『ファミリー・プロット』…家族のたくらみ?・演出の足し算引き算 | Tempo rubato

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アニメーター・演出家 平松禎史のブログ


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TVアニメ『呪術廻戦』にキャラクターデザインなどで参加しております。

5月20日に制作会社とスタッフの情報が更新されPVが発表されました。

お楽しみに!

 

 

                                                     

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  気分を変えて映画の話など。

 

  先日、ふと思い立ってヒッチコック監督の『ファミリー・プロット』のサントラを探してみた。音楽はスピルバーグの映画音楽で有名なジョン・ウィリアムズです。

  公開は1976年。彼の最後の作品になった。

 

  昔の映画はいわゆるサントラというものはあまり出ておらず「オリジナル・スコア」と称する再演奏盤がよくあった。ヒッチコック映画では『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『引き裂かれたカーテン』の再演盤を持っています。他にもテーマ曲や劇伴の抜粋をおさめたオムニバス盤とかね。これは当たり外れが大きいのですが、『ファミリー・プロット』のエンディングテーマを収めたCDは演奏が比較的良くて、これはこれで不満はありませんでした。

  ところで、ボクは演奏が良ければサントラにはこだわらないほうで、『スターウォーズ』のサントラ(2枚組)が高くて変えなかった頃、今はなき豊橋の名豊ミュージックのくじ引きで当たって、迷わずズビン・メータ指揮、ロスフィルのライブ録音「スターウォーズ組曲・未知との遭遇組曲」を頂いた。ギンギラギンのSFっぽいジャケットです。これは正規の組曲が出る前で構成が違います。メータの演奏はところどころ走り過ぎな感じはあるものの、シャープでかっこよく大変聴き応えのあるものでした。長めに編集された未知との遭遇組曲も良くできていた。現在のものだと省略されている現代音楽的なところやエンディング部分も入っていて満足度が高いのです。

  オリジナルを聴いていていれば他の演奏も、それはそれ、別な表現として楽しめるわけです。

 

  ……『ファミリー・プロット』に話戻して。

  しかし、やっぱり映画で使われた演奏が聴きたい。

  Amazonで検索すると数量限定生産だったらしいサントラが出ていました。

  のこり一枚!

  ちょっと高かったけど、ポチリ!

 

 

  いやー、やはり映画で聴き慣れた音は安心して聴けます。

  編集の都合でカットされているところや効果音やセリフで聴き取れないところもしっかり聴けます。当たり前ですね。なんだか新鮮でうれしかった。

 

  あらすじ(プロット)を簡単に書きましょう。

  主人公は、インチキ霊媒師のブランチとその彼氏でタクシー運転手をしている売れない俳優のジョージ。ブランチは、とある富豪の老婦人レインバートの相談を受けていた。世間体から手放してしまった父無し子(実の父は司祭)エドワードに遺産を相続したいから探してほしい、と。一方もう一組の主人公、宝石商のアダムソンとその彼女のフランは、富豪を人質にとって高価な宝石をいただく裏稼業を営んでいた。無関係な二組のカップルが、レインバートの個人的な過去の清算という「たくらみ」によって引き寄せられ、対決することになる。

 

  「ファミリー・プロット」とは、直訳すれば「家族の物語」になると思います。

  プロットとは、「筋」の意ですが、「物語」と意訳することも可能でしょう。他の意味では「犯行計画」「たくらみ」「陰謀」などもある。 ヒッチコックは原作小説のタイトル「階段」を変更して『ファミリー・プロット』にした。その意図には、あきらかにダブルミーニングがあると思う。内容も原作から大幅に変更されています。

 

  ブランチのカップルのたくらみ。

  アダムソンのカップルのたくらみ。

  レインバートのたくらみ。

  みっつのファミリーの、「たくらみ」が絡み合う「物語」、なのです。

 

  映画はコメディタッチで、俳優陣はニューシネマの時代らしく自由闊達な演技がおもしろい。

 

  さて、中でも音楽とのからみで好きな場面は、ブランチが単身アダムソンを探す場面。

  いわゆる音楽シーンです。

  大雑把な住所と名前だけを手がかりに街中の「アーサー・アダムソン」を訪ねて回る。ひとつひとつを馬鹿正直に見せていったら退屈になってしまう場面です。ギャグを混ぜながら音楽に乗せて描いていく。音楽の終わりに目当てのアダムソンにたどり着く、というもの。バーバラ・ハリスの演技と音楽がチャーミングですばらしい。

 

  ジョン・ウィリアムズはこの時すでに『屋根の上のヴァイオリン弾き』で編曲賞をとり、『ポセイドン・アドベンチャー』や『タワーリング・インフェルノ』などエンタメ大作映画で経験を積んでいた。『ファミリー・プロット』は『ジョーズ』のあとになる。しかし、ヒッチコックには新人として紹介されたそうだ。

 

  DVDの特典映像からウィリアムズのことばを引用していきましょう。

  最初にこう述べています。

  「ヒッチコックとの仕事はかなり厳しかった」

 

  殺人シーンの音楽を他の作曲家に頼んでいた。「『軽い調子に』と指示して」。しかし、その作曲家は重厚で恐ろしい音楽を書いてきた。

  「監督が望むものとは正反対だが、それが普通の感覚だ。」

  「監督はこう言った。殺人とは面白いものだ(原文に近いのは「面白くできるものだ」)」

  「監督の価値観はアイロニーに満ちている。」

 

  アイロニー、皮肉とは、トリュフォーとの対談本でも度々出てきたことばです。

  出来事をそのまま受けとって表現するのではなく、角度を変え、立ち位置を変えてみて見ると表現は違ったものになる。 凄惨な殺人は面白いものになり得るし、愉快で笑える場面が身の毛もよだつ恐ろしい場面になり得るのです。場合によっては、見方を変えたほうがその場面の人々が抱える本質を描くことができる。

