「拮抗」と「連動」 | 馬術稽古研究会

馬術稽古研究会

従来の競技馬術にとらわれない、オルタナティブな乗馬の楽しみ方として、身体の動きそのものに着目した「馬術の稽古法」を研究しています。

ご意見ご要望、御質問など、コメント大歓迎です。


  
 


  皆さんは、例えば日常生活で何か重い物を持ち上げるような場合に、自分がどのように身体を使っているか、意識したことはあるでしょうか?

  
  その動作の様子を分析してみると、

・手を重量物に掛け、肘を屈曲させるようにして引きつける
・足を地面に踏ん張り、股関節や膝、足首を伸展させて伸び上がるようにして持ち上げる

というような要素があるわけですが、


身体の使い方によってこれらが同時になって、腕と足の力が互いにぶつかり、拮抗し合うような形になると、

手足や体幹部の筋肉や関節、背骨などにストレスがかかり、故障の原因になったりします。



  乗馬で言えば、例えば馬装で腹帯を締めようとする際、

初心者の方なとでは、腹帯の託革を握って引き上げようと肩や腕の筋肉に力を込めながら、同時に腰を反らし、背伸びをするような感じで爪先立ちながら頑張っているような姿をよく見かけますが、

そうすると、託革を引っ張りあげようとする上体の力と、伸びあがろとする下半身の力とがぶつかり合うことになり、
手が滑ったりして思うように締めることが出来なかったり、力んだ拍子に二の腕や肩、背中や腰、ふくらはぎなどを傷めてしまったりします。

  
  重い物を持ち上げるときには、いきなり足で地面を蹴って腰を浮かせながら腕力で引き上げるのではなく、
荷物の重心の下に自分の支点となる足をなるべく近づけてから、
一旦膝を抜くようにして腰を落として相対的に荷物の重心を浮かせたところで腕で引きつけ、腰に載せるようにしてから、下半身の力で支えながら持ち上げるようにした方が楽になります。


 

腹帯を締める場合でも、

片手に託革を握ったら、もう片方の手で余っている別の託革を握って下に引っ張りながら一旦膝を曲げて腰を低く落としてから、

腕を突っ張るような感じで下半身の力を使って託革を引き上げていくと、楽に締めることが出来ます。





  身体に負担をかけず、上手に力を伝えて仕事をするためには、

やみくもに全身の筋肉に同時に力を入れるのではなく、仕事を効率よくこなすための動きを考え、
その流れに沿ってそれぞれの部位をタイミングよく連動させながら働かせてやることが大切なのです。

  

  といっても、複数の筋肉が同時に働いて拮抗することは、決して悪いことばかりではありません。


 例えば、上の動画のように人を抱え上げる場合、普通に手の平を相手の身体に向けて抱えるのではなく、指の形を「影絵のキツネ」のような形や、「旋段の手」の言われるような形にして、

  手の甲側と掌側の筋肉を拮抗させながら、手の甲側を相手に向けて抱えるようにすると、

手先が働き過ぎるのを抑え、肩が上がってしまうようなこともなく、全身の筋肉を協調、連動させやすくなります。

  一つの動きに関わる筋肉互いに拮抗しながら同時に働いてくれることで、微妙な力加減や、一つの筋肉だけでなく、そこに繋がっている複数の筋肉群を連動させた、精妙な動きを実現できるのです。

しかし、精神的な緊張や、過度な筋力トレーニング、身体操作についての誤った意識によって、
こうした筋肉どうしの連動の順序やバランスが崩れたりすると、
身体の平衡を保つことが難しくなったり、身体を傷めてしまうことになったりします。


 こうした傾向は、普段運動しない方だけでなく、体力に自信のあるスポーツマンタイプの方にも多くみられるような気がします。

 そういった方というのは、ストイックで意思が強く、指導者に言われた通りに、力んで汗をかいて頑張ること自体に充実感を覚えるような方が少なくなく、

また、ウエイトトレーニングなどを繰り返すことで、特定の部位を強く意識しながら負荷をかけて筋肉を鍛えようとするような、本来の目的とは異なる身体操作の感覚が染み付いてしまっているからなのかもしれません。

  

  まるで「ワンマン社長」が威張っているように、脳の意識によっ作った不自然な動きによって安易に身体を操作しようとしたり、



あるいは、「出しゃばり社員」のように、特定の筋肉が、俺が俺が、と突出して働くことで、




同じ筋肉群内、あるいは拮抗する筋肉群どうしの働きのバランスが崩れ、全体の協調性が失われてしまうわけです。



 上手な動きのためには、単一の筋肉だけを鍛えて強く働かせようとするのではなく、互いに連動、拮抗する筋肉群の働きのバランス、といったことを感じながら動くことが大切なようです。

  
  乗馬で言えば、例えば馬の頭の動きを妨げないように拳を随伴させながら、同時に手綱のコンタクトを保ち、方向やスピードのコントロールするためには、

腕を伸ばして前に随伴させるための筋肉と、馬の口にハミをかけ、手綱に張りをもたせるための筋肉とを同時に働かせながら動作を行う必要があります。



  駈歩や正反撞で腰を随伴させるような場合にも、上手な人は(意識的かどうかは別として)重心を前に移動させるための力とともに、その動きにブレーキをかけるような力も同時使うことによって、動きの大きさやスピードを調整しながら動いているように見えますし、

脚で馬を圧迫するような場合でも、 
ただ座ったまま内股の筋肉に力を入れて挟みつけようとするのではなく、

相撲の「蹲踞(そんきょ)」のようなイメージで股関節を開いて膝をやや外に向け、鐙に載せた足先で体重を支えて、馬の背中の動きを妨げないように随伴しながら圧迫しようとすることで、

踵が少し浮いて、踵の内側辺りが馬の方へ向いた、馬体に触れやすい形になるとともに、
太腿やふくらはぎの筋肉が緊張して拮抗し、膝や足首の関節の遊びが少なくなることで、馬体に力が伝わりやすくなります。




  何気なく指でものをつまむとか、コップを持ち上げる、といった日常的な動作を行う際にも、
筋肉の「拮抗」や「連動」は結構使われているものですから、

そういったことをちょっと意識してみることで、新たな発見があるかもしれません。




  「筋肉の拮抗」の例〜「虎拉(ひし)ぎ」
  (2:05くらい〜)