子どもの頃から遠距離系ミステリーが好きだ。


2時間ドラマとかでよく見る、観光地で殺人事件が起きるやつ。

温泉地系が好きで、「金田一少年の事件簿」や「名探偵コナン」などでもよくある「湯けむり◯◯殺人事件」みたいなのがお気に入りだった。

 

……殺人事件が好きなんじゃなく観光地殺人事件という非日常の爆盛り状態が楽しかった。そしてトリックがだいたい難解で全然犯人がわからず、コナンや金田一のトリックの解き方に「こんなのわかるかよぉ〜〜!!」といちいち難癖をつけながら楽しんでいた。

 

難癖をつけつつも、つい観ちゃう。

ミステリーは牛丼だ」というブログを書いたがミステリーはそれぐらいやみつきになる危険な存在だ。

しかしミステリーをいざ作ってみようと思うと、牛丼ほどシンプルにできない。ものすごく複雑で細かい設計図をきちんと作り上げないと旨味が出ない。ミステリー作品に触れるたびにわたしは「よくこんなこと思いつくよなぁ……」と感心してしまう。

 

松本清張『点と線』は北海道帰省のお供に読んだ一冊。

物語のはじまりは九州の海岸だ。

 

九州のとある海岸で、浜辺に横たわっている男女の死体が発見される。死因は青酸カリを飲んだことによる中毒死で、警察はふたりが九州まで駆け落ちした末に心中したと判断。

 

けれどふたりの身元や関係性を調べるうちにこのふたりの心中には不自然な点がいくつもあり不審に思った刑事が捜査を進めていくのだが、手がかりがまったく見つからない。

捜査の末にひとりの怪しい人物が浮かび上がったのだが、彼は犯行時刻になんと北海道に出張中だった。アリバイも完璧で、彼の犯行にするにはどうにも無理がある。

 

どうにも繋がらなさそうな九州と北海道という「点」をいかにして一本の「線」に結ぶのか……という物語なのだが、案の定トリックは読み終わるまでまったくわかりませんでした。笑

 

初出は1958年。当時は新幹線が通っていなかったため東京から博多まで寝台特急で半日以上かけて向かうのが主流で、犯人とおぼしき人物がどうやって九州から札幌までワープしたのか!? というところの謎の解明が物語のキモだ。

 

実際の寝台特急「あさかぜ」の時刻表をもとにしてつくられたトリックはかなりマニアックで「このトリックは不自然だ」と発表後に物議をかもしたこともあったらしい(ネット調べ)

 

トリックはもちろんのこと、キャラクターの描き方が巧みで「まさかこれが伏線だったなんて……!!」と驚きっぱなしだった。トリックを思いついたときにはものすごくワクワクしたんだろうなぁ、すごいなぁという感想ばかり浮かんだ。

 

著者の松本清張の人生をたどると、文学への挫折の歴史が垣間見える。

プロフィール文には「朝日新聞西部本社に入社」という一文があり、社会派推理小説を書いたのは新聞記者だったからか! と思っていたが朝日新聞では印刷や広告などの部署におり、新聞記者の経験はなかった。さらに戦争があったため、創作できる環境に身を置くことがずっとできなかったのだ。処女作を書いたのは41歳の頃で、それも終戦直後の生活苦のために書いたという。

 

『点と線』『砂の器』などベストセラーになり、いまでこそ偉大な作家として名を残しているが、松本清張はそれまでに想像もできないほどの辛酸を舐めてきた。


処女作で直木賞候補になり、その後芥川賞受賞を経て推理小説、時代小説作家へと歩を進めていくのだが、著者の創作意欲の源泉は書けなかった時期に培われたのだろうか……とつい想像してしまう。


わたしももっと頑張らないとな、と思わずにはいられない。自分の環境を振り返り、ヒヤリとさせられた作品と人物だった。