大堀相馬焼コラム

きっと馬九いく!大堀相馬焼は浪江のみなさんと共に(2) 和泉亘さん

第2回:和泉亘(いずみ・わたる)さん
ゲストハウスあおた荘管理人、「なみとも」副代表

浪江町大堀地区に受け継がれてきた伝統工芸品「大堀相馬焼」。日常使いだけでなく、左馬(右に出るものがいない)、九頭馬(馬九行久=うまくいく)の絵柄は、縁起物として開店祝いなどの贈答にも用いられ、喜ばれてきました。このシリーズでは、少しずつ活気を取り戻しつつある浪江町でお店を再開したり事業を開始したりしているみなさんをお訪ねし、抱負を伺います。

今回は、町外から浪江町に移り住み、集会場兼ゲストハウス「あおた荘」を開業するなど、その活動が注目を集める和泉亘さんをご紹介します。

和泉さんとそうちゃん

2018年2月、あおた荘、始動

和泉亘さんは白河市生まれの26歳。2017年3月末の浪江町の一部避難指示解除とともに町に通い始め、今年2月には正式に移住して、集会場兼ゲストハウス「あおた荘」をオープンさせました。

取材の日、浪江町役場からほど近いあおた荘の門を入ると、玄関横のテラスからワンワンという鳴き声が。あおた荘の看板犬、そうちゃんのお出迎えです。そうちゃんは、高齢のため飼えなくなった飼い主から和泉さんが引き取った4歳の柴犬で、今では来訪者にもすっかり人気者だとか。

あおた荘玄関

そんな心優しい和泉さんは、そうちゃんとともにあおた荘に住み込み、同じく町外からの移住組である小林奈保子さんと共同で、この集会場兼ゲストハウスを管理しています。まだ正式に宿泊施設としては営業していませんが、すでに多くの町民のみならず、ボランティア活動や視察などで町外から来た人たちも気軽に立ち寄り、ご飯を食べたり集会をしたりする場所として利用しているそうです。お話を伺った食堂の壁には、「あおた荘でヨガ」というポスターもありました!

避難指示が一部解除された浪江町内は、少しずつ飲食店なども増え、来訪者向けの宿泊所や集会施設なども整備されつつありますが、震災前と比べるとまだまだの状態。そんな中、「あおた荘」の存在意義は大きく、和泉さん・小林さんという若い管理人2人に惹きつけられて、内外から若者が集まる場所になっているといいます。

ところで、なぜ「あおた」なのかというと…?

「ここは震災前、青田さんという方が『青田下宿』という宿舎を営んでおられた建物なんです。僕は浪江の避難指示解除のすぐ後から、町内で拠点となる場所を探していました。最初はなかなか見つからなかったんですが、たまたまご縁があってこの場所をお借りできることになりました」

なるほど。しかしそもそも、浪江町とは縁もゆかりもなかった和泉さんが、なぜこんなことを始める気になったのでしょうか?

やっぱり拠点が必要だ

「僕は浪江に来る前、あるNPOに勤めていて、被災者向けの復興公営住宅におけるコミュニティづくりをお手伝いしていました。担当していた地域の公営住宅はほとんどが浪江の方で、そこで皆さんと交流しているうち、自然と浪江に興味がわいてきたんです。その仕事に就くまでは、実は浪江町がどこにあるかもよく知らなかったんですけど(笑)」

そして避難指示解除が具体的に見えてくると、「戻りたいけど戻れない」という町民の皆さんの苦しい胸の内を知ることに。

「みんな、本当は戻りたい。でもいろんな理由があって戻れない人も多い。じゃあ、自由に動ける自分が町に行って、何かできることはないかと考え始めました。それで、解除されてからは毎週末浪江に通い、ボランティア活動に参加して、全国から集まる若いボランティアと一緒に庭木伐採などをやりながら、何が必要かを考えているうち、やっぱり拠点が必要だと。人が集まって話せる場所がないと、何も生まれないな、と感じたんです。そこで、誰でも気軽に集まってお茶が飲めるような、遅くなったら泊まってもいいような集会所兼ゲストハウスを作ろうと考えました」

その構想が、約1年後に「あおた荘」として実現したのです。

6年以上手つかずだった青田下宿の大掃除には、延べ50名以上がボランティア参加。また備品類などはクラウドファンディングで資金調達したところ、あっという間に目標額に到達したといいます。和泉さんたちの人柄と熱意が伝わるエピソードではないでしょうか。

浪江に若者を呼び込みたい!

これからの抱負を伺いました。

「拠点ができたいま、次は浪江に興味を持ってくれた若者を受け入れる窓口になりたいと思っています。そのために『なみとも』という任意団体を立ち上げました。すでにサロンやイベントなども実施していますが、これからもっと楽しいことを企画して若い人たちを呼び込み、つなげていきたい。将来は法人格を取得して、移住定住の促進に関わる事業をやっていきたいですね」

そして、移住者のための生業づくりを視野に入れ、町内で畑を借り、農産物の生産も始めたといいます。

そんな頼もしい和泉さんには、「あおた荘」と「なみとも」の出発をお祝いして、縁起物の左馬の夫婦湯呑みをプレゼントしました。こちらは、福島市飯坂町で再開している京月窯の作品です。

京月窯の湯呑

実は和泉さん、京月窯とはご縁があるのだそう。

「復興公営住宅でコミュニティ交流員をしていたとき、大堀相馬焼の窯元さんに避難先から集会所に出張してもらって、何回も陶芸教室を開催したんですよ。中でも、京月窯の近藤京子さんにはお世話になりました。だからこのお祝いはほんとにうれしい!それにこの馬の絵、とってもかわいいですね」

和泉さん

ちなみに、あおた荘の食堂の食器棚にもさすが、数々の大堀相馬焼が。

「青田下宿時代から残っていたものもありますし、店を解体するという町内の陶器店さんからいただいた相馬焼の立派なお皿もありますよ。ほとんどが頂きものです」

こうして大堀相馬焼がつなぐご縁とともに、あおた荘という拠点から広がるご縁が浪江の復興を後押しすることをお祈りします。

(取材・文・写真 = 中川雅美 2018年6月)

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