小浜逸郎・ことばの闘い

評論家をやっています。ジャンルは、思想・哲学・文学などが主ですが、時に応じて政治・社会・教育・音楽などを論じます。

第一次産業のグローバル・ジャパン完成!

2019年05月24日 20時13分04秒 | 政治


あまり話題になっていませんが、5月21日、ドサクサに紛れて、またもやトンデモ法案が衆院本会議を通過しました。

全国の国有林で最長50年間、大規模に伐採・販売する権利を民間業者に与える国有林野管理経営法改正案は21日、衆院本会議で自民、公明両党、国民民主党、日本維新の会などの賛成多数で可決された。参院は22日の本会議で審議入りし、与党は月内にも成立させる構えだ。政府は昨年来、第1次産業や公共インフラの民間開放を拡大する法整備を相次いで進め、急激な規制緩和が不安視されるケースも目立っている。
https://mainichi.jp/articles/20190521/k00/00m/010/179000c

国有林は全国の森林の3割を占めています。
この伐採の「自由」を民間業者に与えようというのです。
「改正案」なるものの骨子は以下のとおり。

・伐採可能な国有林を農相が「樹木採取区」に指定。政府は1カ所あたり数百ヘクタールを想定
・民間事業者に採取区での森林伐採を最長50年間委託
・事業者は国に樹木採取権の設定料と伐採した樹木料を支払う
・農相は事業者に伐採後の再造林(植え直し)実施を申し入れ

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190516-00000083-mai-soci&fbclid=IwAR2GSsI4HVjT0OcaZmHSpQhmjTbsx1-rDC0K-FG7j9EEwyzuxZlq_wA5IwM

現行の国有林伐採では、せいぜい数ヘクタール規模で、1~数年単位で農水省が入札し、再造林は別の入札で委託しているそうです。
政府は、民間への開放によって、大規模集約化による効率化を図り、低迷する林業の成長を促し、伐採期間は10年が原則で、地元の森林組合など中小業者を想定していると説明しています。

白々しい大ウソです

なぜなら、第一に、数百ヘクタールの森林を50年間にわたって伐採することを民間に委託するなどということをすれば、その権利を取得できるのは、資本力のある大企業に決まっているからです。

第二に、「10年が原則」というのは、法案のどこにも明記されていません。

第三に、伐採された森林の跡地利用について国がどういう方針を持っているかについても明記されていず、再造林も「申し入れる」となっているだけで、義務化されていません。
業者が申し入れを拒否することも可能です。
採取後、権利を取得した業者あるいは別の業者が、その跡地利用について、森林以外の使用方法を申請してきた時に、林野庁はどういう対応を取るのか。

たとえば、広大な土地を必要とするメガソーラー発電ビジネスのために利用することなどを視野に入れた業者が当然現れるでしょう。
筆者は、さまざまな理由から、ソーラー発電の将来性そのものに対して否定的な見解を持っていますが、そのことはしばらくおきます。

次の写真は、鹿児島県の森林がメガソーラービジネスのために無残に伐採されてしまった例です。


こういう光景は、いま全国至る所で見られ、これからの計画に対して、反対運動も盛んに起きています。
また次の写真は、霧ケ峰高原の森林に計画されているメガソーラーの計画図です。


これらは民有林でしょうが、国有林だって、こんな法案を平気で通してしまうわが国では、きちんと環境保全がなされる保証は全くありません。

言うまでもなく、日本の豊かな森林は、水害、土砂災害の防止に大きな役割を果たしています。
この法案は、近年頻発しているこれらの災害に対する防災の観点が配慮されているでしょうか。
そうは思えません。

第四に、例によってこの法案には、外資規制がありません
グローバル企業が金にものを言わせて伐採権を取得し、それによって木材の売り上げを稼ぐだけではなく、腰の据わらない日本の国土行政の足元を見て、次々に跡地利用の新ビジネスに参入してくる可能性があります。

以上見てきたように、この法案が、やせ細りつつある日本の林業にさらに壊滅的な打撃を与えることは明白です。


これは、林野庁一個の問題ではなく、経産省、資源エネルギー庁、国土交通省、環境庁その他、要するに、中央政府全体の問題なのです。

この法的措置が、農協法改正、種子法廃止、漁業法改正、水道民営化など、安倍政権が進めてきた一連の構造改革・規制緩和路線の延長上にあることは明白です。
そこには、日本の産業や国民の生活を守ろうとする意図はみじんもなく、逆に、利益だけを追及する大企業、グローバル企業に、公共的な部門をすべて明け渡すという方針しか読み取れません。

2018年の12月10日に、第197臨時国会が幕を閉じました。
この国会の最末期に、改正入国管理法(移民法)、改正水道法(水道民営化)、改正漁業法(漁協解体)の三つが、バタバタと成立しました。
これによって、大資本やグローバル資本を利するだけのかたちに、ほぼ完全に書き換えられたのです。
筆者は、この日のことを忘れないために、勝手にわが国の「国恥記念日」と呼んでいます。
しかもこの国恥記念日は、他国からの直接の侵攻によるものではありません(間接的にはそう言えますが)。
いやしくも独立国家の体裁を保っている民主主義国の権力中枢が、自ら進んでグローバル・ジャパンを作り上げたのです。

しかし、グローバル・ジャパンはまだ完成していませんでした。
このたびの国有林野管理経営法の改正が成立すれば、農・林・水産と、第一次産業のすべての領域で、グローバリズムに城を明け渡す準備が整ったことになります。
さあ、私たちは揃って、グローバル神にお供え物を捧げましょう。

ところで、まったく関係ないこと(じつは関係あるのですが)を最後に付け加えます。

先にもこのブログで触れましたが、筆者は、このたび長編小説を完成させました。
この小説は、2018年の8月から12月までの期間、ごく普通の一人の女性と一人の男性がモノローグを交替で繰り返す形を取っています。
ただし、単なる恋愛ドラマではなく、作品の中に、現代日本の政治、経済、社会に対する批判的なメッセージを込めています。
その中に、上に述べたようなことも含まれています。
グラフなども登場する、実験的な試みです。
そんなのは文学じゃない、とお感じの方もいると思いますが、筆者自身は、少しでも多くの方に自分の考えをわかっていただくために、意図的にこういう方法をとっているつもりです。
現在、アメブロに毎日少しずつ分載しており、二か月弱、つまり参議院選挙の投票日までには終わる予定です。
少し堅苦しく、理屈っぽいかもしれませんが、ご関心のある方は、ぜひアクセスしてみてください。
https://ameblo.jp/comikot/



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・消費増税に関するフェイクニュースを許すな
https://38news.jp/economy/12559
・先生は「働き方改革」の視野の外
https://38news.jp/economy/12617
・水道民営化に見る安倍政権の正体
https://38news.jp/economy/12751
・みぎひだりで政治を判断する時代の終わり
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・急激な格差社会化が進んだ平成時代
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・給料が上がらない理由
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・「自由」は価値ではない
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・日経記事に見る思考停止のパターン
https://38news.jp/economy/13382
・優れた民間人のほうが主流派経済学者などより
ずっとマシ
https://38news.jp/economy/13506
・まもなく小説を完成させます
https://38news.jp/economy/13576

●『Voice』2019年2月号
「国民生活を脅かす水道民営化」

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