彼女の踏み方 | 天使の刻印 - 葉桜夏樹 Blog

彼女の踏み方は「踏まれたかったのでしょ? それもこのピンヒールで」とでも言いたげだった。遠慮はなかった。ふつうであれば前のめりに本底に体重を集め、怖々と踏む彼女だったが、今夜は違った。壁に手をそえ、背筋ををまっすぐにして、思いきりヒールに体重を乗せ、背を踏みまわる。アイスピックのような二つのヒールに全体重を込めている。


ヒールの下は、その強烈な踏圧を受け、皮膚の細胞は死滅しているに違いなかった。痛いというより、燃えている感覚だった。火傷したようにヒールの下だけが熱かった。彼女が背を一歩踏むたびにそれが増える。火がついたように熱くなる。ピンヒールは背中と臀部をこれでもかというほど踏みつける。


右の太もも裏を踵が刺した。刺したままそこに踏圧を注ぎ込んだ。すると太ももが痙攣(けいれん)をおこした。全身の筋肉が硬直した。それでも踵の先をかまわず注射針のように筋肉に突き刺した。やはり、このヒールは別物だ。それまでの彼女の靴とは違う。命がけになる。このまま踏み続けられたら、と死を意識する。(下書き原稿)

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