MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1271 人口減少への備え

2019年01月12日 | 社会・経済


 日本の将来に向けて何が一番の課題かと言えば、多くの人が「人口の減少」と答えるかもしれません。

 日本の推計人口(2017年)は前年より約23万人減の約1億2670万人で、7年連続で減少を続けています。

 国立社会保障人口問題研究所の推計によれば、約20年後の2040年頃の日本では人口が年間約90万人も減り続け、団塊ジュニア世代が高齢者となって65歳以上が全人口の3分の1、約4000万人に達すると見込まれています。

 今から約20年後には、国、地方ともに行政機能を持続できるかどうかが危ぶまれる…そんな厳しい現実を、政府も直視し始めています。

 今年7月に公表された総務省の有識者会議(「自治体戦略2040構想研究会」)の中間報告は、20年後に行政が直面する大きなリスクとして、(1)首都圏の急速な高齢化と医療・介護の危機、(2)深刻な若年労働力の不足、(3)空き家急増に伴う都市の空洞化と、インフラの老朽化、の3つを挙げています。

 そこで研究会では、地方自治について自治体が個別にフルセットの機能を持つのではなく、いくつかの市町村が圏域を作り施設などの役割分担を進めることなどを提案しています。

 勿論この考えを進めれば、「都道府県・市町村」という地域生活を支える自治体の従来の役割も見直さざるを得ないかもしれません。

 (少し前の記事になりますが)一昨年12月26日の日経新聞では、「人口減に健全な危機感をもっと」と題する論考においてこうした状況を整理し、対応策の方向性について論じています。

 20世紀初めに4400万人弱だった日本の総人口ですが、二度の世界大戦やその後のベビーブームを挟んで1967年に1億人を突破し、今世紀初め(2008年)ついに1億2808万人でピークアウトしました。

 記事によれば、今後、もしも(仮に)男女の年齢別生存率と合計特殊出生率が2004年の水準のまま推移しかつ移民を受け入れないとすれば、22世紀初めの日本の総人口は4100万人台にまで減少するとされています。

 つまり、それは過去1世紀の増加分が次の1世紀できれいに帳消しになるということ。このように少子高齢化を伴いながら人口減少が加速することは今世紀に入る前からわかっていたはずなのに、その間、日本の人口政策はぶれ続けたと記事は指摘をしています。

 振り返れば、昭和初期にかけての日本では産児制限運動が盛んになり、政府は移民送り出しを奨励し毎年2万人ほどが南米などへ渡っています。日米開戦を前にした1941年には逆に「産めよ殖やせよ」の掛け声の下、1960年までに総人口1億を達成させる人口政策確立要綱が閣議決定されました。

 人口過剰論が再び台頭したのは敗戦後のことで、食糧難を迎えていた1948年の優生保護法成立を経て、出生率減少のきっかけとなった「経済的理由による人工妊娠中絶」が合法化されました。1974年の日本人口会議では、「子供は2人まで」と大会宣言にうたったりもしています。

 そして21世紀に入り、今や年間出生数は(ピーク時のほぼ半分となる)100万人の大台を割り、合計特殊出生率は人口規模の維持に必要とされる2.07を大きく下回る1.43(2017年)まで落ち込んでいます。

 こうした現実を前に、「産むか生まないかは各人の選択だとしても、子供を持ちたいという潜在的な希望をかなえる策は不可欠だ」と記事は指摘しています。しかし、そこで着目すべきは医療・介護や年金制度が内包する世代間格差の問題だというのが、今後の超少子高齢に対する記事の認識です。

 社会保障にかかる世代間の格差を研究する学習院大学の鈴木亘教授らの試算によれば、1945年生まれは3制度合計の生涯収支が3370万円の黒字に対し、2010年生まれは3650万円の赤字になるということです。

 負担・受益の両面で高齢層が有利な状況はある程度は致し方ないとしても、これほどの格差の放置は将来世代への責任放棄ではないかと記事は指摘しています。

 そこで記事では、少子化への対応策として以下の三点を提案しています。

 その一つは社会保障改革の断行です。例えば医療の窓口負担を、年齢で差をつけるやり方から収入・資産をもとに決める方式に変えること。巨費をかけてマイナンバーを導入したのだから、(当初の目的のとおり)そうした用途に使うべきだということです。

 二つ目は、子育て支援の強化です。政府・自治体、経済界を挙げて待機児童を減らすのは当然として、特に企業経営者には従業員が暮らしと仕事を無理なく両立させられる環境づくりに意を用いてほしいということです

 そして三つ目が、これから生まれてくる世代への支援だということです。夫婦が出産を諦める理由のひとつに晩婚化がある。結婚を望む若い男女を後押しするには、就労支援などを通じて出産の機会費用を下げるのが有効だと記事はしています。

 振り返れば、私たちの暮らしを豊かにし、社会を安定させる原動力として人口政策をとらえる発想は乏しかったと記事はその結びに記しています。

 人口の適切な維持や積み上げによって社会が安定化するのか、社会の安定化が人口の維持・拡大をもたらすのか、その順序は正直私にもよくわかりません。

 しかし、若い世代が希望をもって結婚や出産に臨み、安心して育てられるような社会が誰にとっても後らしやすい社会であることは、おそらく間違いのない事実なのではないかと感じるところです。



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