グローバリズムと日本のアニメ(ANIME) | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ


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『ユーリ!!! on ICE』全国40館にて一挙上映!

劇場版 特報映像も公開!!!
2019年、1月18日より。

https://yurionice.com/series-marathon/

 

 

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放送から20年、「彼氏彼女の事情」Blu-rayBOX 3月27日発売。

BOXイラストを描き下ろしました。

http://king-cr.jp/special/karekano_bdbox/

 

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アニメの今後について、もう少しつづけます。

 

 

日本経済の全体状況とアニメ業界の問題点を繰り返し記します。

 

・1998年以降、日本はデフレ不況が継続中である。

・アニメ業界は構造的にデフレに悪順応しやすく、生産性向上が遅れている。

・そのため、権利収益を得られない制作会社は限定的な制作費のみで経営せざるを得ず、

 デフレと相まって労働環境の劣悪化が改善できない。「薄利多作」の悪循環。

・デフレで国内需要が縮小しているため売上が伸びず、オンライン化・グローバル化の

 対応も不十分で関連商品に依存している。「薄利多売」の悪循環。

 

どの業界でも似たような傾向があり、伝統的手工業のように、人に蓄積された技術力と人手で生産する「昔ながら」の産業は、特に衰退が激しい。

アニメ業界は放送局や映画館への納品形態がデジタル化されたため、外圧を受ける形で、撮影から逆算的にデジタル化が進んできたが、手描きが主流の作画部門が生産性向上を妨げている。

アニメ業界は「老舗産業」化し、デフレが継続すれば滅んでいく可能性が高い。

 

上記の状況で、アニメ業界および個々の制作会社が「今」対応可能なことは

「1」

・技術の高いベテランスタッフのデジタル化を促進し

・ベテランを軸としたデジタル一貫制作の試行と実用化の拡大

をはじめることだと思う。

簡単なようで簡単でないのは前回引用した経産省報告(http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000431.pdf)でもあきらかですが、実行しない限り改善は不可能です。

 

「2」

・業界団体や制作会社が連携して、政府に生産性向上への税優遇・助成など提言。

・消費税増税の凍結、緊縮財政から財政拡大路線への転換(景気回復の具体策)を要請

 

諸悪の根源…デフレからの脱却を、そして経済成長を、アニメ業界をあげて主張すべきです。

 

クリエイティブ系の職種は、政治経済に関わることを忌避しがちです。

政府には不信感を持つ人が多いでしょう。ボクもそうですが…

しかし、全体状況を良くも悪くも動かせるのは政治家、政府の姿勢なのです。

政治にコミットしていく責任をアニメ業界(人)も果たすべきでしょう。

 

経済については、従来型の理論や漠然とした経済観は間違いが多い。

全政党が間違いを改められず、政府も間違った経済観で政治をやっているから、デフレを脱却できず、国民の貧困化が進み、アニメが売れないのです。

こんな状況では、意欲的な作品はますます作ることができなくなります。

 

デフレに対応可能な経済観を持つ有識者を招いてシンポジウムをやるのも良いでしょう。

適切な有識者を紹介できますよ。

 

 

さて… ようやく本題

 

グローバリズムとアニメの関連性です。

 

デフレ不況なので、どの業界でも似た傾向がありますが、国内需要が縮小しているため、外需を求める傾向が強まっています。

デフレを放置している安倍政権は、「外に打って出る」意欲を度々述べているし、国内産業に外国企業や外資を参入させ、人手不足を移民で埋める政策を強力に推進しています。

グローバリズムだ。

短期的には利益があるかも知れないが、中長期的には取り返しのつかない被害をもたらすことを多くの有識者が指摘している。

アニメ業界は同じ轍を進むべきではないが、ある程度対応せざるを得ないのが現実です。

 

アニメ作品の輸出は増えていくか?

または

輸出を増やすべく積極的に順応すべきだろうか?

 

アニメが「クールジャパン」と持ち上げられたことがありましたが、現在はどうなんったんでしょう?

一説には、戦略会議メンバーの金美齢氏がアニメに興味がなかったため蚊帳の外になったとか。

それはともかく

日本のアニメ作品は、本当に外国で大きな需要を持っているんだろうか?

確かに、各国の需要を足し算すれば、国内需要より大きくなるのは確かだ。

しかし

各国のアニメ需要は一様ではありません。

 

「宗教」「歴史」「政治」

 

日本との違いは、これら要素がアニメ需要に大きく関わることです。

 

「前編」で、アニメなど文化的な需要は、世界第一位を占めるキリスト教文化を背景として存在している、と書きました。ディズニーやピクサーなどアメリカ製アニメが世界中で売れているのは宗教的な土壌を無視して語れまい。

日本のアニメ文化も、アメリカ製アニメの影響で発展し、その文脈で世界に普及してきたのだ。

 

しかし

 

その前提が崩れ始めている。

 

特に近年、ヨーロッパで大きな問題になっているイスラム系移民の増加です。

欧州諸国はイスラム系移民の増加によって「別な国」になりつつある。

 

念の為に書きますが、イスラム教にしろキリスト教にしろ、その良し悪しや好き嫌いは問いません。

 

ダグラス・マレーの『西洋の自死』は、マクロン政権が誕生した2017年にイギリスで出版されてベストセラーになり、世界23カ国で翻訳された大ベストセラーだ。

そのイントロダクションはこうはじまる。

《欧州は自死を遂げつつある。少なくとも欧州の指導者たちは、自死することを決意した。欧州の大衆がその道連れになることを選ぶかどうかは、もちろん別の問題だ。》

《「私たちの知る欧州という文明が自死の過程にある」という意味である。英国であれ西欧の他のどの国であれ、その運命から逃れることは不可能だ。なぜなら我々は皆、見たところ、同じ症状と病弊に苦しんでいるからである。結果として、現在欧州に住む大半の人がまだ生きている間に欧州は欧州でなくなり、欧州人は家(ホーム)と呼ぶべき世界で唯一の場所を失っているだろう。

