憲法議論とか法律議論はとかく面倒事が多い
石破氏、首相の改憲姿勢を批判 早期の9条改正に消極的(朝日)
9月の自民党総裁選に立候補を表明している石破茂・元幹事長は17日、憲法をテーマにした記者会見を国会内で開いた。安倍晋三首相が次の国会に自民党の憲法改正案を提出する考えを示したことについて「スケジュール感ありきでやるものではない」と批判。早期の9条改正に消極姿勢を示した。(後略)
今週の国会にて安倍総理は改憲案を提出する考えだそうです。
まあ立場的な改憲、護憲などは置いておいて、実際に9条に3項を追加する、自衛隊を明文化するとはどういうことなのか?から明らかにして、そして民主政治についても少々検討してみたいと思います。
まずその前に9条全文を一応掲載。
(Wikiより。数字は書いてあったほうがわかりやすいので付け加えました。)
さて9条3項は現在のところは明確な文章が出てきておりませんけれども、安倍総理によると「自衛隊の明記」であり、憲法9条3項に「自衛権」を明記 有志が提案へ(毎日)によると以下のような条文が提案されているのだそうです。
「前2項の規定は、自衛権の発動を妨げない。」
「前2項の規定は、我が国の存立や国民の生命、財産を守る自衛権の発動を妨げない。」
はい、一度まとめましょう。9条は簡単に言えば「1)戦争を放棄する!2)そのために戦力を持たないし、国の交戦権も認めない!」となるわけです。じゃあここに3項を追加してみましょう。
「1)戦争を放棄する!2)そのために戦力を持たないし、国の交戦権も認めない!3)しかし自衛権は持ってるし、だから自衛隊も必要なんだぉ?」と意訳するとなります。
そうですね。2)と3)がほとんど矛盾してるんですよ。
ここで「後法優先の原則」という概念が出てきます。要するに「先に作ってあった法律と、後に作った法律が矛盾する場合は、後に作った法律が優先されるよ」という法概念です。
つまり超簡単にいえば、3項を作ることによって2項(およびもしかしたら1項)を無力化してしまおうというのが、安倍総理改憲プランというわけです。
これが今回の改憲内容の本質と思ってもらって結構だと思います。
まずこの改憲案は建前上は「9条は変えないけど、頑張っている自衛隊のことを明記するだけだよ?」という話になることは、欺瞞的といえば欺瞞的でしょう。9条改正を真正面から掲げて国民の信を問うわけではなく、あくまで建前上は「自衛隊違憲議論は、自衛隊がかわいそう!」という感情論をかぶせているわけです。
うん、これはかなり(大半)の人が本質に気が付かず、理解せず国民投票を迎えることになるでしょうね。
いや、これを外交的に他国にカマすんだったら「お、すげーな!やりよる!」と思えるんですけど、詐術を仕掛ける対象が国民だとねぇ・・・。ちょっとどーなのよ?となります。
詐術によって戦後レジームが脱却できるのか?という問いにもなるでしょう。戦後レジームとは「日本国民が現実から目を背け続けてきた結果」ですから、それを詐術によって現実に引き戻せるのか?問うだけバカバカしいでしょう。
ある意味で「敗戦→終戦」として終戦記念日などと祝日にし、「占領軍→進駐軍」としてマッカーサー元帥が帰国するときにはメディアまでこぞって惜しんだという「現実逃避の詐術的言葉とテクニック」と「同質かつほとんど同義」の政治術によって改憲を果たそうとするわけです。
超ウケル!ないし、なんじゃそら?しか言葉が出てこないでしょ?
上述したような問題も存在はするのですが、ようするに自衛隊が軍隊として解釈可能になるという可能性も当然大きい。その面に関しては右派の念願が叶うという面もあります。
ただし、忘れてはいけないのは「もし国民投票で否決されれば、あと数十年は改憲ができない可能性がある」というリスク。
ま、政治術としては2020年のオリンピックを大いに盛り上げて、そこにつけ込んで国民投票を実施するというのが妥当なところでしょう。否が応でもオリンピックで気分が高揚し、ある種のナショナリズムが高まるので通る可能性も高まるし、私が安倍総理ならまず間違いなくそのようにスケジューリングします。
時期としてはオリンピックの直前とかね。
民主政治的にはどーなのよ?