 

  引用をつづけましょう。以下のことばは大変勉強になります。

  「音楽を入れるかどうかで意見が合わないところがあった。」

  「マロニー(アダムソンの共犯者)がいた部屋で、窓は開いたまま。カーテンが揺れていて、それを見ると分かる。彼は逃げたと。」「音楽は逃げた男を追うように鳴り続ける。動くカメラと同じように、カメラが窓を映した後も音楽を続けた。」

  「監督は、途中で止めるように言った。『静寂で部屋が無人だと分かる。どんな音楽よりも強烈だよ。』」「まさにその通りで、いい勉強になった。」

  「いわば、音楽の足し算引き算を学んだんだ。」「監督の作品は計算され尽くしていて、当時若手だった私の、よき先生だった。」

  「彼は音楽の力を信じているのだ。俳優の力と同じようにね。」

 

  ウィルアムズは、おそらく当時の経験で最適と思う作曲をおこなったのでしょう。しかし、映像に追随し、説明するだけの蛇足もあったのだ。

 

  アニメの演出でも全く同じことが言えます。シナリオを説明するだけの絵コンテはつまらない。シナリオと同一線上で加えられたアイディアは、蛇足になってしまうことがままあります。

 

 

 ボクは20代の時、トリュフォーとの対談本『映画術』を読んで、序文の一節に驚いた。

  「この視覚的な明快さを獲得するために、ヒッチコックはすべてを単純化してしまい、それゆえに子供だましの幼稚なシチュエーションしか描けないのではないかといった批判もあるのだが、それに対して、わたしはすぐさまこう反論しよう。1人あるいは数人の人物の考えをせりふの助けを借りずに完璧に表現できる映画作家はヒッチコックだけである。」

 

  本当にそんな事ができるのか?

  しかし、ヒッチコックの映画を見ていくと、確かにできている。「セリフの助けを借りないで」というのは、せりふが不要というのではない。音楽で言えば対位法のように響き合うものなのです。トリュフォーが例にしたように、上流階級の淑女たちの会話の奥で、実は嫉妬や羨望、肉欲や恨みなどが渦巻いている、表と裏のハーモニーなのです。音楽が加わってさらに重層的な響き合いとなる。

  単純化の手前には、人間の心理や場所や時間とのつながりを多角的に観察する「目」が不可欠だ。そうでなければ、単に薄っぺらな表現にしかならない。現実の複雑さ、不確実さを認識した上で一旦単純化し、映像と音響によって再構築する。まさに、30段にも及ぶオーケストラスコアで一つの音楽が奏でられるのに似ているのです。

  インタビューに答えている俳優や現場スタッフの知性の深さ、感性の鋭さには背筋が伸びる思いがする。こうでなくては、と。

 

  『ファミリー・プロット』はヒッチコックの50本以上の作品の中でも、軽い調子のもの。

 

  サントラを買ってから改めて観てみましたが、『マーニー』以降の緊張感の緩みがかなり改善されている。冷戦期のスパイ物など気乗りしない作品に疲れ、イギリス時代のような軽いタッチの作品を撮りたかったのかもしれない。映画を楽しんでいる感じがします。

 

  全編にセックスの暗喩が散りばめられているのも興味深い。

  なんてったって、ファミリーはセックスで増えるのですから。

 

 

  今回見て気がついたのは、ラストカットの不思議な浮遊感でした。

  ブランチがカメラに向かってウインクする印象的な終幕。

  大粒のダイヤの隠し場所を当てたのを見て、ジョージが「君は本物の超能力者だ!」と驚きます。警察に電話しに行った彼を尻目にゆったりと階段に腰を下ろし、こちらに向かってウインクをしてニッコリと笑う。この、何か超然とした感じがかわいらしいのと同時に怖くもある。

 

  壮大なテーマなんか何もない映画ですが時々観たくなる。最後のウインクに出会うために。

 

『ファミリー・プロット』

https://www.amazon.co.jp/dp/B00AZQZ4DW/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_U_wo.YEb7ZR4YKE

 

 

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  国民を守るための「真水100兆円」令和2年度第2次補正予算編成に向けた提言

https://nihonm.jp/post_article/mamizu100chouen20200501

 

■新型コロナウイルス感染症の感染拡大を全力で防ぐと共に、コロナショック以前の国民生活、雇用、経済力、及び生産能力を維持すること。

 

■補正予算の規模は機動的な財政出動を実現するため「真水で100兆円」の枠を設定し、財源は全額国債を充てること。

 

(1) 「持続化給付金」の大幅拡充 【50兆円】

(2) 中小企業に対する政府保証による資本注入 【10兆円】

(3) 国民の命を守る砦である医療・介護の現場への支援 【5兆円】

(4) 地方公共団体への臨時交付金等の大型追加交付 【5兆円】

(5) 「特別定額給付金」の複数回追加給付 【26兆円】

(6) 「高等教育就学支援制度」の拡充 【1兆円】

(7) 公務員の積極的採用

 

*なお、アフターコロナを見据え、経済のV字回復を達成するため、「消費税0%」による国を挙げた消費喚起の実現についても、タブー視せずに積極的に検討すること。また、経済が一定水準に回復するまでは、増税しないこと。経済の回復後、その時の経済状況や社会状況を鑑みて、財政の重要な役割である所得の再分配機能を果たすために税制(消費税のあり方、法人税のあり方、所得税の累進課税のあり方等)を見直すこと。

 

 

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