「走り」がひと段落しましたので、
久しぶりに、フィクションを更新します。
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大作と詩音が
チベットのニンティにあるアランの研究所に来て二日目。
事務所兼宿舎は全館、セントラル・ヒーティングで居心地は良いの
だが、
何やら、夜中にアラン所長の寝室で話し声が聞こえて二人とも熟睡
できずにいた。
一夜明けた朝一番に、大作はアランに聞いてみた。
大作
「あのう~、所長ここには我々3人しかいないんだよね?俺達二
人がくるまでは、アンタ一人だけって聞いてたが・・・、
夜中にアンタの寝室から話し声が聞こえたんだが?」
詩音
「私の部屋にも聞こえたわ。気になって眠れなかったわよ!」
アラン
「おお、そうか。話していなかったね。お二人さんには、ゆっく
り休んでもらって話そうと思っていたんだよ。」
アランはいつも持っている錆びついた星座早見盤をグルグル手で回
しながらニヤニヤしながら話を進めた。
アラン
「実は、私の部屋にはAI(人工知能)を据え付けているのだ。
名前は ゛ファイノイマン "君だ。
アメリカの天才物理学者のファインマンと、同じくアメリカの
20世紀最重要科学者と言われた数学者フォン・ノイマンから
名付けたんだよ。
最新鋭のAIでね、ディープラーニング(深層学習)機能によ
り自ら学習していく能力があるんだ。スゴイよ~!
ソイツ(AI)と毎晩話をして研究の道筋を立てているのだ。
なんせ、世界中の生物学、地質学、素粒子物理学、遺伝学など
の学術論文を日夜全て学習しまくっているんだからな。最高に
頼りになる相棒だよ!!」
大作
「えっ!!最新鋭のAI!?」
にわかに大作の目が輝き始めた。SEの大作にとっては興味津々な
話なのだ。
アラン
「そうだよ。君にはこのAIのメンテナンスも重要な仕事となる。
SEをやってると聞いているから適任と思うが。」
大作
「ラジャーです。ありがたき幸せ!SE魂をそそる装置だよ。
腕がなるぜー」
アラン
「ちょっと我がままなヤツなんで手に負えるか心配だが・・・。」
大作
「へっ?我がまま?機械(AI)野郎が??」
アラン
「昨夜は、ワタシがキャビアとフォアグラを食べながらワインを
飲みながらアイツ(AI)と議論していたのだが、
急にアイツが怒り出して、
『俺にもご馳走を食わせろ!お前だけいいことしやがって!
もう勉強(学習)ヤーメタ!』
だって。ちょっと反抗期かな?」
大作
「わかりました。早速味覚センサーを人工頭脳に直結してみます。
それでご馳走を味わせてみてください。きっと上手くいきます
よ。」
詩音
「あ~あ。おもろくないタイクツな話だこと。
だいたいそんな不良AI、役に立たなくてよ!ソフトバンク
のペッパーのほうがまだ気が利く受け答えをすると思うわ!
馬鹿々々しいったら、あ~りゃしない!ちょっと気分直しに
外に出てきます。」
詩音はそう吐き捨てるように言うと、雅魯蔵布江(ヤールザンブ
ジャン)川の方向へと歩いて行った。
遠くの大河のほとりには、色とりどりのタルチョ(祈祷旗)が風
になびいているのが見えた。
(ああっ、なんてとこに来てしまったの?二人は訳のわからない
機械に夢中になって・・・。不気味な建物だし・・・。)
「あなた、土地のひとじゃないわね?」
そこに、ひとりの少女が話しかけてきた。
詩音
「私はそう日本人よ。名前は詩音。あなたは?」
「私の名前はデチェン。この近くの村に住んでいるのよ。」
いかにも農村の娘という地味で薄汚い恰好の娘だが、猫を思わせ
る目で瞳の奥底まで見透かす眼差しに詩音はドキっとした。
デチェン
「あの古城にいるの?」
詩音
「そうよ。今は生命科学研究所よ。それがなにか?」
デチェン
「あのお城は昔、妖魔が住んでいて村人を襲っていたっていう
伝説があるの。よくそんな所に住む気になったわね。
それに・・・、
研究所って、あのアランていうおじさん、変人で行き場がなく
って独りここで怪しい研究をしているって話よ。
なんでも、人類の潜在意識にスフィンクスホロスコープが埋め
込まれているんだって。二つの軸がなんとか、かんとかって言
って・・・。
気味悪がって村人たちは深くは付き合わないようにしてる。」
詩音
「スフィンクスホロスコープって?二つの軸??まだこっち来て
二日目なの。ごめんなさい。よくわからないわ。
それに、会社の辞令でとばされてきたの。好むと好まざるに関
わらなくね。
しかし、そんな評判の良くない研究所だったのかぁ~。
テンション下がる----------。」
デチェン
「知ってる?この雅魯蔵布江(ヤールザンブジャン)川のほとり
には、夜明樹の森があるのよ。
夜光樹の一種で夜その木々の下に寝そべって満点の星と一緒に
見ると、風に夜明樹の光る実がそよいで、まるで銀河のなかを
泳いでいる気分になるのよ。」
Source:http://blog.hangame.co.jp/W180924758/article/40483805/
詩音
「へえ~、なんてロマンチックなの!!ここにはいっぱい不思議な
ものがあるのね~。
ねえ、今度一緒に見ようよ!あの二人のさえない男らとばかり話
してると気が滅入っちゃいそうで・・・。」
デチェン
「いいわ。夜だからちゃんと外出許可をもらわないとね。外国人は
まだ監視が厳しいの。私が保証人になってあげるからね。」
詩音
「ありがとう。いい友達ができてよかったわ。」
詩音は相変わらず風になびいているタルチョ(祈祷旗)を眺めながら
言った。
Source:http://www.peoplechina.com.cn/home/second/2008-05/30/content_124033.htm
振り向くともう少女はいなかった。
この記事は フィクションです
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