私は自衛隊を軍隊にしろ派ですから、自衛隊法の改正などは大賛成です。さっさとネガティブリスト方式にしてしまったらよろしいと思うのですね。
憲法改正についてはぶっちゃけ中立的です。改憲でもないし、護憲でもない。強いて言えば不成文憲法支持者だったりします。イギリスのような。
改憲するなら改憲でいいのですが、ただしその改憲は民主政治の「正当な手続き」を経てほしいと願っております。民主政治における正当な手続きとはなにか?多数決とか答えるバカは黙っておいてください(笑)
民主政治における正当な手続きとは熟議そのものであります。改憲派、護憲派等々が議論しあってもはや議題・議論・反論が出尽くした、という段になってはじめて投票なり決議なりするようにしていただきたいわけですね。
では今回の安倍総理および自民党が出すであろう3項の加憲は、熟議に耐えうるのか?上述してきたように安倍総理のこの3項加憲は政治テクニックと目くらまし満載のもので、はっきり言うと護憲派の不信感を煽るだけのものであろうと思われます。
とすると改憲派はひたすら体裁、つまり「自衛隊を憲法に明記するだけじゃん!現状を追認するだけじゃん!」と延べ、護憲派は「後法優先の原則で2項を無力化しようとしているのではないか!?」と質問するでしょうが、はぐらかされることは請け合い。
つまり最初から議論にならない、議論を噛み合わせない可能性の高い構造なのですね。
簡単に表現すれば、詐術をしかけられて「それは詐術なのではないか?!」「いえいえ、本当ですってば」という空疎な議論にしかならない論理構造を最初から持っているわけです。
間違っても「我が国の現状はこうであり、抑止力として某が求められ、よって憲法はこう改正されるべきだ」なんて通常の議論にはなりえない。
ということでもし改憲に至るとしても、それはまさに空疎で虚無的な、意味のない議論を経ての「何が何やらわからぬまま改憲」となると予測します。こうして戦後レジームはまた1つ強化されるのでありました。
えっ?民主政治的にどうなのよって?そんなの答えるまでもないでしょう?
改憲世論を減少させた安倍政権という間抜け
昨今の憲法改正の世論調査では、改憲と護憲はほとんど拮抗しているようです。
憲法に関する意識調査2018(NHK)によると「必要」が29%、「必要ない」が27%、「どちらともいえない」が39%となっております。
ちなみに以下は2016年放送のNHKの画像。
平成25年は2013年ですから、上から2016、2015、2014、2013、2007となっているわけですね。ええ、面白いことに安倍政権誕生は2012年末ですから安倍政権になってから「改憲が世論から減少し、護憲が増加した」のですよ(笑)
「どちらともいえない」は2018年現在39%、2013年も39%と殆ど変わりがありません。つまり?
上記の推移から導き出される結論は1つで、安倍総理になった2013年には安倍政権の評価が定まっていなかったけど、2014年から安倍総理は改憲派からの信頼を失い、むしろ「安倍政権のもとで改憲は反対」となった可能性が高いというわけです。
もともと4割強いた改憲派を3割弱にまで減少させる安倍政権への不信、これは相当ひどいと言わざるを得ないでしょう。もっともそれは安倍総理自身が招いたことであるのは間違いありませんけれども。
「改憲する!」といって改憲世論を減少させる安倍総理は、本当に半端ねえっすわ。
「政治は結果©安倍総理」ですので、改憲世論を減少させた安倍政権を、安倍支持者および改憲派は批判しなけりゃならないんじゃ?というパラドックス。
この矛盾的なねじれ、これこそ戦後レジームであります!戦後レジームの強化なのであります!
改憲と戦後レジームの関係性についてはまた後日、ゆっくりと。
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