もうだめかもしれない。

大丈夫ですかと聞かれたら、はい大丈夫ですと言うタイプの人間です。

手芸と飴

家に帰ると妻が何やら紙を見せてきた。

「これ見て」

信販売のDMらしき文章。紙の左上の方にホチキスの跡がある。
どうやらここに何かがついていたらしい。

妻の手には透明な包み紙のようなものが握られている。

「実はさ、ネットで生地買ったらこの紙がいっしょに入っててね、飴がくっついてたわけよ。
で、それを食べたらみたらしみたいな味がしてすげえうめえなって。だからこの飴買おうと思う」

と興奮気味に話し始めた。

妻は手芸を趣味でやっている。よくネット通販で生地を買っているのだが、その中のひとつのお店で生地と一緒に
飴をサービスでくっつけてくれていたらしい。
DMの文章をよく読むと、手芸に疲れた時には甘いものでも、ということらしい。

そんなにうまいのか、と早速検索してみると、Amazonで高評価である。
複数セットだが、それほど高い金額ではない。

Amazonでも売ってるよ!」

というと

「ほんと?買お」

と自分でも検索し始めた。

しばらくしてミシンをかけている妻に
「買った?」
と聴きに行くと
「買った」
というので、
「買えてよかったじゃん」
というと、何やら様子がおかしい。

「私、手芸して飴買って…もうやってることおばあさんだよ…」

そう言ってうなだれるので笑ってしまった。

「ほんとだね、ババアだババア」
「おまえもジジイだろ」

と言い合った後、妻が「やっぱりあの生地屋、つながってた」というので聞いてみると、なんと生地屋で飴も買えるようになっていたのだという。じゃああのDMただの宣伝じゃねえか。ところが、Amazonと比較してもお得だったので、生地屋で飴を買ったのだという。無料の飴1個で、見事に新たな客を獲得したというわけだ。生地を買った客に飴を売るーなんとも商売上手な生地屋の手腕を見せつけられてしまった。

とにもかくにも、我々は中年期・壮年期を飛び越して、老年期に入りつつある。

妻は飴を舐めながら、今日も手芸に勤しむ。