のデスクに置いてるタイプライターがガタガタと横に移動していくのを、ティーカップ片手に見たN。
カップの中のお茶も揺れてる。
「???私、もしかしてなんか、病気になったの???」
と思ったら、コーヒーマグ片手の隣の席の男性Mが言った。
「おぉ!俺なんかヤバいことになってる!コーヒーが飛び散るぅぅぅ〜!」
地震だった
オーストラリアには珍しい地震。
突然あっちこっちで電話が鳴り出すし、慣れてない地震で身を守るにはどうしたら良いかもわからない。
「え?机の下に潜れば良いの?何よ?どうしたら良いのよ???」
って右往左往。
しかしボスが叫んだ。
ボス「N!地震だ!原稿を書け!」
N「えぇ〜そんなこと言ったって、タイプライターだって逃げて行ってるのよ」
ボス「 M!タイプライター捕まえて、Nが打ってる間押さえつけとけ!!!」
ガタガタと横滑りするタイプライターを元の位置に戻して、本当にNが原稿を打っている間必死に押さえ続けるM。
「子供達のところに行かないと!夫のことだって心配なのに!私こんなことしてる場合じゃないのよ」
そんなことを考えながらも必死で書き上げたそうな。
そして、「でも、日本ではもっともっと大きな地震がたくさんあるんでしょう?」とN。
そこで私の実家が半壊した阪神大震災の時のことを話した。(悲惨な部分を省いて身近で起こった珍事を中心に)
この一連のやり取りが、この後3回。
でも、Nが楽しそうに笑って話しているのが嬉しいし、話が楽しいから何回繰り返しても気にならない。
Nは毎週私が訪問するのを楽しみにしているらしく、友達だと言ってくれる。
仕事を早く切り上げて、2人でお茶をすることもある。
こないだは初めてスキニージーンズを買ったそうで、
「私スキニーレッグなんだって どう?こんな感じ。スキニーレッグよ。」
って自慢して来た
知らない人がNを見たら、「ただのボケたおばあちゃん」にしか見えないかもしれない。
でも私達がそうであるように、Nにも子供の頃があり、仕事をして、結婚して、家族と子供が出来てっていう、積み重ねられた人生の歴史がある。
話を聞くたびにNの聡明さと心の優しさ、知識の広さなどを知って感銘を受ける。
Nのところで仕事ができて、私はとてもラッキーだと思う。
ところで、私が話した阪神大震災での珍事のひとつは、当時新人だった地方出身者の子が先輩社員に騙され、大阪から電車とタクシーに徒歩でどえらい時間をかけて出勤したこと。
お弁当まで作ってヘトヘトで出勤したら、自分と上司とその先輩しかいなかったっていう。。。
今だから笑える
正直当時も大爆笑した