 

 

日本政府は、同じ症状と病弊に苦しむ状況を忠実になぞっています。

 

本書を早い段階で日本で紹介した施光恒(せ てるひさ)さんのコラムに、その具体的な状況が記されています。少し長めに引用しましょう。

 

【国家を哲学する 施光恒の一筆両断】「西洋の自死」日本への警鐘

https://www.sankei.com/region/news/181217/rgn1812170019-n1.html

《英国をはじめとする欧州各国で元来の国民(典型的には白人のキリスト教徒)は、少数派に転落しつつあります。2011年の英国の国勢調査によれば、ロンドンの住人のうち「白人の英国人」が占める割合は44・9%とすでに半数を切っています。また、ロンドンの33地区のうち23地区で白人は少数派になっています。2014年に英国内で生まれた赤ん坊の33%は、少なくとも両親のどちらかは移民です。オックスフォード大学のある研究者の予測では、2060年までには英国全体でも「白人の英国人」は少数派になると危惧されています。

他に、例えばスウェーデンでも今後30年以内に主要都市すべてで、スウェーデン民族は少数派になると予測されています。国全体としても、スウェーデン民族は現在生きている人々の寿命が尽きる前に、少数派に転落する見込みなのです。

 民族構成が変わるだけでなく、欧州諸国の文化的・宗教的性格も変容します。英国民のキリスト教徒の割合は、過去10年間で72%から59%と大幅に減少し、2050年までには国民の3分の1にまで減る見込みです。》

 

マレーがイントロダクションで指摘しているのは、これまでも何度か警鐘を鳴らされてきたが「偉大なヨーロッパ文明によって吸収されてきた」という自信によって見過ごされてきたこと。現在、「偉大なヨーロッパ文明」なるものは幻想となったにもかかわらず、グーロバリズムを改められずに自死に向かっている、ということなのだ。


要するに、

(欧州の場合)イスラム系人口が増えていけば、キリスト教的な価値観は受け入れられなくなっていき、アメリカ的な文化需要は、今後衰退していくだろう。

 

日本文化は非キリスト教圏でも受け入れられてきた歴史がありますが、宗教とは別な価値観が、需要を妨げる可能性がある。

 

アラブ社会における日本のアニメ・マンガの影響 保坂修司

http://publications.nichibun.ac.jp/region/d/NSH/series/symp/2007-12-20/s001/s018/pdf/article.pdf

《サウジアラビの最高宗教権威、総ムフテ ィー、アブドゥルアジーズ・アールッシェイフを長とする科学研 究・ファトワー恒久委員会がサウジアラビアのアラビア語日刊紙ジャジーラで 、「ボケモン」をハラーム(イスラームで禁止されること)であるとするファトワ ー(宗教的見解)を出したのである。(アルジャジーラ 2001)(p139)

中東におけるアニメ・マンガ人気を考える場合 、日本のアニメの性的な側面を無視することはできない。公式ルートで流れるアニメやマンガは基本的には日本国内、および現地テレビ局と二重の検閲を経ており、女性の裸やそれを連想させる場面は修正が施されているのがふつうである。(p142)

 

論文が書かれた2007年から、欧州のイスラム化は大幅に進んでいます。

そして、このようなイスラム教の戒律が他の国で緩和されることがないことは、イスラムが混在する東南アジアだけでなく日本でも「ハラーム食」が広がっていることからして明らかです。

「日本文化は優れているから移民は日本人化していくだろう」などという幻想を抱いていれば、日本も10年後かもっと早くに『西洋の自死』は『日本の自死』になるでしょう。

その時に、「日本のアニメ」は生き残っているだろうか?

 

欧州のアニメ需要は子供向け作品や宗教に抵触しない作品に限定されています。

「萌え」「肌の露出」「BL・百合」などは制限・排除されるでしょう。

アメリカはそこまででないしても、日本国内よりも制限が多い。

このような作品群のファンは欧州であれアメリカであれニッチです。

 

「グローバル化で巨大な世界需要を取り込もう」という話がそもそも現実味がないだけでなく、将来的に需要は縮小していく。

積極的に順応すれば『日本のアニメ』は『日本のアニメでなくなっていく』ことになります。

 

グローバリズムに順応していくとは、各国の個性を潰していく、ということですからね。

 

外需に依存すれば「アニメの自死」を招くのです。

 

欧米はグローバリズムからの反転を模索中だが、日本は何周も遅れてグローバル化に突き進んでいる。世界の弊害を日本が請け負うことになりましょう。

 

 

『日本のアニメ』が発展成長し国内の需要が拡大してこそ、結果として外需がついてくるのだ。

順序を間違えてはいけません。

その時に、外需に応じたローカライズをすれば良い。先回りして合わせることはないのです。

 

ではどうすれば良いか?

 

 

あらゆる問題は、突き詰めていくと同じ回答にたどり着きます。

 

デフレ脱却・経済成長(所得増)による内需拡大だ

 

民間企業は借金を必ず返さねばならないため、財政問題がつきまとう。

しかし

自国通貨を持つ日本政府に財政問題はありません。

政府負債は国民の資産だ。

政府の赤字が国民の黒字となる。

緊縮財政を前提とした改革・規制緩和・グローバル化の停止。

 

日本動画協会やJAniCAなどアニメ業界団体、制作会社が連携して、政府に提言を行いましょう。

 

アニメが売れなくなる消費税増税は凍結!

緊縮財政から、財政拡大路線への転換!

 

 

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