スキー合宿の話から…息をすること | 無精庵徒然草

無精庵徒然草

無聊をかこつ生活に憧れてるので、タイトルが無聊庵にしたい…けど、当面は従前通り「無精庵徒然草」とします。なんでも日記サイトです。08年、富山に帰郷。富山情報が増える…はず。

 ふとしたことで、同僚としばしお喋りする機会があった。働く時間帯も役割りも違うので、ほんの少しでもプライベートな話をする機会がなかった。彼はスキー連盟の仕事を手伝っているとか。異常に降雪の少ない今冬、新潟のあるスキー場へ行ってきて、帰ってきたばかり。大急ぎで会社の新年会へ。我輩も、前の仕事場ではスキーをやったことがある。というか、その職場の若手らは、スポーツ好き。若手の同僚らで、週末はテニスにゴルフ。職場には卓球台があり、昼休みには卓球。ある年、誘われてスキーへ。


 我輩、富山県民ながら、スキーの経験はない。スキー板は履いたことは、ガキの頃は毎冬。但し、平地だけ。斜面は小学校のスキー山(標高数メートル)だけ。何たって、郷里は田圃と畑たまらけだし。そんな我輩は、誘われるままスキーへ。宿泊施設からリフトへ行くまでに一悶着。僅かな斜面を下って上らないとリフトに乗れない。それが出来ない。(昔、詳しいレポートを思い出話としてホームページに書いた。が、ホームページは消滅してしまった。)

 

 数時間、スキー経験者らに引き摺られるようにして斜面を滑り降りる……転げ落ちたというべきか。直滑降で倒れるまで! そんな我輩を皆は上級者向けのスキー山の天辺へ。天辺から見下ろす斜面は、斜面なんてものじゃない、断崖絶壁だ。崖以外の何物でもない。今、振り返ると、我輩は苛めに遭っていたのだ。人のいい自分は仲間として誘ってくれたんだ、断るのは悪いと……。降り頻る雪。天辺に立って途方に暮れる敷かない。皆はさっさと滑り降りて行った。コブコブの斜面……我輩には急斜面ですらなく、断崖絶壁としか思えない。 どうする?


 どうしようもない! 皆は雪の靄の遥か下方に微かに固まっている用な。我輩は覚悟を決めた。やるしかない! 急斜面のコブコブ一つひとつにすがり付きかじりつきながら降りて……落ちて行った。男の意地。
 会社の同僚との同席は短く終わった。なので、突っ込んだ話もできない。スキーができるなら誘えばよかった、なんて言われても、スキーをやったのは、ずっと昔、若いころの話だ。日々、庭仕事しているから足腰は鍛錬されているが、そもそも草むしりや剪定作業は心拍数が上がらない。スキーのような激しい運動をしたら、というか、そもそもできないだろう。話は、半端なところで途切れた。

 

 ここからは別の話になる。翌朝、精魂尽き果てて、起き上がることが出来ないでいた。皆は当たり前だが、平気だ。起き上がれない我輩を可哀想にと見下ろしている。(実は、スキー靴も同僚に借りたもので、サイズが小さかった。両足の親指の爪が剥がれた!)確かに全く経験のないハードな特訓……実は苛め(当人はその時は苛めだと全く気付いていない。苛められる覚えもない)で 体は悲鳴を上げている。だが、その悲鳴は、自分には馴染みのものなのだ。何故なら、我輩は鼻呼吸が出来ない。


 睡眠時無呼吸症候群が一時期話題になった(1990年代の前半だったか、テレビやラジオでの啓発だったのだろう、盛んに取り上げられるようになった。身体にもたらす有害さが医学的に認識され一般に注意喚起されていたのだろう)が、我輩は鼻呼吸が出来ないのだ。夜も昼も。我輩にとって夜は、睡眠時間帯は、ただ横になっているだけの呆然と時を闇を過ごすだけの魔の時間帯。眠気は襲ってくる。睡魔は、誰をも見逃してくれない。うとうとし始める。すると、物凄いイビキと息苦しさで目覚める……というより、安静などお前なんかに赦してやるものかと、叩き起こされるのだ。が、日中の疲れもあるし、睡魔は優しく我輩を安逸なはずの睡眠へと誘う。が、眠りかけると、息苦しさが我輩を叩き起こす。


 我輩にとって夜とは、目の前に睡眠というニンジンに煽られけしかけられ、が、決して赦されることのない、業苦の連続以外の何物でもない。前日のスキーの猛特訓という名の苛めで体の節々まで痛む苦しみに堪えながら、その実この苦しみ痛みなんて、我輩にとっては、毎朝覚えている、骨まで皹入ったような、体が文字通り鉛の塊になったような感覚と似たり寄ったりではないかと感じていた。十歳の頃からの業苦。我輩にとって日中とは、朝のヘトヘト精魂尽き果てた体を癒すことが先決の、魂の脱け殻の身をもて余す時間帯以外の何物でもない。昼行灯。


 昼間は襲ってくる睡魔と闘っている。夜は全く眠れていないのだから、いつ寝る? 昼間でしょ、なのである。だから、ちょっと気を抜くと授業中であろうが、友と雑談を交わしている最中だろうが、それこそ町中を歩いているというのに、睡魔に吸い込まれていきそうになる……のを辛うじて堪える始末である。


 油断すると、すぐ眠りに落ちていく。皆が起きているさなか、まるで氷の壁を掻き削るようにして、瞬間の睡眠を(覚えず知らず)貪っている。足掻くように息している。無論、周囲の誰にも気付かれないように、だ。だから、日中、我輩がまともに覚醒できている時間は、かき集めても一時間もあるだろうか。鼻呼吸できない。口呼吸だけ。けど、人前で口を酸欠の金魚の如く、ぱくぱくさせるわけに空かないよね。口を薄く開けて静かに、しかし、必死に懸命に呼吸している。文字通り生きるのに懸命。生き延びるのに精一杯。周りの全ては、分厚い壁の向う側の、他人事、絵空事。こんな苦しみなど誰にも分かるまい。分かる必要もないけどね。だって、自分自身すら、事態の深刻さに気付いていなかったんだから。気付いた時は、遅すぎた。

 

(以上は、読書メーターでの呟きを元に、多少加筆したもの。)