MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1273 シュリンクする経済と家計

2019年01月14日 | 社会・経済


 財務省が発表した2017年度の法人企業統計によると、企業の内部留保と呼ばれる「利益余剰金」は、金融・保険業を除く全産業で前年度比9.9%増の446兆4844億円となり過去最高額を積み上げています。

 一方、企業が稼いだお金のうち従業員の給与やボーナス、福利厚生などに充てられた割合を示す「労働分配率」は66.2%と、前年度の67.5%から1.3ポイント下落。企業利益の伸びとは対照的に従業員の賃上げが進んでいない状況が見て取れます。

 企業の収益力は年々高まっているが、資金は設備投資や賃上げには向かわず、内部にため込まれる傾向が鮮明になっていると言えるでしょう。

 日本企業の経営状況をもう少し長いスパンで見てみましょう。

 同じく財務省の「法人企業統計」によれば、2000年度に35.9兆円であった日本企業の全経常利益は、2017年度には83.6兆円まで2.33倍に増加しています。

 それに歩調を合わせるように、同期間の株主への配当金は年間4.8兆円から23.3兆円へと4.85倍へと増額され、内部留保に至っては2.8兆円から38.2兆円へと13.64倍に膨らみました。

 しかしその一方で、2000年に38.9兆円あった企業の設備投資は2017年現在でも45.4兆円に過ぎず1.17倍と微増に過ぎません。そして、肝心の人件費に至っては、(これだけ利益が出ているにもかかわらず)2000年の202.5兆円から2017年の206.5兆円へと1.02倍とほぼ横ばいの状況です。

 こうした企業の経営実態を踏まえ、ここからはこの間の日本経済の動きをもう少し大きな視点から見ています。

 2000年の日本の名目GDPは526.7兆円でした。これが217年には546.5兆円となり、約3.8%伸びているとはいえ17年間(こちらも)ほぼ横ばいの状況と言えるでしょう。

 一方、この間、勤労者世帯の可処分所得(給料から税金や社会保険料などを引いた実質収入)は月当たり47.3万円から43.4万円へと概ね4万円、年間に直すと50万円近く減っています。

 これに伴い、全国の月当たり世帯消費支出(農家を除く全世帯)も、2000年の31.7万円から2017年の28.3万円へと3.4万円と減少し、家計が年間40万円もの節約を強いられている状況です。

 会社は儲かっていて株価は上がり配当金も増えているのに、なぜか給料は上がらない。給料が上がらないから生活を切り詰めるし、将来が不安だからなるべく使わずに貯めようという(いわゆる)悲しい国民生活の現実が、こうした数字からは滲み出てきます。

 また、消費が伸びないので売り上げは伸びず、物価も上がらないので景気が良くなったという実感も湧いてこない。ビジョンを持った将来への設備投資に踏ん切れないことで内部留保ばかり膨らむという企業の実態もあるでしょう。

 そうした中、(ゆでガエルのように)シュリンクし続ける日本の家計は、どうやってこの厳しい状況をしのいでいるのか。

 総務省の「家計調査報告」は、最近の国民生活のこうしたやりくりの実態を如実に表しているように見えます。

 2000年から2017年の消費支出(月間:2人以上の全世帯)の変化を見ていくと、例えば衣料関連支出は-4930円、率にして35.0%減らされています。また家具や修繕などの住居関連費用は-4454円で17.7%減少し、小遣い・交際費に至っては-23515円(▲11.7%)も減らされて、お父さんのお財布の中身は(はっきり言って)汲々としたものになっているはずです。

 また、この間、衣料品のユニクロやしまむら、家具のニトリなどはこの間大きく売り上げを伸ばしていることから、衣食住の「衣」や「住」の分野で日本人の消費の傾向が変わりつつあることが判ります。

 一方、家計の中で支出が伸びているものとしては、高熱・通信費の+3655円(+11.7%)や自動車関連費用の+1046円、飲料の+759円、菓子類の+587円、健康保持摂取品の+564円などが目立ちます。

 住むところや着るものへの支出は削っても、スマホやゲームは手放せない。コンビニで飲み物やお菓子を買って家で過ごすといった現代人の生活の姿が垣間見えるようです。

 さらに注目すべきは、21世紀に入って日本人の教養・娯楽費が-10636円と19.2%も減少していることかもしれません。

 経済の勢いが大きく削がれる中、学ばなくなり学べなくなった日本人は、スマホを片手に一体どこに行こうとしているのか。

 少子高齢化の進展やAIの社会実装などで大きな変化が予想される近未来を思えば、そこへの投資を怠る日本人の姿は大変「気になる」要素として映ります。




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