本作は、原田マハ作品には珍しい「美術じゃない」小説です。
『楽園のカンヴァス』他、多くの美術ミステリー小説を書かれている原田マハさんですが、心をゆるやかにほぐすような、ホッとする作品も書かれているんです。
『ハグとナガラ』は、大学時代の同級生であるふたりが、十数年の時を経て再会し、ふたり旅を繰り返しながら人生の疲れを癒すリフレッシュ小説です。
ハグは大手広告代理店に勤め、仕事も家庭も諦めないバリバリのキャリアウーマンを目指していましたが、結婚目前の彼から振られたことで人生設計が一転。
だんだんと上手くいかないことが増え、ついには職場も退職してしまうことになり、ハグはどん底状態に陥ります。
そんなハグの窮地を救ったのが、ナガラからの一通のメール。
「一緒に行こう。旅に出よう。
人生を、もっと足掻こう。」(20頁)
その言葉にハグは力をもらい、ナガラとのふたり旅の習慣がはじまったのでした。
彼女たちは、全国47都道府県を制覇する勢いで各地に訪れ、のんびりゆったりくつろぎます。
ふたりはこの旅をごほうびに仕事を頑張ることにし、定期的に旅の予定を入れては仕事にはげみ、そして旅先での食、文化、温泉、自然などを味わい尽くすのでした。
この物語を読んでいると、日本はすごく良いところだなぁ・・と再認識することができます。
ちょうどGoToトラベルキャンペーンが全国的にはじまったこともあり、わたしも「どこに行こうかなぁ」と検索していたところだったので、ハグとナガラのような、身体も心もほぐれ、くつろげるリフレッシュ旅がしたい!!と心から思いました。
この物語は連作短編集で、ハグとナガラは40代、50代となっても変わらずふたり旅を続けます。
年を重ねてふたりが直面するのは、親の介護問題。
介護に神経を使い、またいつまでも元気だと思っていた親の変化に思った以上の精神的ダメージがあり、どんどん心が消耗していきます。
家を空けることも今まで以上に難しくなり、ふたり旅が遠ざかってしまうのですが、それでもふたりの心にはいつまでも旅を望む気持ちがあり、ハグはしばしば「人生を、もっと足掻こう」という言葉を思い出すのでした……。
ゆる~く続くふたり旅の様子に読みながら穏やかな気持ちになり、親の介護問題のシーンでは将来自分もこんな気持ちになるのではないか、と思い、泣きそうになりながら読みました……。
ハグもナガラも、たくさんの思うようにいかないことがありながら、その中で一生懸命に人生を歩んでいます。
一生懸命だからこそ、余裕をなくし、消耗し、疲れ果ててしまいます。
疲れ果てたふたりに、旅の力がどれだけ染み入ったことでしょう。
コロナ禍という誰もが予想しなかった年。
上手くいかないことだらけで疲れ果ててしまった人に、ぜひおすすめしたい一冊です。
GoTo先で読むのも良いかもしれません。
疲れた心にするりと染み込む素敵な一冊でした。
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